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相続空き家の3,000万円特別控除(租税特別措置法35条3項)について、信託契約の残余財産の帰属権利者も適用できるか

1月 19, 2023

「相続」又は「遺贈」により被相続人の居住用家屋(空き家)及びその敷地等を取得した人が、相続発生から3年以内に当該不動産を売却した際に、その譲渡益について、金3,000万円まで控除(つまり課税されない)という『被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例』(通称『相続空き家の3000万円特別控除』)があります(租税特別措置法35条第3項)。

この租税特別措置法第35条第3項は、相続に伴い放置される空き家の発生を抑制するため、下記の1~10の要件にあてはまる場合に適用することできます。

「相続空き家の3000万円特別控除」が適用できる10の要件

  1. 「相続」又は「遺贈」により被相続人の居住用家屋(空き家)及びその敷地等を取得した人
    ※ 土地だけ生前贈与により取得していた場合は適用できません。
  2. 相続開始直前において被相続人が一人で居住している
    ※ 被相続人が介護保険法に規定する要介護認定等を受け、かつ相続開始直前まで老人ホーム等に入居していて空き家だった場合も適用可
  3. 相続開始から譲渡まで貸付用又は居住用として利用されていない
  4. 建物が昭和56年5月31日以前に建築されたものである
  5. 建物が区分所有建物でない
  6. 相続開始から3年を経過する年の12月31日までの譲渡である
  7. 譲渡の時点で建物が耐震基準を満たすか、建物を取壊した後の底地を譲渡する
  8. 譲渡価格が金1億円以下である
    ※ 売却が複数回にわたる場合や複数の相続人で売却する場合には、それぞれの売却金額を合算して1億円を超えるかどうかで判定
  9. 譲渡の相手が配偶者・直系血族など特別の関係がある者でない
    ※ 生計を一にする親族、内縁関係、同族会社なども不可
  10. 相続税の取得費加算や収用交換の特例の適用を受けない

さて、この『相続空き家の譲渡所得の特別控除』ですが、信託契約終了に伴い残余財産の帰属権利者が取得した不動産を譲渡した場合にも適用できるかについて、令和4年12月20日付東京国税局審理課長回答をご紹介します。

信託契約終了に伴い残余財産の帰属権利者が取得した不動産を譲渡した場合にも適用できるか
(令和4年12月20日付東京国税局審理課長回答)

事案の概要

※ 実際の照会内容よりもシンプルな事例にしております

委託者兼受益者となる母親Aと受託者となる長男Bとの間で、母親Aの自宅(居住用家屋及びその敷地。以下「本物件」といいます。)を信託財産とする信託契約を締結。
この信託契約は、受益者たる母親Aの死亡により終了する設計で、母親Aの死亡により当該信託契約は終了し、残余財産となった本物件は、残余財産の帰属権利者として指定された長男Bに帰属。
その後、母親A死亡の翌年に長男Bが本物件を売却しましたが、それにより発生した譲渡益につき、租税特別措置法第35条第3項《相続空き家の譲渡所得の特別控除》に規定する特例を受けることができるか、というものです。

東京国税局の回答の要旨

租税特別措置法第35条第3項に規定する特例は、「相続又は遺贈」による被相続人の自宅の取得をした相続人(包括受遺者を含む)が、一定の譲渡をした場合に、その譲渡所得の計算上、本件特例の適用を受けることができる旨規定しています。

ところで、信託契約などにより信託の受益権を取得する行為や、信託が終了し残余財産が権利者に移転した場合などについては、法律上の「贈与」又は「遺贈」には該当しないものの、実質的には贈与又は遺贈と同様の効果をもたらすことから、相続税法においては、これらの取得又は移転などについて贈与又は遺贈による取得とみなして相続税又は贈与税の課税対象とする措置が講じられています(相続税法第9条の2)。

この点、本件特例は、相続税法の規定により遺贈等による財産の取得とみなされる場合を対象に含む旨は規定していません。
また、本件特例は、相続人が、相続により、その意思の如何にかかわらず、被相続人居住用家屋等の適正管理の責任を負うこととなることを踏まえた趣旨の下、適用対象者を「相続人」に限定し、かつ、「相続又は遺贈による被相続人居住用家屋等の取得」をした場合に限り適用すると規定したものであると考えられるところ、信託終了による残余財産の取得は法律上の相続又は遺贈には当たらず、受託者は信託行為の当事者であること、信託行為の当事者ではない帰属権利者は、その権利を放棄することができること(信託法183③)を踏まえると、上記本件特例の趣旨の下では、帰属権利者による残余財産の取得を相続人による相続又は遺贈による財産の取得と同様に取り扱うことは相当ではないと考えられます。

以上のことから、信託契約に基づき、委託者兼受益者の相続開始という信託終了事由の発生により信託が終了したことに伴い、当該信託に係る残余財産を帰属権利者が取得したことは、本件特例に規定する相続人による「相続又は遺贈による被相続人居住用家屋等の取得」に該当するとは認められず、また、死因贈与契約に基づき当該残余財産を取得したとする事情も認められませんので、当該残余財産の譲渡に係る譲渡所得の計算上、本件特例の適用を受けることはできません。

まとめ:考慮しておくべき重要な3つのポイント

昨年末に出されたこの東京国税局審理課長回答は、「相続又は遺贈による被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等の取得をした相続人」という租税特別措置法第35条第3項の文言を厳格に解釈したといえます。

ただ、放置空き家を抑制するという政策的観点からみれば、『相続空き家の3000万円特別控除』を信託の帰属権利者に適用しても良いのではないかと考えますが、この国税局の回答が実務に与える影響も少なくないです。

老親が独居で暮らす実家について、老親亡き後に信託の残余財産帰属権利者として実家を承継した相続人が換価処分する場合には、税制優遇措置が受けられない点に注意したいところです。

つまり、今回の「東京国税局審理課長回答」を踏まえて考慮しておくべき重要なポイントは、次のとおりです。

重要なポイント

  1. 老親の実家を将来売却するとしたらどのくらいの価格で売却できるのかの想定(査定)をしておく
  2. 不動産取得時の価格を把握し、取得費よりも想定売却価格が上回るかどうか(譲渡益が発生するかどうか)を見極める
  3. 譲渡益が発生することが見込まれる場合は、老親の生前かつ老親が住まなくなってから3年以内に売却すべきかを見極める

参考:国税庁のホームページ

信託契約における残余財産の帰属権利者として取得した土地等の譲渡に係る租税特別措置法第35条第3項に規定する被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例の適用可否について

https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/bunshokaito/joto-sanrin/221220/index.htm

 

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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