家族信託と成年後見制度のどちらを利用すべきかについて、コスト面だけを比較するのはあまり得策ではありません。
本来は、ご本人の保有資産状況、収支状況、ご家族構成や関係性、本人及びご家族のご意向や不安・リスクと感じていることを踏まえ、どうしたらそれらの希望・想いを実現し、不安やリスクを解消できるかを検討すべきです。
コスト面の比較は、取るべき施策の検討において、その一要素に過ぎません。
仮にコスト面を最優先に考えたとしても、下記の点において家族信託の方がコストを抑えられるケースは少なくなりません。
成年後見制度を利用し、家族が後見人に就任できたとしても、本人の保有資産次第で後見監督人が就けられますので、後見監督人報酬が月額1~2万円、ご本人が亡くなるまでずっと発生する可能性があります(もし、家庭裁判所の判断で家族が後見人になれず、司法書士・弁護士等の職業後見人が就けられる場合は、後見人報酬は、月額2~6万円になります)。
したがいまして、後見制度の利用を開始してから、本人(老親)に10年長生きしてもらうとすると、後見監督人報酬だけで120~240万円程度のコストが発生することが想定されます。
一方の家族信託は、保有資産に応じて、公証役場の手数料や信託登記にかかる登録免許税等の実費も法律専門職のコンサルティング報酬も変動しますので、一概には言えませんが、最初の導入時にまとまったコストが発生しますが、以後のランニングコストは原則かかりません(家族が財産の管理・処分を実行し、外部の人間が継続的に関わる仕組みにしないことが多いので)。
成年後見制度における「事務の負担」(家庭裁判所や後見監督人に数カ月に1回のペースで報告する義務があります)や「できることが限られるという制約」(資産の組換えや相続対策ができなくなるリスクがあります)という負担・制約を負いながら、なおかつランニングコストもかかるという「経済的負担」を考えると、コスト面だけで成年後見の方が良いという判断は、簡単にはできないと言えます。
以上を踏まえますと、「家族信託よりも成年後見制度を利用した方が安くて良い」というコメントをした弁護士・司法書士等の法律専門職は、恐らく家族信託についてあまり詳しくない方ではないかと推測されます。
もしかしたら、成年後見の実務(成年後見制度を利用することでのご家族の負担やリスクが生じること)についてもあまり詳しくない専門職かもしれません。
といいますのも、成年後見人や後見監督人に就任して、実際の後見実務に精通した弁護士・司法書士等の法律専門職は、業界全体の50%未満です。
家族信託と成年後見に精通した法律専門職となりますと、全体の1割程度と言っても過言ではないでしょう。
家族信託と成年後見の比較検討においては、両者の法的知識のみならず、実務についても精通した法律専門職に相談することを強くお勧めいたします。