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2020年民法改正による「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」への変更について分かりやすく解説!

7月 26, 2022

2020年の民法改正に伴い、「瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)」という概念から「契約不適合責任」という概念に変更となりました。

この変更について、重要ポイントを分かりやすく解説します。

1.民法改正 瑕疵担保責任から契約不適合責任へ

民法が改正され、2020年4月1日から「瑕疵担保責任」に代わり「契約不適合責任」という概念が導入されました(「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)」による。)。
これにより売買の目的物に不具合があった場合の買主の救済手段について、取引社会の実情を踏まえて見直しが行われ、買主の救済の幅が広がりました。

今回の改正前までは、売買で引き渡された目的物に「隠れた瑕疵」(不具合・欠陥・数量不足など)があった場合、買主は売主の過失の有無を問わず、①契約の解除か②損害賠償請求のみが可能とされており、目的物とは特定物(中古品など)に限るとされ、また具体的な救済手段についても法定責任説と契約責任説の激しい対立があり、判例の立場も不明瞭でした。

改正後は、特定物・不特定物を区別することなく、売買で引き渡された目的物が種類、品質または数量に関して「契約の内容に適合しない」ものである場合、買主は新たに①追完請求 ②代金減額請求 が可能になり、また既存の③契約の解除 ④損害賠償請求 については、契約責任説を基本とするとし、救済手段が具体的に明文化され、買主の救済の幅が改正前に比べて広がりました。

2.目的物および不具合の定義の見直し

(1)目的物:特定物・不特定物の区別の排除

実際の取引では、問題となった取引が特定物売買か不特定物売買か判別し難いケースが多くあり、特定物・不特定物を区別して取り扱うのは実態に合致しないため、特定物・不特定物の区別なく一般に種類、品質又は数量に関しての契約不適合が売主の担保責任の対象になりました。

(2)特定物:「隠れた瑕疵」から「契約の内容に適合しない」へ

「瑕疵」という用語を用いると、契約の内容に適合するかどうかに関わらず目的物に客観的にキズがあれば即売主に担保責任が生じるという誤解を招くおそれがあるため、「契約の内容に適合しない(契約不適合)」という文言に変更されました。

また、「隠れた(通常買主が引き渡し時に気付かないような)」という用語が削除され、買主の善意無過失は解除や損害賠償請求時の要件として不要になりました。

3.救済手段の見直し

(1)追完請求権

現代社会では、売買の目的物は大量生産され、不具合があった場合には部品の交換や代替物の給付など履行の追完ができるものが多く、実際の取引でもそのような対応が一般化しています。

そのため、取引の実態に合わせて、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約不適合の場合には、買主は売主に対して、「目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引き渡し」による「履行の追完」を請求することができるようになりました(改正民法第562条第1項本文)。

追完の手段については、第一次的には買主が選択して売主に請求できますが、買主に不相当な負担を課するものでないときは、売主は別の手段を選択することもできます。たとえば買主は代替物の引き渡しを選択したけれど、修補が容易で費用も廉価であり、買主にも特段の不利益がない場合に、売主の希望で修補に変更する場合などです。

なお、契約不適合につき売主に帰責事由がなくても(不可抗力の場合など)、追完請求が可能ですが、公平性の観点から買主に帰責事由がある場合は追完請求ができません(改正民法第562条第2項)。

(2)代金減額請求権

改正前は、「数量指示売買」における数量不足、目的物の一部が他人の権利であり買主に移転することができない場合に限り代金減額請求をすることを認める規定があるものの、品質等の契約不適合については規定がありませんでした。

しかし、買主がその目的物で了承する代わりに、売買代金を引き渡された目的物の実際の品質等に見合った金額にまで減額することが、簡易かつ公平性の観点からも合理的なため、品質等の契約不適合時にも代金減額請求ができるようになりました(改正民法第563条第1項)。

なお、可能であれば完全な履行がされるのが望ましいため、あくまで代金減額請求は、追完請求が認められない場合の次の手段となります。

具体的には、買主は代金減額請求の前にまずは相当の期間を定めて売主に対して履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がない場合に初めて代金減額請求ができます。
ただし、履行の追完が不能な場合など、催告なしに代金減額請求ができる場合もあります(改正民法第563条第2項)。

