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信託終了事由についての実務的考察(よくある不適切事由)

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(1)「信託財産が消滅したとき」という信託の終了事由について

信託財産が金銭のみとなる信託契約、いわゆる“金銭信託”において、信託の終了事由の一つに「信託財産が消滅したとき」という条項を盛り込んでいる信託契約書が多く見受けられます。
委託者兼受益者たる老親名義の預金口座が本人の判断能力低下により払戻手続きができない、あるいは寝たきり等の身体的な問題で銀行窓口に行けないような場合に、まとまったお金を下ろしたり送金したりできなくなる可能性があります。
いわゆる“預金口座の凍結リスク”です。

このリスクを回避するために、受託者となる子が管理する金融機関の口座(通帳名義に信託財産であることが明記される「信託口口座」又は単なる子名義の個人口座を親の金銭を入れておくために新規で用意をする「信託専用口座」のどちらかを用意することが好ましいです。ここでは、これら総称して「信託口座」と言います。)に日常的に親(受益者)側が使っているお金以外の預金(余剰の金銭)については、親が元気なうちに移動しておくことは有益です。

金銭信託の便利なところは、預けすぎたと思えば、いつでも受託者から戻してもらえる一方で、満期を迎えた定期預金や株式の売却代金、タンス預金など、信託契約の締結後に後から追加で預けたい余剰金銭が出てきた場合に、「金銭の追加信託」というやり方で簡便に受託者に託せるので、いわば受託者を銀行のATM代わりに出し入れが自由なことです。

ここで最初の「信託財産が消滅したとき」という信託契約の終了事由の検討に戻りますが、この条項自体法律的に問題がある訳ではありませんが、親の金銭を出し入れ自由にして親の生活や介護等をサポートしていく中で、受託者が管理する信託金銭がもし予期せず残高がゼロになってしまった場合、その瞬間に法律上信託が終了してしまうという事態が生じます。信託契約自体が終了してしまえば、当然「金銭の追加信託」による補充をする余地がなく、想定しないタイミングで信託契約が終了してしまう恐れがありま
す。

信託契約書は、あらゆる事態を想定して契約条項を設けるべきですので、敢えて「信託財産が消滅したとき」を信託の終了事由に定めなくても、受益者の死亡時や受益者と受託者が合意したときまで金銭信託を継続しておいても、実務上何ら問題ないでしょう。

 

(2)「受託者全員が死亡したとき」という信託の終了事由について

信託契約書において、「当初受託者」と予備的に「第二受託者」を置いている。
さらには、受託者が欠けたとき、受益者(受益者代理人がいる場合は受益者代理人)が新たな後継受託者を選任できる旨が条項として盛り込まれているケースはよく見かけます。

この契約書において、「受託者全員が死亡したとき」を信託の終了事由として規定したときの法的な問題についてご説明します。
契約書で規定されている受託者は、「当初受託者」と「第二受託者」だけですから、もし両名が亡くなってしまったら、解釈上その時点で「受託者全員が死亡したとき」という規定が適用されると考えるべきでしょう。
つまり、受託者の条項においては、第3順位の受託者の存在を想定しておきながら、条文の解釈上、第三受託者を選任する余地がなくなってしまうという事態が起きます(仮に後継受託者が選任できる余地があると解釈をしてしまうと、受託者全員が死亡するという事態は想定できなくなります)。なお、受託者がその任務を遂行できなくなるのは、死亡だけではありませんので、「受託者全員の任務が終了したとき」とした方が汎用性はありますが、「受託者全員」という文言の解釈上の結論としては同じになります。

改善策としては、この終了事由自体を削除して、通常通り第三受託者の選任の余地を残しておくか、「当初受託者〇〇〇〇及び第二受託者●●●●の任務終了」という条項を置き、信頼できる2名がもし管理を担えなくなるのであれば、信託自体を終了して状況に応じて成年後見制度に移行する可能性も視野に入れる必要があるでしょう。
ただ、この場合でも、信託終了に伴う清算事務・残務処理を担う「清算受託者」の選任が必要となりますので、結局「当初受託者」と「第二受託者」以外の第三の担い手の存在は不可欠になるのが実務上の問題となります。

