家族信託 ,

『家族信託』と生命保険の共通点・相違点

8月 30, 2016

◆家族信託と生命保険の共通点◆

生命保険(本稿では、「死亡保険金」を想定。)は、様々な目的で活用されています。

その活用の目的の代表的なものは、下記のようなものが挙げられます。
≪相続税対策としての保険金の非課税財産(金500万円×法定相続人の数)の活用≫
≪相続税の納税資金確保≫
≪保険金相当額の財産を遺留分減殺請求対象財産から外す(遺留分対策)≫

これらの目的は、総じて“自分亡き後の大切な人の生活を保障するため”
と言うことができます。

一方の「家族信託」も、様々なニーズに応えられる財産管理の仕組みと言えますが、
その中でも、代表的な目的の一つに、≪自分亡き後の資産承継先の指定≫
言い換えれば“遺言機能の代用”を挙げることができます。

親が元気なうちに契約で我が子に財産管理を託しておき、自分が亡くなった後に
その管理を任せていた財産(信託財産)の行く末をその契約の中で指定しておくことができるのです。

つまり、生命保険も家族信託も、自分亡き後に大切な人に資産を遺すことを意図する方策、
言い換えれば、“想い”を繋げる仕組みであるという点で共通していると言えます。

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◆家族信託と生命保険の相違点◆

では、家族信託と生命保険の相違点はなんでしょうか?
生命保険は、死亡保険金の受取人として指定された者が、その者の固有の権利として
保険金を受け取ることができます。
受け取った者は、その保険金を当然自由に使うことができますので、
必ずしも保険契約者の“想い”や意図を汲んだ消費行動をするとは限りません。
また、受取人が認知症の配偶者や重度の障がいを持つ子の場合、
当該保険金の管理は自分では困難なので、改めて後見人を就けて
後見人による管理が必要なケースも出てきます。

一方、家族信託による資産承継の場合は、二つの形態が考えられます。

一つは、親(委託者)の≪生前の財産管理≫を目的として信託を活用し、
親の死亡により信託契約が終了する形態です。
この場合、信託契約の終了時点の信託財産(これを「信託の残余財産」と言います。)を
誰に承継させるかを指定し、これを所有権の財産として渡すことになります。
つまり、通常の“遺言による承継者の指定”と同じ効果を持つことになり、
財産を受け取った者(残余財産の権利帰属者)は、前述の保険金と同様、
良くも悪くも自由に消費することが可能です。

もう一つは、いわゆる“受益者連続型”と呼ばれる形態です。
例えば、父親(委託者兼当初受益者)が子に父親自身のための財産管理を託し、
父親死亡後は、母親を第二受益者として母親のために財産管理を託すようなケースです。
これにより、単に資産を母親に渡すだけでなく、その財産を管理する仕組みまでも
母親のために遺してあげることができます。
これにより、もし高齢の母親が自分で財産管理が難しいとしても、
受託者たる子が代わりに管理を担ってくれるので、改めて成年後見制度を
利用しなくても済む可能性があります。
さらには、母親亡き後(2次相続後)の資産の承継先も(場合によっては、
3次・4次相続後の指定も)可能ですので、父親の資産承継に対する“想い”を
法律上も有効な形にすることができるという点においては、通常の生命保険や
遺言ではできないことを可能にできます。

つまり、“受益者連続型”を活用する場合は、単なる一代先の資産の承継先の指定に
留まらず、その何世代先までの承継先の指定と共に、その財産管理の仕組みまで
設計ができるという点において、他の方策とは一線を画する大きな特徴・メリットが
あると言えます。

なお、一部の保険会社では、信託と生命保険の特徴・メリットをミックスした
「生命保険信託」という保険商品を導入しています。
これは、死亡保険金を信託財産として信託会社が管理を担うことで、
保険契約者兼委託者の“想い”を汲んだ長期に亘る財産管理と資産承継を可能にしています。

現金のみならず不動産や未上場株を含めた財産の管理や資産承継については、
「家族信託」が最も手頃かつ負担の少ない仕組みの一つと言えますが、
現金のみということでしたら、「生命保険信託」という保険の仕組みも
検討する価値があると言えます。

 

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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