2026年4月4日の読売新聞朝刊の1面記事によると、4月3日、政府は成年後見制度の抜本的な見直しを含む民法改正案を閣議決定し、今国会での成立を目指し衆院に提出した、とのこと。
もちろん、すぐに改正法が施行される訳ではなく、準備期間を経て2028年の夏から秋頃に施行が見込まれています。
そこで今回は、新しい成年後見制度はどう変わるのか、その結果として、成年後見制度を取り巻く実務にどのように影響が生じるのかについて、簡潔にご紹介します。

成年後見制度の改正案の重要ポイント
改正案の代表的な重要なポイントは、下記の3つと言えます。
(1)途中で制度利用をやめることができる
現行の後見制度は、一旦利用を開始すると、本人の判断能力が回復しない限り辞めることができませんでした。つまり、実質的には、一旦後見制度を利用すると、生涯後見制度と付き合わざるを得ませんでした。
遺産分割協議や不動産売却など、成年後見制度を利用する契機となった業務が完了しても、利用を辞めることができないため、親族後見人としての事務の負担がずっと続くことや職業後見人や後見監督人に対する報酬もずっと発生することになるので、本人及び家族からすると、硬直的で使いづらいという声が上がっており、制度利用には相当な覚悟が必要でした。
今回の改正案では、本人の判断能力が回復しなくても、家庭裁判所が不要になったと判断すれば、利用をやめることができるようになります。
もちろん、本人の権利や福祉を守るための後見制度であるので、簡単にやめることができると安易に考えるべきではありませんが、やめることができるという選択肢ができたことは大きな意味があると言えます。
(2)必要に応じた限定的な権限の付与(包括的な代理権付与の廃止)
現行の成年後見制度(法定後見制度)では、本人の判断能力の低下具合(残存能力)に応じて「後見人」「保佐人」「補助人」の3類型が用意されています。
本人の判断能力が無いのが通常の状態の場合(常態化している場合)は「後見類型」になり、後見人は本人の分身のように、財産管理や各種契約に関する包括的な「代理権」という大きな権限を与えられることになります。
また、本人が行った法律行為について、後見人が「取消権」を行使して、その行為が無かったことにできます。
まり、本人の消費者被害防止・財産保護・権利保全に一定の効果が見込める一方で、本人が自分で決める権利(自己決定権)が必要以上に制約されるとの指摘がなされていました。
改正案では、「後見人」と「保佐人」を廃止し、「補助人」に一元化します。
そして、「補助人」には、本人の福祉的ニーズに応じ、「遺産分割」など代理できる行為を必要な範囲で個別に認めることになります。
(3)後見人の途中交代が認められやすくなる
現行の後見制度は、後見人に健康上の理由などの合理的な理由が無いと「辞任」が認められず、後見人に著しい不正などが認められないと家庭裁判所は「解任」をしませんでした。
また、もし後見人を解任されると、後見人の欠格事由に該当することになり、他の後見人案件もすべて解任されてしまうので、裁判所としてもより慎重に判断を求められていました。
結果として、不誠実な対応、不適切な言動、業務怠慢といった程度では、職業後見人の交代をさせることができず、大きな不満・怒りを抱きながらも泣き寝入りせざるを得ないケースも少なくありませんでした。
改正案では、「辞任」と「解任」以外でも、事情に応じて交代できるようになります。
成年後見制度の改正が実務に与える影響
(1)後見制度の多様化・柔軟化で選択肢が増す
成年後見制度自体に柔軟性が出ることによって、成年後見制度の使い方のバリエーションが増えることになり、後見制度のオーダーメイド化の期待は高まります。
それと同時に、成年後見制度以外の施策との組み合わせもバリエーションが増えることになります。
さらには、これまで「成年後見制度よりも家族信託の方が柔軟性と軽負担で勝る」というケースが多かったが、「必ずしも家族信託で備えなくても、いざとなれば成年後見を使うという選択肢もそれほど大きなリスク・負担にはならない」というケースが増えることになるでしょう。
特に、自宅のスムーズな売却を主目的とする家族信託や“預金凍結対策”を主目的とする家族信託は、成年後見制度との比較において、その優位性は成年後見制度とあまり差が無くなるかもしれません。
(2)後見制度・家族信託等に精通した法律専門職の重要性が増す
従来は、成年後見制度の実務にあまり精通していない法律専門職でも、成年後見に関する相談や成年後見人選任申立て手続きの依頼を受任することができていたかもしれませんが、オーダーメイド型の新しい後見制度が施行された場合は、単に成年後見人選任申立て手続きをすればよいという単純な話ではなくなり、後見の申立ての検討段階で、成年後見制度をどのような目的・形態で利用するかという個別具体的な構想を描くことが求められます。
つまり、成年後見制度の利用形態に様々なバリエーションが生じたことで、成年後見に関する正確な実務知識と個々の事案における最適解を模索するコンサルティングスキルが求められることになります。
結果として、ますます後見制度の実務に精通していない専門職の関与は難しくなります。
新しい後見制度の下で成年後見人に就任して後見業務をおこなっていない法律専門職(弁護士・司法書士等)に、ニーズに即した成年後見制度の設計相談や後見人選任申立ての手続きの依頼をすることは避けるべきといえます。
(3)家裁の後見人選任手続きの長期化・後見監督事務の滞留リスク
後見制度のオーダーメイド化は、硬直的な制度運用を見直して、各事案の福祉的ニーズに即した理想的な制度のように映ります。
ただ、光があれば影もあり得る訳で、成年後見制度が多様化することにより、1つの後見申立て事件に対する裁判所の審理内容がボリュームを増し、成年後見人選任審判までの日数が長期化する(後見人として財産管理・法律行為ができるようになるまで、今以上に日数がかかる)ことが心配されます。
また、後見人が選任された後の家庭裁判所の監督事務も滞留しないかというも懸念もあります。
家庭裁判所の書記官などの負担は間違いなく増えると思われるので、新制度の施行後は、しばらく混乱が続くのではないかと危惧されます。


