家族信託 ,

家族信託の受託者の義務と責任

6月 5, 2010

民事信託の受託者の義務と責任民事信託・家族信託における受託者の権限は幅広く、信託財産を管理・処分するだけでなく、信託行為の別段の定めにより新たな権利を取得又は借入行為等もできるとされています。
そこで、受託者による権利濫用を防止し、かつ受益者を保護するために、以下のような義務・責任が課せられています。

(1)管理者としての注意義務
(2)忠実義務
(3)分別管理義務
(4)自己執行義務
(5)公平義務
(6)帳簿等の作成等、報告・保存の義務等
(7)損失てん補責任
以下に、上記(1)から(7)の各義務について細かくご説明します。

 

(1)管理者としての注意義務(信託法第29条)

受託者は、信託目的を実現するために、信託の目的に従い、善良なる管理者としての注意義務をもって信託事務を処理しなければなりません。いわゆる「善管注意義務」と呼ばれるものですが、この注意義務の程度は、受託者の職業等個別具体的な事情により異なるとされています。
なお、この義務を信託行為(信託契約書など)において、「自己の財産に対するのと同一の注意義務」まで軽減することは可能ですが、管理者としての注意義務を免除することはできません。

 

(2)忠実義務(信託法第30条)

忠実義務は、受託者が負う各種義務のなかで最も重要なものの一つです。
受託者は、法令及び信託目的に従い、受益者の利益のために、忠実に信託財産を管理・処分等を含む一切の信託事務をしなければなりません。
受益者又は信託財産と受託者との間において、利益が相反・競合する場合は、忠実義務の問題となりますので厳しく制限されています(下記参照下さい)。

【禁止されている利益相反行為】

●信託財産に属する財産を固有財産に帰属させ、又は固有財産に属する財産を信託財産に帰属させる行為(例えば、相続税・贈与税の負担を逃れるためや強制執行を回避するために恣意的に行う自己取引)
●信託財産に属する財産を他の信託財産に帰属させる信託財産間の取引
●信託財産のためにする第三者との行為で、かつその第三者の代理人となって法律行為を行うこと(例えば、信託財産の建物について、そのリフォームを受託者が代表取締役をしている会社が請け負うケース)
●信託財産のためにする第三者との行為で、受託者又はその利害関係人と受益者との利益が反する行為(例えば、受託者の個人的な銀行ローンのために、信託財産を担保提供するケース)
●受託者権限として、信託事務処理できる行為をしないことが受益者利益に反する場合に、固有財産又は受託者の利害関係人の計算でしてはならない競合取引

【許される形式的な利益相反行為】

●信託行為(遺言又は信託契約)に許容する旨の定めがあるとき
●受託者が当該行為について重要な事実を開示して受益者の承諾を得ているとき
●相続その他の包括承継により信託財産に属する財産に係る権利が固有財産に帰属したとき
●信託の目的の達成のために合理的に必要と認められる場合で、受益者の利益を害しないことが明らかなとき、又は信託財産に与える影響、信託目的及び様態、受託者と受益者との実質的な利害関係の状況その他の事情に照らして正当な事由があるとき
利益相反行為は、原則として無効となります。
許される形式的な利益相反行為を行った場合は、信託契約で免除する旨の定めがある場合を除き、受託者は受益者に対し、書面による通知義務があります。

 

また、受託者自らが「贈与者」として信託財産を受益者以外に贈与することは、この忠実義務に違反するとされています。

 

(3)分別管理義務(信託法第34条)

受託者は、信託財産を受託者の固有財産及び他の信託財産とは分別して管理しなければなりません。
別段の定めがあればその方法により管理されますが、信託財産の種別に応じて分別管理の方法が定められています。
分別管理の方法については、信託行為(遺言又は信託契約)で別段の定めを設けることが許容されていますが、信託行為の定めにより信託の登記・登録をする義務を完全に免除することはできません。
(1)登記・登録しなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗できない財産
→ 登記又は登録する(別段の定めにより免除することはできない)
(2)金銭以外の動産
→ 外形上区別できる状態で保管する
(3)金銭その他(2)以外の債権等
→ 帳簿等により計算を明らかにする

 

(4)自己執行義務(信託法第28条)

受託者は、委託者からの信頼に基づき信託財産の管理・処分を託されているため、みだりに他人に代行させず、原則として受託者自らが信託事務を遂行すべきとされています。
但し、信託財産・信託目的の多岐化及び信託設定の柔軟性により、受託者に課せられた信託事務は専門化・多様化していることから、信託行為に第三者への委託を許容する旨の定めがなくても、信託目的に照らし受益者の利益に適う事務処理をするためにやむを得ない事由があるときは、第三者に委託が認められています。

 

(5)公平義務(信託法第33条)

受託者は、受益者が2人以上ある信託において、受益者らのために公平にその職務を行わなければなりません。

 

(6)帳簿等の作成等、報告・保存の義務等(信託法第37条)

受託者は、信託財産に係る帳簿その他の書類を作成しなければなりません。
毎年1回、一定の時期に貸借対照表、損益計算書その他の書類を作成して、その内容について受益者(信託管理人が在る場合には信託管理人)に対して報告しなければなりません。
また、信託に関する書類を、10年間(当該期間内に信託の清算の結了があったときはその日まで)保存しなければならず、受益者の請求に応じて信託に関する書類を閲覧させなければなりません。

 

(7)損失てん補責任(信託法第40条)

受託者がその任務を怠ったことにより、信託財産に損失が生じた場合または変更が生じた場合、受益者の請求により、受託者は、損失のてん補または原状の回復の責任を負います。

 

 

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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