 

(3) 「受益者が死亡し、その葬儀・納骨を終了したとき」という信託の終了事由について

「受益者が死亡し、その葬儀・納骨を終了したとき」という信託の終了事由についても、時々目にする条項になりますので、これの問題点についてもご説明しましょう。

最もシンプルな信託の設計は、受益者の死亡により信託契約が終了する設計(※)と言えます。
この“死亡終了型信託”の設計の場合、受益者の死亡により信託契約が終了しますので、信託の残余財産の帰属権利者については、信託終了時の受益者以外の者を指定することになります(信託契約終了時の受益者は既に亡くなっているので)。
具体的には、信託契約書の「信託の残余財産の帰属権利者の指定」条項の中で、財産の承継者を指定するのが一般的であり、これがいわゆる“遺言代用機能”と言える部分です。

つまり、受益者が死亡すると、それに伴い当然に財産(信託受益権の対象となる信託財産)が誰かのものに移ることになりますので、通常の死亡終了型信託は、予備的な残余財産の帰属権利者を含め、子世代や孫世代に財産を承継させる旨の内容になります。

一方、死亡終了型信託の派生形として「受益者が死亡し、その葬儀・納骨を終了したとき」という信託の終了事由を設けた場合はどうでしょう。受益者たる親が亡くなった際に、その葬儀・納骨までを信託財産の管理の中から当然に支出し、それでも残った財産について分配したいというお客様のご要望をできる限り反映させようとする専門職側の心意気は感じます。

しかし、受益者が死亡しても信託契約は終了しませんので、次順位の受益者の指定をしておかなければなりません。例えば委託者兼受益者を父親とし、父親の死亡により信託を終了させ、長男が信託財産を引き継ぐことを趣旨として設計した場合、信託契約書において第二受益者として長男を指定しておかないと法的な整合性が取れなくなってしまいます。

改善策としては、信託の設計は「受益者が死亡したとき」というシンプルな死亡終了型信託の条項にした上で、信託終了後に清算受託者が担うべき業務の一部として、亡くなった受益者の葬儀・納骨等を信託財産の中から支出すべき旨を記載しておくのがよろしいかと思います。信託の基本設計は、特に慣れるまではなるべく基本に忠実でシンプルな設計を心がけるべきで、あまり複雑な設計や特別な設計をすることは、法的整合性の問題が生じかねないリスクをきちんと認識しましょう。

※この設計の信託を「死亡終了型」という言い方をしておりますが、委託者兼受益者たる母親が死亡したら信託が終了するという“一代限り”の信託や、当初受益者たる父親と第二受益者たる母親の二人が死亡したら終了するという高齢の両親を生涯支える仕組みとしての信託というのは、最も典型的な信託と言えます。

以上のように、信託契約書の中の「信託の終了事由」という一つの条項を取ってみても、様々な実務的なリスク・ポイントが潜んでいます。
家族信託・民事信託の設計コンサルティング分野は、頭のキレる弁護士なら誰でもできる訳ではありませんし、信託銀行出身で商事信託に精通した者ならできる訳でもありません。
むしろ、そうした“腕に覚えあり”という自分の業務を過信した専門職が、大きく間違った設計・法的に欠陥のある契約条項を作っているケースが少なくありません。

家族信託の設計コンサルティング業務を依頼する相手としては、机上の理論に精通していることよりも、成年後見制度や遺言を含めた高齢者の財産管理・資産承継について実務的知識と豊富な経験を持った専門職であうこと、なおかつ家族会議の中でコミュニケーションを取りながら設計をしていく能力を持ち合わせた専門職であることが重要です(日本全国で見ても、その条件に見合う弁護士はかろうじて二桁くらいの人数しかいないでしょうし、弁護士・司法書士・税理士・行政書士等の法律系士業全体でも三桁の人数いるのかどうか・・・)。
そのような専門職を探して頂くことがとても重要ですので、専門家選びは慎重にされることをお勧めいたします。

 

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