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家族信託の受託者を変更(交代)する場合の手続き

3月 11, 2022

「家族信託」は、老親の生涯にわたる財産管理・生活サポートを主目的とするケースが最も典型的です。
とはいえ、“人生100年時代”ですので、一旦家族信託がスタートすると、10年超はもちろん、何十年にわたり存続するケースも十分に想定しなければなりません。
その間に、受託者となる子世代も高齢化・健康を害するなど、受託者を変更せざるを得ない事態も想定する必要があります。
家族信託の実務においては、当初の受託者以外に、予備の受託者(第二受託者や第三受託者)を信託契約書の中で指定しておき、不測の事態が生じても、家族信託による財産管理が頓挫しないようにすることが一般的です。

本コラムでは、家族信託の継続中に受託者の変更をすべき場合の、その原因と信託財産ごとの手続きについてご紹介したいと思います。

 

★受託者変更(受託者交代)の原因について ~受託者の任務終了事由~

「信託法」という法律・条文の考え方においては、受託者を変更する理由・きっかけ・原因については、「受託者の任務終了事由」という言い方になります。
つまり、「こういう事態が発生すると、今まで財産管理を担っていた受託者の任務は終了しますよ。そうなると、新たな受託者に財産管理を引き継ぐ必要がありますね」という考え方です。

「こういう事態」については、信託法第56条に定められています。

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≪信託法56条に定める受託者の任務終了事由≫
1、受託者である個人の死亡
2、受託者である個人が後見開始又は保佐開始の審判を受けたこと
3、受託者(破産手続開始の決定により解散するものを除く。)が破産手続開始の決定を受けたこと
4、受託者である法人が合併以外の理由により解散したこと
5、信託法57条の規定による受託者の辞任
6、信託法58の規定による受託者の解任
7、信託行為において定めた事由
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信託契約が存続している期間中に受託者の任務が終了した場合、予備の受託者(以下、「後継受託者」という。)が就任を承諾したことにより、前受託者の死亡時にさかのぼって、後継受託者が当然に受託者としての権利義務(債権・債務だけではなく契約上の地位も含む)を承継することになります(信託法第75条第1項)。

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(信託に関する権利義務の承継等)
第75条 第56条第一項各号に掲げる事由により受託者の任務が終了した場合において、新受託者が就任したときは、新受託者は、前受託者の任務が終了した時に、その時に存する信託に関する権利義務を前受託者から承継したものとみなす。
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以下に、受託者にいつ起こってもおかしくない典型的な任務終了事由について、「死亡」「後見開始又は保佐開始」、「辞任」、「解任」の4つそれぞれの場合に分けてご説明します。

 

①受託者が死亡した場合の手続き

信託契約が存続している期間中に、受託者が死亡した場合、当該死亡者の法定相続人を介さず、信託契約書で指定された後継受託者が単独で下記の手続きをすることになります。

≪銀行口座の手続きは?≫

受託者死亡による交代の場合、前受託者が管理していた金融機関の“信託口口座”は、後継受託者が前受託者の死亡の事実を証明する書類を提出するなど所定の手続きを踏むことにより、預金凍結されることなく後継受託者が引き継ぐことになります(※)。

※ “信託専用口座”(受託者名義の個人口座)で管理をしている場合は、後継受託者単独では対応できず、故人の相続預金として法定相続人全員の協力を得て預金の解約払戻手続きを経ないと預金を動かすことができなくなりますのでご注意ください。

 

≪不動産の手続きは?≫

受託者の変更に伴う不動産の登記手続きは、登記システム上「所有権移転」という形で新しい受託者の住所と名前を登記簿の所有者欄(甲区)に記載することになります。

★申請人について
後継受託者が単独で申請することになります(不動産登記法第100条第1項)。
ただし、受託者が複数いる場合、そのうちの一部の変更は、残存する受託者が単独で申請することになります(不動産登記法第100条第2項)。

★登記の原因及び原因日付
所有権移転登記の原因は、「年月日受託者死亡」となります。

★登録免許税の額
非課税です(登録免許税法第7条第1項第3号)。

 

②受託者が後見開始(保佐開始)の審判を受けた場合の手続き

信託契約が存続している期間中に、事故や病気等で受託者の判断能力が著しく低下し受託者に成年後見人や保佐人を就けることになった場合、当該成年後見人や保佐人を介さず、信託契約書で指定された後継受託者が単独で下記の手続きをすることになります。

