5月19日の日本経済新聞によると、平成30年度税制改正で抜本的に拡充された中小企業向けの「事業承継税制」の利用が増えてきた、とのこと。
この事業承継税制は、日本の中小企業の後継者不足等による廃業が激増する中で、この深刻な事業承継問題に対処するため、今後5年以内に承継計画を提出し、10年以内に実際に承継を行う経営者を対象に、事業承継にかかる税の特例措置を時限的に設けることで、円滑な世代交代を後押しするという仕組みです。
★「事業承継税制」を説明する中小企業庁のホームページはこちら ↓
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2018/180402shoukeizeisei.htm
中小企業の事業を承継するために、その後継者が、現経営者の生前中に自社株式を取得した場合は贈与税、現経営者の死亡により自社株式を取得した場合は相続税、の課税対象になります。
しかし、事業承継税制では、会社の新しいオーナー(株主)になって経営する後継者を決め、将来も事業を続けていく計画を提出すれば、贈与税や相続税の支払いを猶予・免除するという処置により、中小企業の次世代後継者に引き継ぐ際の税負担を軽くし、廃業に追い込まれるケースを減らす狙いと言えます。
2018年4月からは10年間の特例措置として利用条件を大幅に緩和し、税の支払い猶予の対象として、株式数で全体の3分の2という上限を撤廃し、全株式を猶予対象にしました。
また、従業員の8割以上を雇い続けるという縛りも事実上、撤廃しました。
これにより、2018年度の承継計画の届け出件数は約2900件となったようで、18年度までの約10年間の利用件数である約2500件をわずか1年で上回ることになりました。
計画の届け出件数と、実際の承継税制の利用件数は別ですが、事業承継税制への関心は高まっています。
中小経営者の高齢化は急速に進んでいるようで、中小企業庁の発表によると、今後10年間で70歳に達する中小・零細企業の経営者は245万人いるとのこと。
このうち後継者のメドがついていない人は、約127万人との試算もあり、廃業を選ぶ中小企業は、毎年2万5千社を超える水準で推移し、今後も増える可能性があるようです。
中小企業の数は国内の企業全体の99%以上、従業員数では、就労人口の約7割を占めると言われています。
日本を支えてきた中小企業の事業承継が円滑に進まなければ、日本経済に深刻な悪影響を及ぼし、国際競争力を益々失います。
大きな視点に立てば、知識と経験豊富な60代以上の貴重な人材をどう活用するのか、高度な技術をきちんと伝承していくためのM&A(合併・買収)のマッチング・活性化など、中小企業を後押しする多角的な対策を取ることは急務と言えます。
一方で、各中小企業に焦点を当てれば、中長期的な後継者育成計画の立案・実行が必要でしょうし、税務・法務の面からは、下記の施策の検討を早い段階から専門家を交えて検討することが必要でしょう。
①事業承継税制の活用策
②種類株式・属人的株式を導入した経営権の確保と移譲のタイミングを図る策
③家族信託の活用で、認知症による経営判断凍結対策・経営権の確保と移譲のタイミングを図る策
※ 「家族信託」を活用した事業承継対策の事例紹介はこちら ↓
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