単身高齢者への賃貸リスク
超高齢社会の日本において、賃貸物件のオーナーが単身の高齢者に対して賃貸することを渋り、居住用物件を借りることが容易ではないという問題が生じています。
この背景には、単身高齢者に賃貸する場合に、不動産オーナーに生じる次のようなリスクがあります。
一つは、孤独死による事故物件化のリスクです。
これについては、賃借人側にも高い危機意識を持ってもらった上で、地域の行政機関・民間企業などと連携をし、見守りサービスなどを導入し、孤独死を生じさせない備えが必要になると言えます。
もう一つは、賃貸借契約中に賃借人が死亡した場合に、法定相続人の有無や所在が不明なことにより、賃貸借契約をスムーズに終了させ、居室内に残された動産類(残置物)を処理することが困難になるというリスクです。
入居者が死亡すると、賃貸物件の賃借権と居室内の残置物の所有権は、法定相続人に移ります。そのため、賃貸物件のオーナーが勝手に残置物を処分することはできず、もし相続人と連絡が取れない場合、契約解除・賃貸物件の引き渡し手続きが困難となるケースがあるのです。
国交省の推計では、65歳以上の単身高齢者世帯は、2015年の約625万世帯から2030年には約796万世帯に増える見通しとのことで、これにより、高齢者の居住場所の確保の問題がより深刻になると言われています。
また、賃貸物件オーナー側にとっても、若い現役世代の借り手不足が深刻化して、賃貸経営上のリスクとなるとも言われています。
つまり、高齢単身者が安心して居住用物件を賃借できる仕組み作りが、高齢者側にとっても、賃貸物件オーナー側にとっても非常に重要な課題となっています。
賃貸リスクに備える「モデル契約条項」
前記2つのリスクのうち、後者のリスクの解消を図るべく、国土交通省は、賃貸住宅の入居者が死亡時に備え、賃貸借契約の解除や遺品たる残置物の処分を第三者にあらかじめ委任しておく契約書(以下、「賃貸借に関する死後事務委任契約」という。)の「モデル契約条項」を公表しています↓
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000101.html
この契約により、独り暮らしの高齢者が亡くなっても、退去手続きをスムーズに行えるようにすることで、賃貸物件オーナーの不安やリスクを軽減できます。
その結果、単身高齢者が賃貸物件に入居する機会を拡大することにつながると考えられています。
※ さらに、国交省では、単身入居者を受け入れる際の様々な工夫や取組を紹介する情報も発信しております↓
https://www.mlit.go.jp/common/001338112.pdf
「モデル契約条項」の特徴
賃貸借に関する死後事務委任契約の「モデル契約条項」には、大きく2つの委任事項が謳われています。
1つは、「賃貸借契約の解除等の権限の委任」です。
賃借人たる単身高齢者が死亡した時点で法定相続人の有無や所在が明らかでない場合、賃貸借契約を合意解除することが合理的であっても、賃借人側にその意思表示をする者がいないため、賃貸借契約を終了させることができません。
そこで賃借人は、あらかじめ委任契約書において、賃貸借契約期間中に死亡した場合に賃貸借契約を解除する権限を第三者に託しておきます。
この賃貸借に関する死後事務の委任を受ける者を「受任者」と言いますが、受任者は、賃貸人との合意により賃貸借契約を解除することを可能となります。
また、一方では、賃借人が死亡して賃料が滞納した場合には、賃貸オーナー側が債務不履行を理由として賃貸借契約の解除をすることも考えられます。しかし、この場合も、契約解除の意思表示を受領する者がいなければ、解除の効果を発生させることができなくなります。そこで、受任者に「賃貸人からの解除の意思表示を受領する権限」をあらかじめ付与しておくことで、賃貸オーナーは、受任者に対して解除の意思表示をすることで解除の効力を発生させることを可能としました。
もう1つは、賃貸借契約の終了後に「残置物を居室内から搬出して廃棄する等の権限の委任」です。
受任者は、この契約に基づき、居室内に残された残置物(遺品)の整理・廃棄や、入居者の生前の意向に基づいて遺品を指定の住所に送る作業を行うことができます。
「受任者」としては、法定相続人・親族の代表者、弁護士・司法書士などの法律専門職、高齢者の入居を手助けする「居住支援法人」、賃貸住宅の管理業者、などを想定しています。
賃貸借に関する死後事務委任契約の実際の運用
賃貸借に関する死後事務委任契約を利用した実際の運用としては、賃借人が受任者との間で、賃貸借契約の解除権限及び残置物処分権限を託した当該契約を交わしたことを、賃貸借契約前に賃貸人に告知しておき、賃貸人にも安心して契約に臨んでもらうことを想定しています。
あるいは、賃貸人からの要請に基づき、賃貸人と賃借人と受任者の3者が連携して、賃貸借契約と賃貸借に関する死後事務委任契約を同時に締結することも想定できます。
いずれにしても、賃貸借契約の締結の段階において、受任者の氏名・名称や連絡先などを賃貸人が把握できているような流れにすることが望まれます。
なお、賃貸人と単身高齢者が交わす賃貸借契約書においても、賃貸借に関する死後事務委任契約に変更や解除が生じた場合に、賃借人から賃貸人にその旨の通知をする義務を条項として盛り込むことも重要です。
また、受任者は、賃借人が死亡したことを速やかに知り得るとは限りませんので、賃貸人が賃借人の死亡を知ったときは、受任者に対して通知する義務を課すことも賃貸借契約書に盛り込むべきです。
★本記事にある「賃貸借に関する死後事務委任契約」のご相談や賃貸物件オーナ側にとっての賃貸リスクをどう減らすかというご相談、あるいは単身高齢者側にとっての老後生活や財産管理、居住場所の確保等のご相談については、弊所までお気軽にご相談下さいませ!