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家族信託における「委託者の地位の承継」と登録免許税

12月 6, 2020

世の中に出回っている家族信託・民事信託の契約書の文例において、「委託者の地位は、相続により消滅し相続人に承継されない」という条項を非常に多く見かけます。

このような条項を置くことの趣旨は、委託者兼当初受益者の死亡によって、「後継受益者」(委託者の死亡により信託契約が終了する“一代限り”の信託の場合は「残余財産の帰属権利者」)に指定されていない他の法定相続人にも委託者の地位が引き継がれ、当該相続人が委託者の地位を引き継いだことをいいことに、悪意をもって当該信託に対し妨害・攻撃・干渉するような行為することを防ぐためと考えられます。

しかし、一般的に出回っているこの条項を置く意味が本当にあるかどうか、もっとベターな条項があるのかどうか、についてお話をします。

 

◆“一代限り”の信託における委託者の地位の承継

“一代限り”の信託の場合、もし信託契約期間中の受託者による財産管理に問題点(信託財産を不当に棄損したなど)があれば、たとえ委託者の地位を消滅させる旨の条項があったとしても、その遺産(残余財産)に関して直接の利害関係をもつ委託者兼受益者の法定相続人として、受託者の財産管理業務について糾弾することは可能でしょう。
また、委託者の死亡により既に信託契約が終了している以上、委託者の地位が消滅しようが、相続人に引き継がれようが、委託者の地位が問題になることはほぼ無いでしょう。
つまり、“一代限り”の信託の場合、委託者の地位の消滅に関する条項を置く意味は、実質的に無いと考えます。

条項を設けるとすれば、委託者の地位は残余財産帰属権利者に移転する旨を置くのが良いでしょう。

 

◆“受益者連続型”の信託における委託者の地位の承継

“受益者連続型信託”の場合、当初受益者死亡後の後継受益者の代になったときに、後継受益者が自分の固有財産をその信託財産に「追加信託」すること(後継受益者も財産を託す主体である委託者になること)があり得ます。
分かりやすく言うと、例えば、父親が委託者兼当初受益者として家族信託がスタートしたとします。
父親が亡くなり、母親が第二受益者として信託財産を承継した場合、母親に契約能力があれば、母親の固有財産もこの信託財産に追加(=追加信託)することができますので、この時点で、母親は自分の財産を託す立場(=委託者の地位)になることになります。
したがいまして、受益者連続型信託”においても、委託者の地位を消滅させる意味は実務上ないと言えます。

また、信託財産に不動産が含まれる場合において、信託終了に伴う「所有権移転及び信託登記抹消」の登記手続きにおける登録免許税の適用税率の問題を踏まえますと、委託者の地位は消滅させることはコスト面で不利益を生じさせる恐れがあると言えます。
この点も分かりづらいので、簡単にご説明すると、信託終了に伴う「所有権移転及び信託登記抹消」の登記手続きにおいては、対象不動産の固定資産税評価額に対して20/1000(2%)の登録免許税が原則としてかかります。
しかし、一定の要件を満たす場合(=登録免許税法第7条第2項 の適用がされる場合  )に限り、4/1000(0.4%)の軽減税率が適用されます。
この一定の要件の中に、委託者の地位を消滅させずに、委託者の地位は後継受益者に承継させることが求められているのです。

結論としては、委託者の地位を消滅させるのではなく、“受益者連続型信託”の際には「委託者の地位は、相続により承継せず、受益者の地位と共に移転する」旨の条項を置くことが家族信託の実務においては、推奨されるべきとなります(この点をきちんと理解している法律専門職はまだ多くありません)。

「委託者の地位は、相続により承継せず、受益者の地位と共に移転する」という条項を置くことにより、第二受益者として信託財産を承継しない委託者兼当初受益者の法定相続人から受託者に対して妨害・攻撃・干渉を抑止する効果を期待できる点においては、委託者の地位を消滅させるのと同様の効果もありますので、この条項を置くことのメリットはあってもデメリット・リスクは無いと言えます。

 

(※)参考までに、登録免許税法第7条第2項を下記に掲載いたします。

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【登録免許税法】
第7条第2項
信託の信託財産を受託者から受益者に移す場合であつて、かつ、当該信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である場合において、当該受益者が当該信託の効力が生じた時における委託者の相続人(当該委託者が合併により消滅した場合にあつては、当該合併後存続する法人又は当該合併により設立された法人)であるときは、当該信託による財産権の移転の登記又は登録を相続(当該受益者が当該存続する法人又は当該設立された法人である場合にあつては、合併)による財産権の移転の登記又は登録とみなして、この法律の規定を適用する。
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  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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