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家族信託における受託者借入と債務控除

3月 14, 2022

家族信託において、受託者が金融機関から融資を受けて信託不動産を新たに取得(新築・建替え・購入)するケースがあります。

たとえば、家族信託を活用して、高齢のアパートオーナーである父親に代わり、その長男が賃貸経営を引き継ぎ、老朽化したアパートを建て替えるようなケースです。
この場合、委託者兼受益者が父親、受託者が長男となり、長男は受託者としてその権限に基づき、賃借人の立退き交渉、建物解体、建替え、建替え資金の借入れなどをすることになります。
この時に受託者が銀行から融資を受けることを「受託者借入」「信託内融資」と言います。
この時の債務が、父親死亡時の相続税の申告上「債務控除」の対象となるかという問題があります。

父親が死亡しても信託が終了しない設計の場合(いわゆる「受益者連続型」)、相続税法第9条の2第6項(※末尾に条文掲載)を根拠に債務控除の対象となることは争いが無いところです。
その一方で、父親の死亡により信託契約が終了する、いわゆる“一代限りの信託”などの場合に、信託終了時に残った債務は、債務控除の対象となるかどうかが議論・問題視されているようです。

前置きが長くなりましたが、今回は、信託契約が終了した時点の受託者借入の残債務が相続税の債務控除の対象となるかについて、コメントしたいと思います。

 

【「残余財産」の法的解釈と相続税法第9条の2第6項】

信託終了時における受託者借入の債務が相続税法上債務控除の対象となるという法的根拠は、相続税法第9条の2の第6項となります。

そして、今回の問題の根源は、同項において、「第1項から第3項までの規定により」として、同条第4項(信託が終了した場合)が除外されていることです。
この“第4項が除外されている”ということを根拠として、信託終了時の債務は、債務控除の対象にならないのではないかと、論じている専門職が多いようです。

 

しかし、これは、信託の本質についてきちんと理解すれば解決できる問題だと考えます。

つまり、信託の終了に伴い残余財産を帰属権利者が取得する場合、信託法第181条(※末尾に条文掲載)により、信託財産にかかる債権債務の清算(特に債務の弁済)がすべて完了しなければ、その残余財産は確定しません(『逐条解説 信託法』寺本昌広著)。

したがいまして、相続税法第9条の2の第4項にいう「信託の残余財産」という文言自体、既に債権債務の清算を終えている財産(実際に債務を完済していなくても、少なくとも机上での債権債務の計算をした後の正味財産)を概念していると言えます。

つまり、第4項でいう「信託の残余財産」は、当然に債務を清算済みの正味財産しか想定していないからこそ、第6項では第4項を除外していると解釈するのが自然であります(同条第1項から第3項までが「当該信託に関する権利」という文言を使用した上で、第6項は未清算であることを前提として「当該信託の信託財産に属する資産及び負債」という文言になっているのに対し、第4項が「残余財産」というシンプルな文言を使っていることがその理由だと考えます)。

 

【債務控除の対象外であるという立法趣旨であるとした場合】

もし仮に、立法担当者が「受益者連続型における債務控除は認めるが、信託契約が終了した場合における債務は債務控除の対象としない」という明確な趣旨・課税意思のもと相続税法第9条の2の第6項において第4項を除外しているとしましょう。

そうであるならば、そもそも、「信託契約が終わりさえしなければ債務控除の対象にできるんでしょ」と言わんばかりの、下記のような信託の終了事由を設けた場合は、課税当局の課税趣旨を逸脱する意図的かつ悪質な“租税回避行為”として結局否認されるリスクが多分にあると言えます。

 

≪信託の終了事由≫
「本信託は、当初受益者の死亡日の翌日に終了する。』
「本信託は、当初受益者の死亡後30日の経過をもって終了する。』

 

つまり、税務当局が明確な回答を出していないからと言って、本来は一代限りの信託の設計をすべきところを無理やり受益者連続型の設計にする必要はありません。

あくまで委託者兼受益者の希望・想い(信託目的)に則した財産の管理・活用・処分をするために家族信託を設計すべきであり、家族全員が理解・納得した設計を実行することこそがこの問題の本質であると考えます。
確実に債務控除の対象とするために、“一代限りの信託”ではなく、本来必要のない受益者連続型に敢えてするという提案は、そもそも不要であると考えます。

 

【参照条文:相続税法】
(贈与又は遺贈により取得したものとみなす信託に関する権利)
第9条の2 信託(退職年金の支給を目的とする信託その他の信託で政令で定めるものを除く。以下同じ。)の効力が生じた場合において、適正な対価を負担せずに当該信託の受益者等(受益者としての権利を現に有する者及び特定委託者をいう。以下この節において同じ。)となる者があるときは、当該信託の効力が生じた時において、当該信託の受益者等となる者は、当該信託に関する権利を当該信託の委託者から贈与(当該委託者の死亡に基因して当該信託の効力が生じた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。
2 受益者等の存する信託について、適正な対価を負担せずに新たに当該信託の受益者等が存するに至つた場合(第四項の規定の適用がある場合を除く。)には、当該受益者等が存するに至つた時において、当該信託の受益者等となる者は、当該信託に関する権利を当該信託の受益者等であつた者から贈与(当該受益者等であつた者の死亡に基因して受益者等が存するに至つた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。
3 受益者等の存する信託について、当該信託の一部の受益者等が存しなくなつた場合において、適正な対価を負担せずに既に当該信託の受益者等である者が当該信託に関する権利について新たに利益を受けることとなるときは、当該信託の一部の受益者等が存しなくなつた時において、当該利益を受ける者は、当該利益を当該信託の一部の受益者等であつた者から贈与(当該受益者等であつた者の死亡に基因して当該利益を受けた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。
4 受益者等の存する信託が終了した場合において、適正な対価を負担せずに当該信託の残余財産の給付を受けるべき、又は帰属すべき者となる者があるときは、当該給付を受けるべき、又は帰属すべき者となつた時において、当該信託の残余財産の給付を受けるべき、又は帰属すべき者となつた者は、当該信託の残余財産(当該信託の終了の直前においてその者が当該信託の受益者等であつた場合には、当該受益者等として有していた当該信託に関する権利に相当するものを除く。)を当該信託の受益者等から贈与(当該受益者等の死亡に基因して当該信託が終了した場合には、遺贈)により取得したものとみなす。
5 第一項の「特定委託者」とは、信託の変更をする権限(軽微な変更をする権限として政令で定めるものを除く。)を現に有し、かつ、当該信託の信託財産の給付を受けることとされている者(受益者を除く。)をいう。
6 第一項から第三項までの規定により贈与又は遺贈により取得したものとみなされる信託に関する権利又は利益を取得した者は、当該信託の信託財産に属する資産及び負債を取得し、又は承継したものとみなして、この法律(第四十一条第二項を除く。)の規定を適用する。ただし、法人税法(昭和四十年法律第三十四号)第二条第二十九号(定義)に規定する集団投資信託、同条第二十九号の二に規定する法人課税信託又は同法第十二条第四項第一号(信託財産に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属)に規定する退職年金等信託の信託財産に属する資産及び負債については、この限りでない。

 

【参照条文:信託法】
(債務の弁済前における残余財産の給付の制限)
第181条 清算受託者は、第百七十七条第二号及び第三号の債務を弁済した後でなければ、信託財産に属する財産を次条第二項に規定する残余財産受益者等に給付することができない。ただし、当該債務についてその弁済をするために必要と認められる財産を留保した場合は、この限りでない。

 

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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