≪任意後見の受任者は複数とすることが可能!≫
任意後見契約における受任者は、複数でも可能です。
つまり、任意後見人は、同時に複数が就任することができます。
そして、複数の任意後見人に役割分担を決めることもできますし、各自単独で任務遂行する権限を与えることも、共同で権限を行使すべき行為を定めることも可能です。
予備的受任者を置くことは可能?
では、任意後見人は単独にしておきつつ、その者が病気・事故等で就任できない場合に備え、予備的受任者を定めておくこと、言い換えれば複数の任意後見受任者に順位づけは可能でしょうか?
その答えは、「予備的受任者」という定めはできない(無効とされる)が、契約条項(特約)の記載を工夫することで、実質的には就任する任意後見人に優先順位を付けることはできる、ということになります。
ただし、任意後見契約がなされると、公証人の嘱託により、本人及び任意後見受任者の情報、代理権の範囲が法務局における「成年後見登記」の登記簿に記載されることになりますが、この成年後見登記には、予備的受任者の旨を登記できないばかりか、特約条項を登記することもできません。
つまり、この特約は、契約当事者(委任者、受任者A、受任者B)を拘束することはできても、家庭裁判所の審判内容を拘束することはできず、家庭裁判所がこの特約を考慮・尊重することはないと考えられます。
契約形態は2通りある
実質的に就任する任意後見人に優先順位を付ける方法としては、下記の2通りが考えられます(Aがメインの任意後見受任者、Bが予備的任意後見受任者とします)。
㋐委任者と任意後見受任者Aと任意後見受任者Bの三者で1つの任意後見契約を締結する方法
㋑委任者と任意後見受任者A、委任者と任意後見受任者Bの2本の任意後見契約を締結する方法
㋐については、委任者が受任者Aと受任者Bの両名を相手方とする1本の任意後見契約を3者で締結し、その上で、任意後見契約に定める特定の事由が発生した時に任意後見受任者Bの職務が開始するように、条件付就任の特約を付けるイメージです。
いざ任意後見契約を発効させたいタイミングが来た場合、任意後見受任者Aに対してのみ任意後見監督人選任審判の申立てをすれば、任意後見人Aの業務のみが開始することになります。
なお、この契約形態のデメリット・リスクは、任意後見受任者ABのうち、片方に契約終了事由が生じると、任意後見契約が発効していようがいまいが、任意後見契約自体が終了してしまうことです。
例えば、任意後見人Aが死亡した場合、任意後見人Bが生きていても任意後見契約が終了してしまうことになります。
㋑については、委任者と任意後見受任者Aのとの間の任意後見契約と、委任者と任意後見受任者Bとの間の任意後見契約の2本を締結します。
2本の任意後見契約自体は同順位で、A及びBは各自単独で権限を行使できるようにしておきますが、受任者Bは、Aの職務遂行が不可能又は困難になった時に、Bを受任者とす任意後見契約を発効する(任意後見監督人の選任請求を家庭裁判所にする)旨の特約を定めます。
いざ任意後見契約を発効させたいタイミングが来た場合については、上記㋐と同様、任意後見受任者Aに対してのみ任意後見監督人選任審判の申立てをすれば、任意後見人Aの業務のみが開始することになります。
この契約形態の場合は、片方の任意後見契約が終了しても、他方の任意後見契約に影響がありませんので、任意後見人の片方が委任者本人よりも先に死亡するリスクにも備えられることになります。
なお、前述の通り、上記㋐でも上記㋑でも、任意後見契約の特約は、家庭裁判所を拘束するものではありませんので、もし受任者Bが委任者の想いや3者での約束事を破り、受任者Aを差し置いて、受任者Bが自らに対する任意後見監督人選任審判の申立てをすれば、任意後見人Bの業務のみが開始することになりますし、もし既に任意後見人Aの任務が開始していた場合は、任意後見人ABが併存することになります。
まとめ
上記事例でいうと、受任者AもB親族であることも考えられますし、受任者Aは親族、受任者Bは法律専門職、というケースもございます。
いずれにしましても、任意後見受任者を複数とする任意後見契約については、特に受任者が全くの同順位ではなく、就任への優先順位を定めたい場合は、少し特殊な契約形態になりますので、直接公証役場に相談されるよりは、弊所のようなこの分野に精通した司法書士等の法律専門職にご相談されることをお勧めいたします。