相続登記・不動産登記(売買、贈与、抵当権設定・抹消など)

不動産の仮登記における予約完結権の消滅時効(2020年の民法改正対応版)

6月 12, 2012

予約完結権の消滅時効 【民法改正対応版】

所有権移転請求権仮登記に関し本登記請求権の消滅時効成立の可否

不動産の売買に際して、「売買予約」を原因として「所有権移転請求権仮登記」がなされることがあります。 これは、買主は、不動産の所有権を現段階で手に入れたわけではなく、将来的に自らの一方的意思表示により不動産を取得できる権利(=予約完結権)を得たに過ぎません。

つまり、将来買主側が「予約完結権」を行使して購入の意思表示をすることにより正式に売買契約が成立するというもので、現時点では売買が成立しているわけではありません。 「所有権移転請求権仮登記」という仮登記そのもの自体には、消滅時効という概念はありません。

しかし、予約完結権という権利は債権ですので、「債権者が権利を行使することができることを知った時(=契約締結時)から5年間行使しないとき」時効により権利が消滅することになります(2020年4月1日施行の改正民法第166条により、それまで10年であった消滅時効の期間が実質5年に短縮されましたので、2020年4月1日以降の契約に基づく予約完結権は5年の消滅時効が適用されます。ただし、2020年4月1日以前の契約に基づく予約完結権は従来通り10年になります。 それに伴い、仮登記に対する本登記請求権も消滅します。

予約完結権が時効消滅した場合、何もしなければ仮登記はそのまま残りますが、売主から予約完結権が時効消滅したので仮登記を抹消するように要請が来れば、買主(売買予約権者)は応じざるを得ないことになります。

「所有権移転請求権仮登記」は、売買予約に限らず、「贈与予約」や「代物弁済予約」等を原因として登記されることも考えられますが、予約完結権の消滅時効については、考え方はすべて同じです。

反対に、これらの予約完結権が消滅時効の成立前にきちんと行使されていれば、その時点で所有権を獲得したことになりますので、所有権に基づく本登記請求権は、何十年経過していようとも消滅することはなくなるわけです。 あるいは、消滅時効の期間経過後であっても、義務者側(売主、贈与者等)からの時効の援用がなされず、予約完結の意思表示に承諾があれば、同様に本登記請求権は消滅しないことになります。

 

農地の売買の場合

農地の売買の場合には、農地法の規定に縛られますので、農地の売買契約だけでは所有権を移転することができません。

つまり、農地を売買しようとする場合、売買契約の効力は、農業委員会又は都道府県知事の許可を条件として成立(効力が発生)します。
当該売買契約に基づき農地法の許可を得るまで買主としての権利を確保するためにする登記手続きは、「条件付き所有権移転仮登記(条件 農地法の許可)」ということになります。

ただし、仮登記をしていたとしても安泰ではなく、農地の売買契約締結後5年間(2020年4月1日以前の売買契約の場合は従来通り10年間)農地法に基づく許可を受けなかった場合は、農地の所有権移転登記請求権は消滅してしまうので、注意しなければなりません。

どういうことかというと、前述のとおり仮登記自体に消滅時効はありませんが、買主から売主に対して農地法の許可申請手続きに協力を求める請求権(いわゆる“農地法の許可申請協力請求権”)が債権として前記のとおり5年(2020年4月1日以前の契約に基づく予約完結権は従来通り10年)の消滅時効にかかるので、したがって許可を受けることを前提とした移転登記請求権も消滅することになるという理屈です。

「条件付き所有権移転仮登記(条件 農地法の許可)」の登記が入ったまま何十年もほったらかしの農地の登記簿を見かけることがありますが、この場合、もし売主が消滅時効を主張して仮登記の抹消を求めてくれば、買主は権利を失う可能性があります。 農地の条件付売買契約の対応策としては、消滅時効期間(5年又は10年)を経過しないうちに、売買当事者間で農地売買に関する確認書(念書)を交わしておくことで時効期間の進行をリセット(時効の中断)することが大切です。

もし、売主が確認書の取り交わしに難色を示した場合には、農地法の許可申請協力請求権と停止条件付所有権移転請求権の確認を求める訴訟を提起することで時効を中断させることも検討した方がいいかもしれません。

もちろん、消滅時効期間を経過しても、売主が消滅時効の援用をしなければ買主の権利は消滅しませんので、消滅時効期間を経過した今からでも、確認書の取り交わしについて交渉をしてみることは有効かもしれません。

なお、売買契約締結後、農地が農地でなくなった場合には、その時点で買主に所有権が移転することになりますので、買主の権利について時効の問題は生じないことになります。

 

 

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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