遺産分割協議において、生命保険金を代償金として利用する代償分割という手法は、有効な手段になり得ます。
しかし、そのやり方次第では、代償金として支払った金額に対して贈与税の課税対象となるリスクがございます。
そこで今回は、代償分割に生命保険金を利用する場合の贈与税課税のリスクと課税を受けないためのやり方について解説します。
(1)代償分割とは
「代償分割」とは、複数の相続人のうちの一部(例えば長男)が遺産を取得し、その代わりに他の相続人(例えば長女)に対し、金銭(代償金)を支払うという遺産分割の方法のことを言います。
遺産たる不動産を共有相続しない手法として、よく使う手法です。
(2)生命保険金とは
本稿でいう「生命保険金」とは、被相続人(被保険者)が死亡したことにより、あらかじめ指定された保険金受取人に支払われる死亡保険金を想定しております。
この死亡保険金は、法律上、受取人の固有の財産となる(遺産にはならない)ため、遺産分割協議の対象にはなりません(税務上は、“みなし相続財産”として相続税の対象になります点はご注意ください)。
(3)代償金と生命保険と贈与税課税の関係
下記の3つのパターンに分けて、代償金と生命保険に関する贈与税課税の有無について解説します。
(A)贈与税が課税されないケース ~遺産も生命保険金も両方受け取る場合~
例えば、父親が死亡して相続人が長男と長女の場合で、遺産が自宅不動産(時価約2,000万円)と僅かな預金(葬儀費用等で費消して残らず)しかないケースを想定します。
遺産分割協議において、自宅不動産は長男が単独で相続したい場合、自宅の時価総額に見合うだけの他の遺産が無いので、長女は遺産分割協議に納得できなくなります。
そこで長男は、自宅を自分が相続する代わりに、長女に対して自宅不動産の時価の半分程度の金銭(代償金1,000万円)を長男自身の財産から支払うことで合意を目指します。
長男がもともと金融資産を潤沢に持っていれば、自己資金から支払いに充てれば済みますが、そうでない場合は、代償金の資金調達が難航することが想定されます。
そのような事態に備え、父親が生前に生命保険に加入し、死亡保険金(金1,000万円)の受取人を長男にしておくことができれば、長男が得た死亡保険金は、長男固有の金融資産として、代償金の原資にすることが可能となり、代償分割がスムーズにできることになります。
つまり、長男は自宅不動産を相続する代わりに、長女に対して金1,000万円の代償金を支払う旨の遺産分割協議に合意をし、この代償金の原資については、自分が受けとった父親の生命保険金を充てるという解決策です。
この場合、長男から長女への金1,000万円の支払については、遺産分割の一環として処理がされますので、贈与税の課税を受けることはありません。
★生命保険金を代償金の原資とする場合の贈与税非課税ための要件★
生命保険金を代償金の原資とする場合において、贈与税の課税を受けないようにするためには、下記の2つを満たす必要がります。
要件①:代償金を支払う者が相続財産を取得していること
要件②:支給される代償金の額が、相続財産の積極財産の額を超えないこと
前述の例では、上記①②の要件をともに満たしているので、贈与税課税の心配は不要となります。
(B)贈与税が課税されるケース ~生命保険金しか受け取っていない場合~
例えば、父親が死亡して相続人が母親、長男、長女の3人場合で、遺産が自宅不動産(時価約2,000万円)と僅かな預金(葬儀費用等で費消して残らず)、生命保険金(死亡保険金1,000万円)しかないケースを想定します。
遺産分割協議において、自宅不動産は母親が単独で相続したい場合、自宅の時価総額に見合うだけの他の遺産が無いですが、長男は、保険金を受け取っているので不満はありません。その一方で、長女は何ももらえないとすると遺産分割協議に納得できなくなります。
そこで長男は、自分が受け取った死亡保険金1,000万円から長女に対して金500万円を支払うことにしました。
この場合、遺産を何も相続していない長男(死亡保険金は「遺産」ではないので)が長女に対して金500万円を支払うことになるので、長男から長女への支払は、「代償金」と認められません(前述の要件①を満たしていないことになります)。
その結果として、長女は、長男から贈与を受けたものとみなされ、長女に対して贈与税が課税されてしまいます。
(C)贈与税が課税されるケース ~代償金が死亡保険金額を超えている場合~
例えば、父親が死亡して相続人が長男と長女の場合で、遺産が自宅不動産(時価約2,000万円)と僅かな預金(葬儀費用等で費消して残らず)、生命保険金(死亡保険金5,000万円)のケースを想定します。
遺産分割協議において、自宅不動産は長男が単独で相続したい場合、長男は、自宅を自分が相続する代わりに、長女に対して死亡保険金の半額である金2,500万円の代償金を支払う旨合意しました。
この場合、長男は、自分が相続した自宅の時価評価金2,000万を超えて代償金を支払っておりますので、前述の要件②を満たしていないことになります。
したがいまして、代償金として支払った金2,500万円と長男が相続した財産評価額金2,000万円との差額である金500万円が贈与であるとみなされ、長女に対して贈与税が課税されてしまいます。
以上、今回は、代償分割に生命保険金を利用する場合の贈与税課税のリスクと課税を受けないためのやり方について解説しました。
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