「遺言執行費用」の取り扱いについて、相続税の計算上、相続財産からの債務控除ができるかどうか、遺留分との関係はどうなるのかといった点について確認していきます。
1.「遺言執行費用」とは
遺言執行費用は、主に下記の①~⑥に該当する費用のことを言います。
①遺言執行者の報酬
②遺産の調査・相続人調査に関する費用
③遺言書の検認手続き費用
④相続財産の維持管理に関する費用(固定資産税・管理費・水道光熱費など)
⑤不動産の所有権移転登記に関する費用(登録免許税・司法書士報酬など)
⑥預貯金の解約払戻し手続きに関する費用
2.遺言執行費用は相続税から債務控除できない
相続税の申告のための計算過程において、プラスの財産から引くことができる(「債務控除」ができる)ものは、公租公課を含め「被相続人の債務」で相続開始の際現に存するもの、または「葬式費用」とされています(相続税法第13条第1項)。
遺言執行費用は、「被相続人の債務」には該当しないため、相続税の計算において債務控除をすることができません。
民法第1021条には、「遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする」と規定されておりますので、遺言執行費用は、相続財産を受け取った人が負担すべき費用となります。
実務上は、遺産総額から遺言執行費用を差し引いた残額を遺言書の記載内容にしたがって各相続人・受遺者が受け取ることになります。
3.遺言執行費用は遺留分からも控除できない
民法には、遺言執行費用によって「遺留分を減ずることができない」旨が規定されています(民法第1021条但書)。
したがって、法定相続人が遺留分侵害額請求を行った際に、遺留分の算定対象財産となる遺産総額から遺言執行費用は控除することができないとするのが通説です。
遺言執行費用は、実際に遺産を取得する相続人・受遺者の取得する財産から負担することになります。
【参考条文:民法】
(遺言の執行に関する費用の負担)
第1021条 遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。ただし、これによって遺留分を減ずることができない。