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株式の家族信託と「受益者変更権」

6月 16, 2021

受益者変更権とは

自社株式を信託財産として管理・処分を任せる『株式信託』などにおいて活用される権限として、「受益者変更権」という権限があります(収益不動産を信託財産とする不動産信託においても、この受益者変更権を活用する方策はありますが、今回は、事業承継対策における株式信託についてだけでお話したいと思います。)。

これは、信託財産の持ち主であり、信託財産から経済的利益(賃料や配当)を受け取る権利(=受益権)を持つ者である「受益者」を変更できる権限です。
通常は、受益者本人でなければ「受益権」という財産について贈与や売買することはできません。

つまり、受益者本人が大病や認知症で判断能力が著しく低下した後は、受益権を他人に譲渡することができなくなります。
もちろん、そのような事態になっても、受託者が信託財産の管理をしますので、その財産に関して困った事態が起きる訳ではありません。
ただ、受益権という財産の一部又は全部を有償又は無償で譲渡するという節税の常套手段ができなくなることにはなります。

 

不測の事態に対応

そこで、受益者を自由に変更したり、複数いる受益者の受益権割合を変更したりできる権限を持つ者(=受益者変更権者)を信託契約書で定めることにより、事業承継対策としての株式信託において、次に挙げる代表的な2つの不測の事態に対応できるようにすることが考えられます。

① 贈与者の判断能力低下後も実質的な暦年贈与の効果を出すことができる

先ほど触れた通り、今後の自社株の株価評価をみながら後継者に受益権(実質的には自社株式という財産)を何年かに分けて暦年贈与をしていく計画を立てていた場合に、その大株主の判断能力が無くなってしまった事態です。
このような事態が起きても、受益者変更権者がその権限を行使することにより、大株主たる受益者の判断能力喪失後も、当初の計画どおりの暦年贈与の実行をすることができます(正確には、この大株主から後継者への無償の財産移転は贈与契約に基づくものではないため、税務的には“みなし贈与”として贈与税の課税対象になります)。

 

②本人の意思に関わらず財産を回収(移転)することができる

後継候補者と見込んで生前から受益権持分(実質的には自社株式)を徐々に渡しておいた場合に、一転その候補者が後継者でなくなるような事態です。
たとえば、後継者育成の過程において「後継者として不適任だ」と判断するケース、あるいは後継候補者自ら後継者となることを辞退・放棄するような事態が起こり得ます。
その場合には、既に旧後継候補者に渡してしまった受益権持分は自主的に返上してもらうことになりますが、もし同人の協力が得られなければ、「受益者変更権」を行使して、本人の同意・不同意に関わらず受益権を回収することが可能となります(この場合も、税務的には“みなし贈与”として贈与税の課税対象になります)。

 

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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