賃貸経営を法人化する際、収益物件(アパートや賃貸ビル)を不動産オーナー「個人」から本人又は家族が設立した「法人」の財産に移転する方法として、「現物不動産売買」と家族信託を実行した上での「信託受益権売買」があります。これらはそれぞれ異なる特徴を持ち、手続きの流れや費用が大きく変わるため、違いを把握しておくことが重要です。
そこで今回は、賃貸経営の法人化における「現物不動産売買」と「信託受益権売買」の違いを一部ピックアップして紹介します。
賃貸経営の法人化における建物売買と受益権売買の違い
手続きの違い
賃貸経営を法人化する場合、収益物件たる建物のみを簿価で売買することが一般的です(建物の底地となる土地は評価額が高いことが多いので、移転に関するコストが高額になり過ぎて節税効果が薄くなってしまいます。土地は個人所有のまま残し、相続で移転するケースが一般的です)。なお、税務上のリスクを避けるために、土地の無償返還届出書を税務署に提出することも必要になります。
賃貸不動産たる建物を売買する場合、「売主 不動産オーナー個人」と「買主 法人」との間で通常の売買契約書を交わすことになります。
身内間の売買ですから、シンプルな売買契約書を交わした上で、所有権移転の登記手続きを行います。
一方、信託受益権売買の場合、まず不動産オーナー個人を委託者とし、その子を受託者として、収益物件たる建物のみを信託財産とする信託契約を親子間で締結して「家族信託」を実行することが一般的です。
その上で、受益者たる不動産オーナーがその保有する信託受益権(収益不動産から家賃等の経済的利益を受け取る権利)を法人に売買することになります。
つまり、「信託契約書の締結」と「信託受益権の売買契約書の締結」という2段階の手続を踏むことになります(さらにそれに付随した登記手続きも2段階になります)。
なお、この信託契約書と受益権売買の契約書は、法律的・税務的に難しい論点をはらみますので、
家族信託と受益権売買に精通した法律専門職の指導・監修は必須だとお考えいただいた方が良いでしょう。
コストの違い
賃貸不動産たる建物の現物を売買する場合、買主への所有権移転登記手続きを行うので、登録免許税(固定資産税評価額の2%)や司法書士への登記手続き報酬などが必要となります。また、不動産の所有者となったことに伴い不動産取得税(固定資産税評価額の4%)も課税されます。
一方、賃貸不動産たる建物のみを信託財産とする家族信託を実行した上で、その信託受益権を売買する場合は、次のようなコストがかかります。
まず、家族信託を実行するための信託契約公正証書の作成に関し、法律専門職に支払うコンサルティング報酬及び公証役場の手数料がかかります。それから、信託登記の登録免許税(固定資産税評価額の0.4%)や司法書士への登記手続き報酬がかかります。次に受益権売買により「受益者」及び「委託者」の変更登記(1物件につき金2,000円)がかかります。
上記をまとめますと、登録免許税・不動産取得税を合算した、いわゆる“流通税”と言われるコストが、現物不動産売買の場合は合計「6%」になるのに対し、不動産取得税がかからない信託受益権売買の場合は「0.4%+金2,000円」程度に収まります。
もちろん、信託受益権売買の場合は、馴染みの薄い施策になりますので、この分野に精通した法律専門職のサポートが絶対的に必要になるでしょうから、前述の「法律専門職に支払うコンサルティング報酬」がかかることは覚悟すべきでしょう。
しかし、それを踏まえても、収益建物の固定資産税評価額がそれなりの金額になる場合は、建物現物売買よりも受益権売買の方が圧倒的にコストをカットできる可能性があります。
参考記事
収益建物のみの売買における家族信託の活用
~「受益権売買」による流通税コスト削減策~
【詳しくはこちら】
以上、今回は、賃貸経営の法人化における「現物不動産売買」と「信託受益権売買」の違いを一部ピックアップして紹介しました。
信託受益権の売買は、税理士さんでも詳しい方は多くないという非常に高度な施策になりますが、建物の簿価や固定資産税評価額次第では、非常に節税効果が見込める賃貸経営の法人化の手段になり得ます。
ご存知なかった方は、是非ともこれを機に選択肢の一つとしてご検討いただけますと幸いでございます。
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