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民法改正で新設の「定型約款」とは? 重要ポイントを分かりやすく解説

8月 19, 2022

【目次】
1.「定型約款」制度の概要
2.「定型取引」とは
3.定型約款の契約への組入れ
4.定型約款の内容の開示
5.定型約款の変更

 

1.「定型約款」制度の概要
2020年4月1日の民法改正前においては、約款に関する規定は存在していませんでした。ここでいう「約款」とは、大量の取引を迅速・効率的に行うために作成される、定型的な条項をいいます。
例えば、鉄道・バスの運送約款、電気・ガスの供給約款、インターネットサイトの利用約款などが挙げられます。
約款については、相手方が十分にその内容を把握できず、不利益を受ける場合があることが指摘されてきました。
一般的に、約款は企業が一方的に作成するものであり、条項も多く、そのすべてを理解することは困難です。約款に記載されたものにすべて従わなければならないのかどうか、明確な見解はありませんでした。
そこで、今回の民法改正によって、約款のうち「定型取引」に関する約款(定型約款)に関する規定が新設され、法律の要件を満たせば、約款が契約内容となることが明確となりました。

 

2.「定型取引」とは
「定型取引」とは、「① ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、② その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」(民法第548条の2第1項)をいいます。
①は相手方の個性に着目しないこと、②は一方当事者にとってのみ合理的なものを排除することが要件となっています。

 

3.定型約款の契約への組入れ
定型取引を行うことについて合意(定形取引合意)をしたのみでは、約款は当然に契約の内容(契約への組入れ)とはなりません。
下記のどちらかの要件を満たす必要があります(民法第548条の2第1項)。

① 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき
② 定型約款を準備した者(定型約款準備者、いわゆる事業者)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方(利用者)に表示していたとき

②は、個別に面前で表示することが必要で、ホームページ等で公表しているだけでは足りません(鉄道営業法第18条の2、道路運送法第87条等の特別法によって、公表で足りる場合もあり)。
なお、上記要件を満たす場合であっても、相手方(利用者)の利益を一方的に害するもの(不当条項)については、契約には組み入れられません。

 

4.定型約款の内容の開示
定型約款準備者(事業者)は、相手方(利用者)から請求があれば、定型約款の内容を開示しなければなりません(民法第548条の3第1項)。
もし、この請求を拒んだ場合は、約款は契約の内容に組入れされません(民法第548条の3第2項)。

 

5.定型約款の変更
Ⅰ 実体的要件(民法第548条の4第1項)
契約が長期にわたる場合は、後日、約款の内容を変更する必要が生じる場合があります。
しかし、相手方(利用者)が多数の場合、一人ずつと変更の合意をすることは現実的ではありません。
そこで、下記のどちらかの要件を満たせば、定型約款準備者(事業者)は、単独で変更をすることができます。
① 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき
② 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき

Ⅱ 手続的要件(民法第548条の4第2項・第3項)
定型約款の変更をするときは、効力発生時期を定め、変更の旨および内容を周知させなければなりません。
この周知は、インターネット等によるもので問題ありません。
なお、実体的要件②による約款の変更は、周知が効力発生要件となっています。
一般の利益に適合するとは限らないからです。

 

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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