「契約」というものは、口頭による当事者間の合意、いわゆる「口約束」のみで有効に成立します。
しかし、 契約書の有無は、個人の方にとってももちろんのこと、 ビジネスにおいて企業や事業者間で交わすものについては、 “言った言わない”・“そんなハズじゃなかった”といったトラブルを避けるためには、絶対におろそかにできない問題です。
以下に契約書作成のメリット・必要性について列挙してみましょう。
契約書作成のメリット・必要性
- 当事者間で合意した事実・内容が明確になり、 誤解・誤発注等によるトラブルを未然に防げる。
- 当事者間において、その取引への重要性(契約違反によるペナルティを含む)の認識が高まり、契約内容の実現へ向けて相手方の自発的な行動を促しやすくなる。
- 後日、契約に関してトラブル・訴訟になったときの有力な証拠になり、相手方に義務履行を強制しやすくなる。
- 過去の取引と似たような取り決めをしたい場合に、契約書が残っていれば、その契約内容の一部を修正するだけで簡単に新たな合意が得られ、経済効率性が高まる。
- 所有権留保規定:商品代金全額の支払があるまで所有権が売主側に留保されるという規定
- 商品の出荷停止規定:相手の資産状況が悪化した際には代金支払いと同時でなければ商品の供給をしないという規定
- 期限の利益喪失規定:一定の事由が発生したときには、直ちに残債務全額を一括で支払うよう請求できるという規定
上記を踏まえ、 契約書作成の最大のメリットを一言で言うと『リスクの回避』ということに なるでしょう。
トラブルを減らし、本業に精力を集中することができれば、 経営の効率化によりビジネスは更に発展する方向に向かうでしょう。
では、次に、契約書を作成する際のポイントを挙げてみましょう。
契約書を作成する際のポイント
1.契約当事者の表示を明確に!
契約当事者が個人であれば「住所」及び「氏名」を署名又は記名し、氏名の横に押印をする必要があります。
個人事業者が「屋号」を使用している場合には、それも併記する方がベターです。
契約当事者が法人であれば「本店所在地」「商号(名称)」「代表者の資格」(代表取締 役、理事長など)「代表者氏名」の4つの記載の最後に押印する形になります。
上記のうち1つでも欠けていると、契約の有効性や当事者特定の点で争いが起こる可能性が有りますのでお気をつけ下さい。
なお、相手方が会社の場合、本当にその会社の正当な代表権をもつ者かどうか会社謄本等で確認することもお勧めします。
2.契約日の記載を忘れずに!
契約成立の時期は、消滅時効などの関係からとても重要です。
たとえきちんと署名押印されている契約書でも、契約成立日に争いが出て契約内容の実現ができなくなる可能性があります。
同じ契約書を複数作成するときは、必ず同じ日付になるように署名押印時にすべて記入をしてしまいましょう。
実際に過去において合意が得られていた内容のものであれば、当事者双方の同意に基づき、日付を遡らせて作成することも問題はないでしょう。
もし万が一、相手方が日付の記入に協力してくれないときは、念のため、少なくともその時点で契約書が存在していたことの証明を確保するために公証役場で確定日付をもらっておくのも将来的なリスクの回避のためによいでしょう。
3.曖昧な表現、理解できていない文章は避ける!
契約書に「本契約書に定めのない事項については、当事者双方が誠意をもって協議のうえ別途定める」というような条項を設けて、契約書の記載内容をなるべく少なくしようとする契約書がよく見受けられます。
この条項を盛り込むこと自体は否定しませんが、契約書は後のトラブルを防止する意味が大きい訳ですから、当事者双方が誠意をもって協議できなくなった場合に使い物にならなければ、せっかくの契約書の意味が半減してしまいます。
また、利益が相反する契約当事者にとって、各自が有利に解釈できてしまうような曖昧な表現は、絶対避けましょう。
さらに、市販のひな型契約書にあるものをその意味も分からないまま盛り込んでしまうことも非常に危険です。
思わぬところで自分に不利に働く文言があるかもしれません。
4.契印を忘れずに!
一つの契約書が複数枚に及ぶときには注意が必要です。
後日中身が差し換えられたりしないように、次の二つのうちのどちらかの綴じ方をし、どちらの綴じ方でも契印を忘れずにしましょう。
一つ目のやり方は、用紙の端(横書きのときは左端、縦書きのときは右端の場合が 一般的)をホッチキス等で2、3箇所止めて、各ページにまたがって当事者全員の印で契印を押すやり方です。
もう一つのやり方は、契約書全体をホッチキス等で綴じて、背の部分を製本テープなどで包んで(通称「ミミ」といいます)袋とじにします。
そして、表紙若しくは裏表紙の用紙の部分とミミの境目にまたがって当事者全員が契印を押すやり方です。
5.必要に応じて捨印を押しておく!
すべての契約において捨印をお勧めすることはできませんが、後日契約書上の誤字 ・脱字や削除・修正事項等が発覚した場合に備えて、予め欄外に当事者全員が「捨印」を押しておくというやり方があります。
捨印がないと、原則どおり契約書を作り直 すか、当事者が再度契約書を持ち寄るなどして契約書の条項を削除・修正する必要 があります。契約内容の根幹部分でないような軽微な条項の削除・修正については、 この捨印を利用して対応することは実務上しばしばあります。
ただし、あまり捨印を濫用すると、改ざんを助長してトラブルを招きかねないので注意が必要です。
6.印紙税の納付も忘れずに!
契約書によっては、印紙税の対象になるものも多いです。
印紙税対象契約書類の原本には、必ず収入印紙を貼り、当事者双方の印鑑で消印しましょう。
原本を2通作成すると、2通ともに印紙を貼らなければならないので、契約内容によっては、原本は1通のみ作成し、他方はコピーを保管するということでもよいでしょう。
この場合、契約によって権利を実現する方(例えば贈与契約における受贈者) が原本を保管し、義務を負う方(例えば贈与契約における贈与者)がコピーを保管するのがよいです。
7.金額・数量、履行期限、履行場所、損害賠償の定め、契約解除事由は必須事項!
契約書に盛り込むべき条項は沢山ありますが、少なくとも金額・数量、履行期限、履行場所、損害賠償の定め、契約解除事由等については、記載漏れがないか確 認しましょう。
また、その際には、金額・数量等の数字については、契約の根幹にかかわるものですので、簡単に改ざんできないように「¥」マークや3桁区切りの「,」や「壱・弐・ 参・拾」といった多角文字を利用するのが良いでしょう(例えば、「¥150,000円」 や「壱拾五萬円」)。
上記7つのポイントに加え、相手の債務不履行時に備えて次のような特約条項を設けることを検討することもお勧めします。