また、追完請求と同様に、契約不適合につき売主に帰責事由がなくても(不可抗力の場合など)代金減額請求は可能ですが、公平性の観点から、買主に帰責事由がある場合はその請求はできません(改正民法第563条第3項)。

(3)契約の解除及び損害賠償請求

改正前にも目的物に瑕疵がある場合に契約の解除と損害賠償請求を認める規定がありましたが、これらの要件・効果については解釈に対立があり、判例の立場も不明瞭でした。

民法改正後は、これらについて債務不履行の一般的な規律(改正民法第415条、第541~542条)がそのまま適用される(契約責任説)旨明文化されました(改正民法第564条)。それにより、以下のような変更があります。

契約の解除について、改正前は「契約目的が達成できないとき」に限定されていましたが、改正後は「契約目的は達成できるが、不履行が軽微でない場合」まで範囲が拡大し、買主の救済の幅が広がりました。ただし、原則として履行の追完の催告が必要になりました。

損害賠償請求について、その範囲が改正前は「信頼利益(買主が瑕疵のないものと信頼したために被った損害)」に限ると解釈されていましたが、改正後は「履行利益(本来の履行がなされたら買主が得たであろう利益)」へ拡大し、買主の救済の幅が広がりました。ただし、改正後は売主の帰責事由が必要になりました。

なお、ともに買主の善意又は善意無過失が要件ではなくなり、買主が引き渡し時に通常気付くような契約不適合についても請求可能になりました。

4.期間制限の見直し

改正前においては、契約の解除や損害賠償請求をする場合、買主は「瑕疵(権利の一部が他人に属する場合、数量不足、一部滅失、目的物に用益物件が付着していた場合なども含む)」を知ってから1年以内に契約の解除又は損害賠償請求の権利行使をする必要がありました。

改正後は、追完請求、代金減額請求、契約の解除、損害賠償請求をする場合、買主は目的物が「種類、品質」に関して契約不適合である場合に限り、それを知ってから1年以内に売主にその旨の「通知」が必要となりました。

具体的には以下が変更され買主の負担が軽減されました。

(1)権利の範囲の縮小

そもそも期間制限は売主の期待を保護する観点から存在します。
というのも、売主としては目的物の引き渡しとともに履行は完了したと期待するため、引き渡し後も長期にわたり担保責任を負うのは負担になるからです。

しかし、買主にとっても過度な期間制限があると権利行使の機会を失いかねません。
よって、売主・買主双方の負担を考慮し、売主の負担が特に重い、「種類、品質」という外見的に分かりづらい物理的な欠陥の場合のみに期間制限が限定されました(改正民法第566条本文)。

(2)保存行為:「権利行使」から「通知」へ

改正前、買主が瑕疵を知ってから1年以内に行うべき保存行為は「権利行使」とされていました。
これは「少なくとも売主に対し、具体的に瑕疵の内容とそれに基づく損害賠償請求をする旨を表明し、請求する損害額の算定の根拠を示すなどして、売主の担保責任を問う意思を明確に告げる必要がある」とされており、これは買主への負担が大きいと指摘されていました。
改正後は、買主が契約不適合を知ってから1年以内に行うべき保存行為は「通知」をすれば足りることになりました。

ただし、通知といっても、契約不適合を抽象的に伝えることでは足りず、売主がその存在を早期に認識し把握する機会を与える趣旨があるため、「不適合の種類やおおよその範囲」を伝えることを想定しています(改正民法第566条本文)。
なお、売主が不適合の事実を引き渡し時に知っていた、または重大な過失により知らなかったときは、売主を保護する必要はないため期間制限の規定は適用されません(改正民法第566条ただし書き)。

また、1年以内の通知をすれば買主はこの期間制限規定の適用から免れるものの、別途一般の消滅時効(改正民法第166条第1項)が適用されるため、1年以内の保存行為後に買主の権利が消滅する余地があることにも注意が必要です。

民法の改正前と改正後の比較表

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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