不動産を信託すると、『信託』を原因とした所有権移転登記手続きを行い、登記簿の甲区欄にその旨が記載されます。
つまり、登記簿上の所有者が形式上委託者から受託者名義に変わります。
これに伴い、どのような税金が課税されるか検討したいと思いますが、前提として下記の2つのケースに分けて考える必要があります。
(A)『委託者=受益者』のケース
(B)『委託者≠受益者』のケース
まず、上記(A)(B)に共通する税金として、冒頭の所有権移転登記手続きにかかる『登録免許税』が発生します。
これは、当該不動産(土地・建物)の固定資産税評価額の4/1000です(所有権移転の登記分は非課税で、信託の登記分が4/1000です)。
ただし、平成24年4月1日より平成27年3月31日までは、土地については3/1000の特例措置がなされています(租税特別措置法第72条)。
次に、受託者に対する『不動産取得税』については、上記(A)(B)ともに登記簿上の形式的な所有権移転に過ぎないという理由で課税されません。
さらには、委託者に対する『譲渡所得税』も、信託による形式的譲渡で委託者に利益が発生する訳ではありませんので、上記(A)(B)のケースともに課税の余地はありません。
なお、これも上記(A)(B)に共通する論点として、毎年1月1日の不動産所有者に対して課税される『固定資産税』がありますが、信託による所有権移転登記をした翌年の5月から7月頃にかけて、不動産の形式上の名義人である受託者に対して、固定資産税の課税通知書が送付されます。
つまり、受託者が新たに固定資産税の支払い義務を負うことになりますが、実務上は、信託財産に関する費用として、信託財産の中から受託者が支払うことになりますので、実質的には受益者が負担していることになります。
固定資産税は、信託により納税義務者が変更になるだけで、税額が増えるわけではありませんので、新たな税金発生の問題にはなりません。
では、上記(A)(B)で違いが出てくる税金について考えましょう。
(A)『委託者=受益者』のケース
自益信託(委託者=受益者)は、実質的な財産権の移動(経済的な利益帰属先の変更)はありませんので、『贈与税』が課税される余地はありません。
なお、余談ですが、信託が終了した場合についても一言触れておきます。
信託が信託契約に定める終了事由の発生(あるいは合意解除等)により終了した場合、当該信託不動産の名義は、受託者から契約書の中で指定された者(残余財産の帰属先)名義に変更になりますが、残余財産の帰属先と当初委託者(信託設定前の所有者)が、同一人物であれば不動産取得税はかかりません(これも形式的な所有権移転に過ぎないからです)。
一方、残余財産の帰属先と当初委託者が異なる場合には、財産権が新たに移動したことになり、この残余財産の帰属先の者に不動産取得税が課税されます。
(B)『委託者≠受益者』のケース
自分以外の者のために信託を設定する他益信託(委託者≠受益者)は、実質的な財産権の移動がおこりますので、信託契約が発効したした時点で、委託者から受益者への不動産価格相当の贈与がなされたものとして(みなし贈与)、『贈与税』が課税されます。