老親の保有資産の凍結対策・円満円滑な資産承継対策などのために「家族信託」を検討する方が増えています。
ただ、家族信託の実務には、一般の方にはなかなか分かりづらい論点が多数ございます。
そこで今回は、家族信託の実務的論点の一つである「特定委託者」について、分かりやすく解説します。

特定委託者とは?
「特定委託者」とは、相続税法第9条の2の第5項(下記に要旨を記載)に規定された者を言います。
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≪相続税法第9条の2 第5項 の要旨≫
「特定委託者」とは、信託の変更をする権限(軽微な変更をする権限を除く。)を現に有し、かつ、当該信託の信託財産の給付を受けることとされている者(受益者を除く。)をいう。
※ 条項は、読みやすいように原文の一部を省略しております。
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この条文を整理すると、下記の2つの要件を満たす者が「特定委託者」になると解釈されます。
㋐軽微ではない信託内容の変更権限を有すること
㋑(受益者でないのに)信託財産から給付を受けることとされていること
この「特定委託者」の要件を満たすと、相続税法第9条の2 第1項(下記に要旨を記載)により、信託契約の設定時(契約時)に委託者から「特定委託者」に贈与があったとみなされ、贈与税が課される可能性があります。
言い換えると、信託内容を変更できるだけの大きな権限を持ち、なおかつ信託財産から給付を受ける者は、「受益者」に指定されていなくても、受益者と同様の立場(受益者と同様に利益を受ける者)とみなされるので、信託財産の実質的な持ち主として、無償でその立場を得た者に対しては、贈与税の課税対象になるという考え方です。
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≪相続税法第9条の2 第1項 の要旨≫
信託の効力が生じた場合において、適正な対価を負担せずに当該信託の「受益者」・「特定委託者」となる者があるときは、当該信託の効力が生じた時において、当該「受益者」・「特定委託者」は、当該信託に関する権利を当該信託の委託者から贈与により取得したものとみなす。
※ 条項は、読みやすいように原文の一部を加筆・省略しております。
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特定委託者とみなされて贈与税課税を受けるリスクがある者は?
実際に「特定委託者」(=みなし受益者)として取り扱われるリスクが最も高いのは、「受託者」であると考えられます。
つまり、「受託者」は受益者のために信託財産を管理し、信託財産を受益者に給付する役割・職務を負う立場ですが、その立場の受託者が、実質的に信託契約の内容を大きく変更できる権限を持ち、なおかつ経済的な恩恵(信託財産から給付を受けること等)も受けているケースがあるとすれば、それは、受託者に対して贈与税課税がされ得るということになります。
特定委託者とみなされないための対策が必要か?
特定委託者とみなされて贈与税を課税されないためには、前述の特定委託者の要件㋐㋑のいずれかの要件を満たさないようにする必要があります。
要件㋐対策:受託者に変更権限を持たせない
軽微な変更にとどまらず重要な契約条項であっても、受託者が単独で信託契約の内容を自由に変更できる権限を持っている場合は、前述の要件㋑に該当する可能性が高くなりますので、要注意です。
信託という財産管理の仕組みは、本来「受益者」のためのものであるべきところ、受益者の関与無く受託者が単独で信託契約の内容の変更までできることになれば、信託の仕組み自体を受託者が完全に支配していることになり、信託の本来的な機能が失われかねないからです。
実務上、信託契約書には、委託者兼受益者と受託者の合意により変更できる旨を定めているのが一般的です。
その一方で、高齢の受益者の判断能力が低下するリスクを踏まえ、受託者と受益者代理人との間で変更できる設計や、敢えて受託者と信託監督人だけで変更できる設計をするケースなど、様々なバリエーションはございます。
ただ、いずれの場合でも、最も信頼を寄せて財産管理を任せる「受託者」に内容変更に関与する権限を与えることは自然な考えとなります。
「特定委託者」の要件に該当しないようにすることを意図して、受託者に変更に関与する権限を一切持たせないことの方が不自然となり、本末転倒とも言えるので、「受託者に変更権限を持たせない」という対策は考える必要はないと言えるでしょう。
要件㋑対策:信託財産から給付を受けない
信託は、原則として受益者以外が信託財産から経済的な利益を得ることは許されません。
したがいまして、受益者以外の者が信託財産から経済的な利益を受けるのは、次の2通りくらいしか想定できません。
(a)受益者の扶養義務の範囲内での金銭給付
受益者の民法上の扶養家族に対して、信託財産から金銭給付をする場合には、信託契約書の中にきちんとその旨を明記する必要があります。
また、扶養家族の一人となる受託者が信託財産から扶養義務の範囲内で金銭給付を受ける場合には、「利益相反行為」に該当しますので、その都度受益者の承諾を得るか、あらかじめ信託契約書の中に具体性のある「利益相反行為容認条項」を盛り込んでおく必要があります。
つまり、(a)のケースにおいては、信託法の規定の中で合法的に給付を受けていれば、「特定委託者」とみなされて贈与税の課税対象となるような利益を受けているとみなされる余地は無いと考えます。
(b)受託者への信託報酬としての金銭給付
信託契約書の中で、受託者の信託事務の労に対する対価たる「信託報酬」を設定することができます。
この場合、信託財産から給付を受けていることになりますが、やはり信託法の規定の中で合法的に給付を受けていることになりますので、「特定委託者」とみなされて贈与税の課税対象となるような利益を受けているとみなされる余地は無いと言えます。
つまり、受益者以外の者が信託財産から経済的な利益を受けるケースとして想定される上記(a)(b)のいずれの場合も、税務上問題視される余地は無いと思われます。
したがって、「特定委託者」の要件に該当しないようにすることを意図して、「信託財産から給付を受けない」という対策も考える必要はないと言えるでしょう。
結論
そもそも、「特定委託者」とみなされて課税を受けるリスクがあるケースとは、受益者でないにもかかわらず、受益者と同等に信託に強い影響力を持つだけではなく、実質的に信託財産から経済的に利益を受けている者となりますので、実務上、家族信託の設計と運用を適切に行っていれば、この要件を満たすようなケースは想定できないと考えます。
ことさら「特定委託者」の要件に該当するリスクを強調している一部の専門職がいるようですが、そのような情報に踊らされることなく(奇をてらう設計をすることなく)、家族のニーズに即した適切な家族信託の設計をし、適切に受益者たる老親のために適切な財産管理を遂行してくことが大切です。
当事務所は、東京都内はもちろん、神奈川・千葉・埼玉など東京近郊に限らず、Zoom等のリモート打合せも駆使しながら、全国エリアで対応しております。
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