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「教育資金贈与信託」とは(最新版) ~令和5年度税制改正も踏まえて~

5月 24, 2023

1.教育資金贈与信託とは

平成25年度税制改正において「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」ができました。

これは、父母や祖父母から30歳未満の子・孫・ひ孫に対し「教育資金」(入学金・授業料など)を一括贈与しても、金1,500万円まで非課税にする制度です。

通常は、1年間に贈与を受けた額の合計額が贈与を受ける側(受贈者)一人につき110万円を超えると、贈与税が課税されます。

しかし、この制度では、2026年3月31日(※)までの間に信託銀行等と締結した信託契約に基づく金銭に限り最大金1,500万円まで非課税になります。

(※)令和5年度税制改正において、適用期限が3年間延長されました。

 

なお、本稿では、贈与をする父母や祖父母を「祖父母等」と呼び、贈与を受ける子・孫・ひ孫を「孫等」と呼びます。また、「信託」という法律上の財産管理の仕組みを使いますので、贈与する側を「委託者」、贈与を受ける側を「受益者」と呼びます。

 

【教育資金贈与信託のポイント】

1)委託者は「受益者の直系尊属」に限定(父母・祖父母から子・孫・ひ孫への贈与に限られる)。

2)受益者は「信託契約を締結する日において30歳未満の個人」で、「前年の合計所得金額が1,000万円以下の者」に限定。

3)教育資金の非課税枠は、原則受益者一人につき金1,500万円。ただし、下記4)の(2)記載の学習塾や習い事など学校等以外に支払われる金銭については、非課税額の上限は金500万円となる。

4)対象となる「教育資金」の範囲は、次のとおり。

(1) 次の施設に直接支払われる入学金、授業料、学用品の購入費等

・学校教育法第1条に規定する学校(幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学、高等専門学校)、学校教育法第124 条に規定する専修学校、外国におけるこれらに相当する教育施設またはこれらに準ずる教育施設

・学校教育法第134 条第1 項に規定する各種学校

・保育所、保育所に類する施設、認定こども園等

・水産大学校、海技教育機構の施設、航空大学校等

 

(2)学校等以外の者に、教育を受けるために直接支払われる金銭(※)

学習塾や習い事の「謝礼」「月謝」、学習塾に支払う教材費等、通学定期券代、留学渡航費等

 

(※)23歳以上の受益者については、学習塾や習い事の「謝礼」「月謝」、学習塾に支払う教材費等は教育資金とはならない。ただし、教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講するために教育訓練実施者に支払う費用は教育資金となる。

 

【教育資金贈与信託の手続きの流れ】

1 )祖父母等が信託銀行等で契約

祖父母等は「委託者」として、「受託者」となる信託銀行等と信託契約を締結し、金銭を信託します(お金を預けます)。信託銀行に預けたお金は、「受益者」となる孫等の財産となります(みなし贈与)。

なお、契約に際しては、委託者と受益者が直系の親族関係であることや孫等が30歳未満であること等、教育資金贈与信託の要件に満たしていることを証明する書類(戸籍謄本など)を信託銀行等へ提出します。

 

2 )孫等が信託銀行等経由で税務署に必要書類を提出

孫等は、信託契約を締結する際に、非課税の措置を受けるための「教育資金非課税申告書」等を信託銀行等を通じて税務署に提出します。

なお、孫等が未成年である場合は、親権者が本人に代わり書類を提出します。

 

3 )孫等が教育資金に関する請求書又は領収書を信託銀行等に提出して、事前又は事後の金銭交付を請求

孫等又はその親権者は、教育資金に関する費用を支払う前であれば請求書を、支払った後は領収書を、信託銀行等に提出して、信託金銭から支払いをするように求めます。

事前であれ事後であれ、最終的には、教育資金を支払ったことを示す支払日や支払金額、支払先、支払内容、支払者など所定の事項の記載された領収書等を金融機関に提出する必要があります。

 

4)孫等(受益者)が30歳に達した時又は孫等(受益者)が死亡した場合は信託契約が終了する

 

 

2.教育資金贈与信託のメリット

①  孫・ひ孫等に一人につき金1,500万円まで非課税で教育資金を贈与できる

この仕組みを活用すると、祖父母等の財産の中から金1,500万円(学校等以外の教育資金の支払いに充てられる場合には金500万円)を限度として孫等に信託財産を贈与した形になりますが、贈与税は課税されません。

 

 ②祖父母等が信託した資金を孫等が直接銀行から受け取れる

孫等に贈与された資金については、教育資金としてしか使うことができません。

このことは、教育資金にかかる領収書等を孫等が信託銀行等に提出して初めて金銭が交付される仕組みとして担保されます。

孫等は、領収書等の書類を提示するという手続きを踏む代わりに、祖父母等の関与なく直接銀行から受け取ることができます。

 

③祖父母等の判断能力喪失・死亡に影響を受けない金銭交付が可能

そもそも、祖父母等は、孫等(直系卑属)に対して扶養義務があるので、孫等の高額な教育費を支払っても、常に非課税です。

しかし、その前提として、祖父母等が孫等の教育費を支払う都度、いつも元気に自分の意思と手続きにおいて支払うことが求められます。言い換えると、祖父母等が大病や認知症により、自分の意思と手続きにおいて支払いができなくなれば、教育費を支払ってもらうことができなくなります。

そこで、この制度を使うことにより、上記②のとおり、孫等が直接信託銀行等から金銭交付を受けることができるので、交付を受けたい時点で、祖父母等の判断能力が失われていても、さらには祖父母等が死亡しても、孫等が30歳になるまでは一切の影響を受けずに教育費を受け取ることが可能です。

 

④祖父母等が死亡した時点で残っている信託金銭でも相続税の課税対象から外せる可能性がある

この制度を使って信託銀行等に預けた信託金銭は、孫等に贈与された財産とみなされますので、祖父母等が死亡した時点で使いきれずに残っている信託金銭でも、原則として相続税の課税対象財産から外せます(ただし、例外につき、次章「3.教育資金贈与信託の注意点」の②を参照下さい)。

 

3.教育資金贈与信託の注意点

①途中解約は不可

一旦契約をすると、信託財産をすべて払い出した場合を除いて、合意により信託契約を終了すること(途中解約)はできません。つまり、祖父母側(委託者)に資金を戻すことができなくなります。

 

②信託期間中に祖父母等(委託者)が死亡した場合、教育資金として使いきれなかった信託金銭に相続税が課税される場合がある

祖父母等が死亡した時点で孫等(受益者)の年齢が23歳以上の場合は、信託の設定や信託金の追加が行われた時期等により相続税の課税対象になる場合があります。

 

③孫等(受益者)が30歳に達した時に信託契約が終了し、教育資金として使いきれなかった信託金銭に贈与税が課税される場合がある

信託終了時に、信託金銭から教育資金として交付した金額を控除した残額がある場合、原則として信託終了日にその残額の贈与があったものとして、孫等に贈与税が課税されます。

 

④契約できるのは1つの信託銀行等に限られる

教育資金贈与信託の利用は、「1受益者につき1営業所」に限定されており、1つの信託銀行等と契約を締結すると、他の信託銀行等又は同一の信託銀行等の他の営業所(支店)で契約を締結することはできません。

 

⑤信託銀行等に預けた金銭の運用により生じる収益は、受益者の所得となり、所得税が課税される。

 

 

★★関連記事:「家族信託」と「教育資金贈与信託」の比較・使い分け

 

 

 

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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