遺産相続手続・遺産整理・遺言執行

換価分割と代償分割の税務 ≪譲渡所得税≫

5月 26, 2011

換価分割と代償分割の税務 ≪譲渡所得税≫相続が発生した際に、故人作成の遺言書が無ければ、相続人全員で遺産分割協議をするのが一般的です。
その際、最も大きな遺産である自宅不動産をどうするかというのが大きな問題となります。

不動産を共同相続人が共有で相続することは、長期的にみて権利関係をかえって複雑にしてしまうケースも多いです。
だからといって、特定の相続人が不動産を単独で相続しても、その不動産評価額に見合うだけの他の遺産(預貯金等)が無い場合、不動産を引継ぐ相続人と不動産以外の遺産を引継ぐ相続人の不公平感を解消するのが困難だからです。

この場合、「換価分割」(不動産を売却して、売却益である金銭を相続人間で分ける方法)や「代償分割」(不動産をもらう代わりにそれに見合う金銭等を他の相続人に交付する方法)を行うことが多いです。
ここでは、具体的なケースを元に換価分割と代償分割の手続の違いとそれに伴う税務的な扱い(譲渡所得に関する課税=所得税+住民税)の違いについてご説明します。

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≪事例設定≫
母親が死亡し、遺されたのは同居していた長女Xと結婚して新居を構えた長男Yの二人(父親は既に他界)。
遺産は自宅不動産(土地及び建物:時価評価額金5,000万円)が主で、預貯金はあまりない。
兄弟間では、遺産の評価額を元に公平に折半しようということで話がまとまった。
なお遺産は、相続税の基礎控除7,000万円以内に収まるので、相続税の申告や納税の心配はない。
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(A) 不動産を売却して、金銭で折半する場合 ≪換価分割≫

長女Xと長男Yが遺産分割協議書において、
「長女Xが便宜上単独で相続登記をした上で売却し、その売却益をXとYで折半する。」
という取り決めをします(特に遺産分割協議をせずに、持分2分の1ずつの法定相続分で相続登記をした上で、X及びYが協力して売却した場合も同じです)。
金5,000万円で売却できたとして(諸経費は考慮に入れないものとします)、X及びYは、それぞれ金2,500万円の売却代金の分配を受けることになります。
ここで、不動産売却に伴い「売却益」(※)が生じる場合、「譲渡所得税」の課税の問題が生じ、X及びYはそれぞれ申告をしなければなりません。

※売却益=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)> 0

本事例では、取得費及び譲渡費用の合計を金2,000万円としましょうつまり、長女Xと長男Yは、売却により金1,500万円ずつの譲渡益。

≪(5,000万-2,000万円)×1/2 =1,500万円≫
を得たことになります。

母親と同居していた長女Xは、この不動産が自宅になりますので、“居住用財産”を売却したことになります。
居住用財産については、金3,000万円の特別控除が受けられますので、長女Xの譲渡益(1,500万円)は、特別控除の範囲内として、長女Xに譲渡所得税は発生しません
一方の長男Yは、結婚して実家を離れていますので、Yにとっては居住用財産には該当しません。
つまり、長男Yは、原則通り譲渡益1,500万円に対して20%(長期譲渡所得税)の税金を支払わなければならないのです。

以上のように、一見至って公平な分割方法に見える「換価分割」も、相続人間の事情に違いにより実質的な受取額に差が生じますので注意が必要です。

 

(B) 一方が単独で不動産を相続した上で売却し、売却代金から代償金を支払う場合 ≪代償分割≫

長女Xと長男Yが遺産分割協議書において、
「長女Xは自宅を単独で相続する。その代償として、XはYに対し金1,500万円を支払う。」
という取決めをします。
長女Xはこの分割協議書に基づきX名義に相続登記をした上で、売却します。

売却に伴い発生する譲渡益は金3,000万円ですが、前述のとおり、居住用財産の金3,000万円特別控除が受けられますので、譲渡所得税は全く発生しません(Yは不動産を形式的にも実質的にも相続により取得していませんから、譲渡所得税の申告義務はありません)。
長女Xは、金3,000万円の中から長男Yに対して金1,500万円の代償金を支払うことで遺産の分配作業は完了でとなります。つまり、譲渡所得税が一切かからなくて済みます。
実質的には換価分割も代償分割も、相続財産を売却して折半するということでは、同じですが、その手順により受取額に大きな違いができくるので、慎重に検討する必要があります。

 

※あくまで一般的なモデルケースとして設定しておりますので、個々の事案については、最寄りの税務署か税理士さんにきちんとご相談されることをお勧め致します。ご希望の方には、信頼できる税理士さんをご紹介いたします。

 

 

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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