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家族信託は良い制度なのになぜ普及しないのか?

2月 8, 2022

「家族信託」は、老親や老親を支える家族にとって、大変有効な優れた財産管理仕組みなのに、なぜあまり普及していないのでしょうか?
その原因・理由について、ご紹介したいと思います。

家族信託の相談にのれる専門家が少なく、提案・紹介される機会がない

「家族信託」は、信託法という法律に基づく最先端の財産管理・資産承継の仕組みです。
そのための家族信託に関するご相談にのれる専門家、適切な家族信託の提案ができる専門家が少ないというのが実状です。
長寿社会の高齢者の財産管理につき、認知症や大病による資産凍結対策の必要性がクローズアップされる中、そもそも成年後見制度の実務や家族信託という方策について精通した法律専門職(弁護士・司法書士・行政書士)は業界全体の1割程度というイメージです。
日常生活において法律専門職と接点のない方がほとんどでありますし、法律専門職と接点があると言っても顧問税理士・顧問弁護士とのご縁があるくらいでしょうから、たまたま法律専門職とのご縁が生まれたとしても、その専門職が家族信託や成年後見制度に精通している可能性は高くないです。
このような現状では、一般の方がご自身でアンテナを張って、テレビ・新聞・雑誌・関連図書等でこの問題に意識をもって情報収集をしない限り、「家族信託」という仕組みの存在を知る機会が少ないと言えます。

 

家族信託の実行自体に税務的なメリットがないので、「手段」として検討する方が少ない

「家族信託」を実行したからといって、将来の親の相続発生時に相続税評価額が圧縮できるなどの税務的なメリットが生じる訳ではありません。
家族信託は、あくまで「手段」であって「目的」ではありませんので、家族信託を実行して何を実現したいのかという目的・ゴールが明確でないと実行する意味が半減してしまいます。
例えば、実家が空き家になったら売却して親の介護費用に充てたい、親保有の古アパートを親の存命中に建替えて賃貸経営の盤石化と相続税対策を確実に実行したい、などの目的・ゴールを明確にしてこそ、そのための手段をしっかりと検討することができるのです。
親の老後の財産管理や相続発生後の資産承継に関し、親自身や家族が抱える想いや希望、課題、リスクに対して向き合う作業(目的・ゴールを明確にする作業)の中で、この分野に精通した専門家を交えたお話合いでなければ、「家族信託」という手段を講じるべきかどうかを検討する機会はなかなか生まれません。
老親が元気なうちにこの工程を踏めることは大変素晴らしいことですが、残念ながらそのような方は多くはないというのが現状でしょう。

 

対策を取ろうと思った時には手遅れになっている

親自身が自分の老後や相続に備えて「家族信託」や「遺言」を検討するケースも多いですが、老親を支える子世代から親の衰えを契機に慌てて対策に乗り出すケースも少なくありません。
たとえば、預金通帳や郵便物の管理ができず何度も紛失するようになった、記憶力がかなり減退してきた、足腰が弱り外出がままならなくなってきた・・・といった親の異変に気付いたことをきっかけに、子世代からご相談を受けることも多いです。
ただ、残念なことに、対策を実行する前に親の判断能力が著しく低下してしまい、何の対策もできなかったケースがあるのも事実です。
老親の異変に気付いたら、老親を支える体制作りの必要性を感じたら、初動は早い越したことはありません
とはいえ、親が高めの要介護認定を受けたり、医者から認知症の診断を受けたからといって、それだけであきらめる必要は決してありません
要介護度や認知症の診断結果よりも、老親自身が「どんな財産を持っているか」「その財産を誰に管理を任せるか」「管理を任せてどうしたいか」などについて、ブレずにしっかりと理解・納得できていることが、老親との言葉のキャッチボールの中で確認ができれば、家族信託も遺言もその他の契約などもできる可能性は充分にあります。

 

最後に・・・

「家族信託」は、老親の認知症対策・資産承継対策としては、最上位の効果と確実性があると言えますので、家族信託を実行することのリスク・デメリットはほとんどありません。
その一方で、どの家庭も家族信託を必ずしもすべきという訳でもありません。
家族信託を実行する手間とコストを踏まえ、その費用対効果もきちんと見極めるべきです。
たとえば、老親が保有する自宅(実家)を親が存命中に売却する可能性が無い場合などは、その実家を信託財産として管理を預かる必要性は低いかもしれません。
預金についても、金融機関によっては、代理人制度が利用できたり、インターネットバンキングを導入しておくことで、“預金凍結”(※ 好きな時に好きな金額を送金したり払い戻したりすることができなくなる状態)のリスクを回避できる可能性もあります。
既に老親が高齢者施設に入所しているのであれば、施設利用料が確実に口座引き落としされるように手続きをしておけば、老親を看取るまで“預金凍結”しても困らないかもしれません。
つまり、「家族信託」を知らなくても老親の生涯を支えることができるケースもありますし、「家族信託」という選択肢を知っていても敢えて使わないケースもあります。
また、老親の判断能力が認知症や大病で著しく低下した場合でも、「成年後見制度」を使わずとも、老親の生涯を万全に支えることができることも少なくありません。

大切なことは、老親が元気なうちに、老後の財産管理・生活サポートについて、さらにはその先の資産承継について、家族会議を開いて、専門家を交えて家族内でしっかりと検討することです。
皆さんも、思い立った時に「家族会議」を開いて、親の老後について向き合う作業をしてみませんか。

 

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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