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委託者たる親が認知症になったら家族信託契約を発動させたいのですが?

8月 19, 2016

現段階で信託契約を締結するけれども、まだ委託者たる老親は元気なので、将来認知症などを発症し判断能力低下(喪失)時まで待って、その時に発動させたいというニーズを多く聞きます。

そのJU054_72Aようにお考えになるお客様のお気持ちも十分に理解できますし、理論上もそのように設計することはできます。
しかし、このような「条件付信託契約」は、いくつかの問題をはらみますので、実務上はお勧めしておりません。

下記に2つのポイントに分けてご説明します。

 

(1)法的に問題がある

例えば、そもそも条件成就(判断能力の著しい低下又は喪失)による信託契約の発動を想定した場合、誰がどのようにその条件成就を見極めるのでしょうか?
信託契約発動の客観的なタイミングは、どのように考えれば良いのでしょうか?

「医師の診断が下りた時」ということであれば、主治医に診断書の発行をお願いすることは恣意的にタイミングを操作出来ることになりますので、法的な効力発生日に客観性はなくなります(診断書の中で○月○日に判断応力が喪失したとは記載されることはありませんので)。

似たような考え方に任意後見契約がありますが(ここで任意後見制度についてのご説明は割愛します)、実は任意後見契約の発動と本稿の条件付信託契約では、前提条件が異なると言えます。
任意後見は、あくまで判断応力の低下した人に代わって契約行為や財産管理等をする代理権を任意後見人に付与するものであり、任意後見発動後も被後見人本人は、財産の処分などの契約行為をすることも可能になります。

一方の信託は、信託発動後は、財産の管理処分権限は原則として受託者に移りますので、本人(委託者兼受益者)は、直接財産の処分行為等はできなくなります。

つまり、信託契約がいつから効力発生するか(発動時期)は、法的観点(財産の管理処分権限のある者は誰か等)からみれば非常に重要な問題となるので、客観性のないことや条件成就の解釈が分かれる可能性があることを条件とする契約は、非常に危うく法的に問題があると言えます。

 

(2)実務上に問題がある

まず、信託財産に不動産を入れた場合を考えましょう。
この場合、受託者の住所・氏名を登記簿に記載するための「信託登記」の手続きが必要となります。

この登記手続きは、委託者(老親)と受託者(子)の両者が協力して行う必要があり、実際には、両者から司法書士に依頼をすることになります。
司法書士は、依頼人となる両者に対してきちんとした本人確認(意思確認)をする必要がありますので、もし老親が判断能力を喪失していれば、信託契約が発動したとしても、それに伴う信託登記手続きができなくなる恐れがあります

次に、信託財産に現預金を入れた場合を考えます。
この場合、信託契約の締結後、契約書に記載した「現金」の額を実際に受託者に引き渡す必要があります。
一般的には、老親名義の預貯金口座に入っているお金を払戻して現金として受託者に渡すか、受託者の管理する信託用口座に送金するかの手続きが必要です。

この際に、老親の判断能力が喪失していたり、銀行窓口に行けるような体調でなければ、信託契約書に記載した現金を受託者に渡すことが出来ず、“絵に描いた餅”になってしまいます。

つまり、老親の預金の移動ができなくなる恐れがあります

 

以上のように、判断能力の著しい低下又は喪失を条件とする信託契約は、法律上も実務上もやるべきではないと考えます。

信頼できる相手だからこそ受託者として託す訳ですから、むしろ、委託者(老親)が元気なうちから財産管理を任せてみて、その働きを委託者自身がしっかりと見極めるという考え方がよろしいかと思います。

 

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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