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遺言信託の件数増大?

9月 11, 2017

2017年9月6日(水)の日経新聞に、信託銀行の『遺言信託業務』が、いわゆる“争族”を防ぐ手段として重要な役割を果たしているという趣旨の記事が掲載されていた。

 

この記事自体を批判するつもりも、信託銀行の『遺言信託業務』を批判するつもりもないが、マスメディアの記事の論調により、解釈が正反対に転ぶ怖さを感じざるを得ない。

 

何が言いたいかというと、信託協会が提供している棒グラフで示された『遺言信託の保管件数の累計』データについては、2つの事実が読み取れるということ。

 

1つは、新聞記事にもあるように、累計での遺言信託の保管件数は増え続けおり、そのニーズは確かにか高いということ。

もう1つは、単年での新規遺言信託の設定件数は、平成27年をピークに昨年は件数減っているという事実。
昨年の新規件数が減ったという事実をもって、ニーズが減ったと解釈するのは早合点だが、信託協会が提供している記事の棒グラフは、その事実を曖昧にしかねない。
累計なら、普通に考えれば右肩上がりに増えていくのは当たり前なのに・・・。

 

もう1つ、日経の記事で気になる部分。
信託銀行の『遺言信託業務』があれば“争族”を回避できるような印象を与えかねないという点。

確かに、遺言を書かなければ、相続人全員による遺産分割協議が必要になり、協議が難航して遺産が長期間塩漬けになったり、遺産分割調停で家族が何年も争い続けることも起こり得る。
遺言は、書かないより、書いた方が良いのは真理だ。

 

ただ、信託銀行の『遺言信託業務』の実態は、そうシンプルではない。
信託銀行が遺言執行者に就任する場合、銀行によっては、事前に相続人全員に「信託銀行が遺言執行者に就任することの同意」をもらうことがある。
そうすると、もともと故人(遺言者)と不仲だったり、確執があった相続人にとっては、遺言内容が自分にメリットが無いと想定できる訳で、スムーズに同意書に判を押すとは限らない。
相続人全員から同意書が揃わない場合など、予め紛争可能性が高いと判断される案件については、信託銀行は遺言執行者に就任しないという事態も起こり得る(そもそも遺留分を抵触するような遺言を信託銀行では作らせないということもある)。

 

つまり、信託銀行という大企業のネームバリュー・信用力を根拠に難しい遺言執行をお願いしようと思っていた遺言者にとっては、いざという時、そのニーズに応えてくれない可能性があることに多くの方は気付いていないし、信託銀行・信託協会も積極的にそのようなネガティブ情報は開示をしていない。

 

信託銀行の『遺言信託業務』を検討している方、今まさに相談継続中の方、既に信託銀行主導で遺言を作られている方にとっても、定期的な遺言内容の見直しと同時に、この『遺言信託』で本当に自分のニーズが叶えられるのか、更には遺言では賄えない長い長い老後の財産管理・資産活用、生活サポートについても、家族と専門家を交えて再度考え直して頂きたい。

 

そうすると、『家族信託』『任意後見制度』という選択肢も含めた、今現在からスタートする、“安心安全な老後”を設計できるかもしれない・・・。

 

 

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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