≪銀行口座の手続きは?≫

各金融機関の規定により異なる可能性もありますが、前受託者が管理していた金融機関の“信託口口座”は、後継受託者が前受託者に関する後見登記事項証明書を提出するなど所定の手続きを踏むことにより、預金凍結されることなく後継受託者が引き継ぐことになるでしょう(※)。

※ “信託専用口座”(受託者名義の個人口座)で管理をしている場合は、後継受託者単独では対応できず、前受託者の後見人・保佐人が当該預金口座を解約して後継受託者に引き渡してもらわないと預金を動かすことができなくなりますのでご注意ください。

 

≪不動産の手続きは?≫

受託者の変更に伴う不動産の登記手続きは、登記システム上「所有権移転」という形で新しい受託者の住所と名前を登記簿の所有者欄(甲区)に記載することになります。

★申請人について
上記①と同様です。

★登記の原因及び原因日付
所有権移転登記の原因は、「年月日受託者変更(※)」となります。
※ 日付は、家庭裁判所の審判の日となります。後継受託者がいつ就任承諾をしたかは、登記簿上は記載されません。前記信託法第75条第1項の規定により、後継受託者が就任承諾をすれば、前受託者の任務終了時にさかのぼって承継することになるからです。

★登録免許税の額
非課税です(登録免許税法第7条第1項第3号)。

 

③受託者が辞任した場合の手続き

信託契約が存続している期間中に、何らかの事情で受託者が辞任する場合、前受託者と後継受託者が協力をして下記の手続きをすることになります。
なお、「辞任」の手続きは、委託者及び受益者の同意を得て行うことを原則としますが(信託法第57条第1項)、信託契約書の中で定めた辞任手続き(例えば信託監督人や後継受託者の同意を得るなど)に従って行うこともあります(信託法第57条第1項ただし書)。

≪銀行口座の手続きは?≫

各金融機関の規定により異なる可能性もありますが、前受託者が管理していた金融機関の“信託口口座”は、前受託者と後継受託者が協力して所定の手続きを踏むことにより、預金凍結されることなく後継受託者が引き継ぐことになるでしょう(※)。

※ “信託専用口座”(受託者名義の個人口座)で管理をしている場合は、前受託者の口座から後継受託者名義の“信託専用口座”に送金するなどして、預金を移動させる必要があります。

 

≪不動産の手続きは?≫

受託者の変更に伴う不動産の登記手続きは、登記システム上「所有権移転」という形で新しい受託者の住所と名前を登記簿の所有者欄(甲区)に記載することになります。

★申請人について
後継受託者を登記権利者、前受託者を登記義務者として、共同で登記申請を行います(不動産登記法60条に基づく原則的取扱い)。

★登記の原因及び原因日付
上記②と同じ。

★登録免許税の額
非課税です(登録免許税法第7条第1項第3号)。

 

④受託者を解任した場合の手続き

信託契約が存続している期間中に、何らかの事情で受託者を解任する場合、下記の手続きをすることになります。

≪銀行口座の手続きは?≫

各金融機関の規定により異なる可能性もありますが、前受託者が管理していた金融機関の“信託口口座”は、後継受託者が前受託者を解任をしたことがわかる書面を提出するなど所定の手続きを踏むことにより、預金凍結されることなく後継受託者が引き継ぐことになるでしょう(※)。

※ “信託専用口座”(受託者名義の個人口座)で管理をしている場合は、前受託者の協力が得られないと預金を移動させることができなくなる可能性があります。

 

≪不動産の手続きは?≫

受託者の変更に伴う不動産の登記手続きは、登記システム上「所有権移転」という形で新しい受託者の住所と名前を登記簿の所有者欄(甲区)に記載することになります。

★申請人について
上記③と同様で、後継受託者を登記権利者、前受託者を登記義務者として、共同で登記申請を行います(不動産登記法60条に基づく原則的取扱い)。
前受託者が不適切な財産管理業務をしたことにより、あるいは前受託者が辞任の意思表示もできない程度に判断能力を喪失してしまったことにより、受託者を解任するようなケースでは、前受託者と後継受託者が協力して登記手続きを進めることが現実的に難しいケースも多分に想定されます。
特に前者のケースでは、実質的に不動産の受託者変更手続きをするために裁判手続きを経なければならないリスクもあります。
これは不動産登記法の立法上の未解決の課題と言えますので、今後の法改正に期待したいところです。

★登記の原因及び原因日付
上記③と同じ。

★登録免許税の額
非課税です(登録免許税法第7条第1項第3号)。

 

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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