2025年1月8日付日本経済新聞によると、高齢者の身元保証・見守りなどを家族に代わって担うサービス、いわゆる「身元保証サービス」を巡り、消費生活センターへの相談が急増しているという。
そこで、本稿では、高齢単身者向けの身元保証サービスの実態とその自衛策についてご紹介する。
(1)おひとり様向けのサービスとは
頼れる家族・親族がいない単身のお年寄り世帯、いわゆる“おひとり様”が増えていることにより、
おひとり様の不安をやわらげ老後を支えるサービスの需要が高まっている。
病院に入院をする場合、入院手続きに際して、通常は家族・親族が身元引受人(連帯保証人)となる。身元引受人は、入院した本人に体調の急変があった場合の緊急連絡先になることに加え、手術の際に同意をしたり、亡くなった場合には遺体を引き取るなどの役割を担う。入院代の支払についても本人と連帯して支払い義務を負う。
この取り扱いは、高齢者施設に入所する場合も同様だ。
したがって、高齢の単身者が入院や入所をせざるを得ないときに、身元引受人の担い手がいないと、病院・施設側に入院・入所を拒まれるケースも少なくない。
そこで、民間事業者が身元引受人の立場を担うサービスへのニーズが増えているのだ。
(2)民間事業者のトラブルは急増中
ニーズの高まりに伴い、葬儀社や介護事業者、不動産業者など様々な業界から参入が相次いでいる。
総務省によると、身元引受サービスなどおひとり様向けの老後サポートを提供している民間事業者は、全国に少なくとも約400社あるが、これらの民間事業者に対して、規制や監督する省庁はないというのが現状で、いわば玉石混交だ。
実際に、契約内容や解約時の返金に関するトラブルも多く発生している。
具体的には、おひとり様がサポートを受ける必要が生じた段階で、民間事業者から追加の費用を請求されたり、依頼していたサービスがきちんと提供されなかったり、遺言を書かされ当該民間事業者に遺贈をさせられるケースもある。最初に預けた保証金・預託金がどのように使われたか説明がなされず、不透明なままにされてしまうケースもある。
おひとり様にとっては、その民間事業者が契約通りにきちんとサービスを提供してくれない場合に、頼れる方もおらず泣き寝入りせざるを得なかったり、そもそもおひとり様側の判断能力が低下してきてしまうと、当該サービスがきちんと提供されているかを確認する術も無くなり、そのサービスの存在自体が周囲に認識されない事態も起こる。
(3)司法書士等の法律専門職も担い手
司法書士・行政書士等の法律専門職、特に成年後見業務に力を入れている士業事務所は、おひとり様に対して、老後から相続までの数十年間を支える仕組みとして、サポートメニューを提供しているところも多い。
具体的には、おひとり様が元気なうちに下記の契約等を行い、今から長い老後とその先の相続発生後までをしっかりと支える仕組みを作っておくことになる。
㋐「見守り契約」
㋑「財産管理委任契約」
㋒「任意後見契約」
㋓「遺言」
㋔「死後事務委任契約」
おひとり様側のニーズや状況に応じて、上記㋑を除く㋐㋒㋓㋔を実行するケースや、上記㋒㋓㋔だけのケースなど、バリエーションはいくつもある。
(4)民間事業者と法律専門職との違い
法律専門職が提供する老後サポートサービスと民間事業者のそれとの違いは、次の点だと思われる。
葬儀社や介護事業者、不動産業者など、民間事業者が何を母体としているかにより強みが異なる。介護事業者が母体の場合は、要介護状態になったときにサポートはより安心できるかもしれないし、葬儀社が母体の場合は、相続発生後のサポートが手厚いかもしれない。不動産業者が母体となっている場合は、生前又は相続発生後の自宅の売却はスムーズかもしれない。
一方、法律専門職が主体となる場合、法律の専門家・成年後見業務に精通した専門職として、不動産や金銭などの財産の管理はもちろん、自宅売却等の処分や各種契約ごとへの対応、法的トラブルの予防や事後処理などにもスムーズな対応ができる点が挙げられる。つまり、総合力として長けている可能性がある、と言えるだろう。
また、法律専門職の場合、本人の生前の元気なうちから始まり、判断能力低下した時も、そして将来亡くなった後も、連続性・一貫性をもって途切れなくスムーズにサポートができるという点も挙げられる。
とはいえ、法律専門職ならどこでも安心というわけでもない。この業務に力を入れ、本当に精通している法律専門職を探さなければ、民間事業者と同様のトラブルが起きるリスクも覚悟しなければならない。
かく言う弊所でも、数多くのおひとり様のサポートを実行している。
弊所がおひとり様の老後サポートとして、任意後見契約の当事者となった場合(本人の判断能力が低下した際には弊所が任意後見人に就任する契約を締結した場合)、その依頼人本人が入院・入所をせざるを得なくなった際には、「任意後見人受任者」として病院や施設に対して、当然に身元引受人になっている。
なお、これも法律専門職と民間事業者との違いと言えるが、法律専門職であれば、身元引受人を担うとしても、依頼人から保証金や預託金として数十万円を預かることもない。
民間事業者のサービスを否定はしないが、保証金・預託金などの名目で、数十万単位の金銭を先に預けさせる事業者のビジネスモデルには注意すべきだ。不透明な使途や持ち逃げのリスクに対して、監督機能・抑止機能が無いからだ。
(5)おひとり様の自衛策とは
もし民間事業者に「身元引受サービス」や「預金管理・日常生活支援サービス」を依頼する場合は、その事業者とは別に、法律専門職などとの間で「任意後見契約」を交わし、もし自分の判断能力が低下した場合には、その法律専門職等が任意後見人に就任して、以後の財産管理や法律行為の代理、生活支援などを行うことができるようにしておくことは重要だ。
そうすることで、民間事業者による「身元引受サービス」や「預金管理・日常生活支援サービス」が適切に提供されていたかを事後的にチェックできるので、不当なサービス・いい加減なサービス提供の抑止力になると言える。
なお、任意後見人が就任した後は、原則として民間事業者による「身元引受サービス」や「預金管理・日常生活支援サービス」の必要性はなくなり、以後は任意後見人がその部分を担うことになるのが一般的だ。
今後、国や地方自治体の取り組みとして、民間事業者によるトラブルを抑止するために、許認可制度や優良業者を認証するような仕組みを導入することを期待したい。
その一方で、そのような行政側の仕組みが出来上がるまでは、いくつかの民間事業者に相談をして比較検討してから契約をすることや信頼できる法律専門職が関与する体制を目指すなどの自衛手段を考える必要があるだろう。