信託銀行等を通して行う「教育資金贈与信託」について、誤解をされている方も多いので、今回はその誤解を解くとともに、これを「家族信託」の仕組みで代用できるかについてご説明したいと思います。
◆教育資金の援助は常に非課税!
「教育資金贈与信託」は、平成25年度税制改正において創設された贈与税の非課税措置の制度で、両親や祖父母がその子・孫に対して、教育資金として一人につき金1,500万円まで一括して贈与しておいても、贈与税を非課税とする制度です。
ただ、前提として理解しておかなければならないのは、「子や孫の教育資金にかかる費用を両親や祖父母が必要なときにその都度負担する場合には、贈与税は常に非課税」であるという事実です。
実はこのことを知らない方も多いです。
極端な例を申し上げれば、孫が医学部に合格したので、初年度の学費(入学金や1年目の授業料など)として金1,000万円を祖父が負担してあげても、一切贈与税の課税はされません。
これは、両親や祖父母には子や孫の扶養義務があるからで、子や孫に関する生活費や教育費、医療費などの「実費」をその都度両親や祖父母が負担する限りにおいては、贈与税の課税の概念が生じません。
◆なぜ「教育資金贈与信託」が必要か?
教育資金の援助は常に非課税であるのに、なぜわざわざ「教育資金贈与信託」を利用する意味があるのか、しかも名称の中に「贈与」という言葉が入っているのは何故か、という疑問が生じます。
ポイントとなるのは、「実費」を「その都度」という部分です。
たとえば、高齢の祖父母世代が潤沢な現預金を持っている場合に、いつまでも元気であれば、孫やひ孫に関する教育費等を負担してあげれば、「教育資金贈与信託」という仕組みは必要ありません。
でも、もし祖父母が大病をしてしまったり、認知症を発症して判断能力が著しく低下してしまうと、「その都度」孫等に資金援助してあげることができなくなります。
そこで、孫等一人につき金1,500万円まで、教育資金の予算として予め信託銀行等に預けておくことで、祖父母が自ら資金援助をしてあげられなくなっても、援助を受けたい孫等の側から信託銀行に請求書や領収書等の証拠書類と共に支払い請求をすることで、受け取れるというのがこの「教育資金贈与信託」の仕組みの便利なところです。つまり、援助する側の健康状態に左右されない確実な教育資金の援助が可能となる訳です。
では、この仕組みを、信託銀行ではなく家族が財産管理を担う「家族信託」で代用することはできないのでしょうか?
結論から申し上げますと、「家族信託」で「教育資金贈与信託」の代用は可能です!
ただし、家族信託の法的根拠となる信託契約書(原則として「信託契約公正証書」を作成)において、信託の目的、信託の内容(受託者がすべき業務)、受託者の権限及び義務の条項等において、子や孫への扶養義務に基づく教育費等の支払いを想定していることをきちんと記載する必要があります。
また、実際の金銭管理において、受託者が教育費等の実費の支払いを適切に行わなければ、税務当局からは、租税回避行為を意図した悪質な信託設計として、後々課税のリスクを負いかねません。
もし、両親や祖父母が保有する金融資産について、ご自身たちの生活・介護・療養等の資金とするだけでなく、子や孫、ひ孫の生活・教育・医療等ために使ってあげたいというご希望をお持ちの方がいらっしゃいましたら、「家族信託」を取り得る選択肢の一つに加えてご検討されることをお勧めします。
なお、ご検討される場合は、税理士や弁護士、司法書士、行政書士なら誰でも相談にのれるお話ではありませんので、必ず「家族信託」に精通した法律専門職のアドバイスを受けることは必須であるとお考えください。