家族信託の信託財産に不動産が含まれる場合、いわゆる“信託登記”はすぐにしなければならないのか、あるいは、本当に必要となるタイミングまで登記手続きを先延ばしにすること(これを“登記留保”と言います)は可能かについて、簡潔にご説明します。
高齢の親世代が、将来において自宅やアパート等の保有不動産を売却・建替え・解体等がスムーズにできるように、子世代に財産の管理と処分の権限を与えることができる家族信託の契約を締結するケースは多いです。
つまり、親世代の判断能力が低下した場合に備える、あくまで“保険”として家族信託の契約をしておきたいと考える方が多いためです。
この場合、信託登記を登記留保しておくと、例えば将来信託不動産を売却したいときに、親世代がまだ元気であれば、家族信託契約は無かったことにして(信託契約を売却直前に合意解除して)、親世代が所有者としてそのまま売却することが理論上可能となります。
しかし、次の2つの観点から登記留保はすべきではないと言えます。
(1) 受託者には分別管理義務がある
家族信託契約を締結し、委託者の財産を預かる受託者には「分別管理義務」があり(信託法第34条)、自分の財産と信託された財産は分けて管理する責任を負います。
自分の財産を分けて管理するとは、登記や登録することができる財産は、登記・登録を行わなければならないということであり、この信託法の規定は強行法規(信託契約書に記載してもこの義務を免除することはできない規定)であると解釈されています。
そのため、不動産については、信託契約の効力発生後、速やかに信託登記をしなければ分別管理義務違反となると言えます。
(2) 将来の信託登記ができなくなるリスク
信託登記を留保して、登記手続きを将来に先送りしてしまいますと、その間に委託者たる老親の判断能力が著しく低下した場合に困った事態が生じる可能性があります。
もし、将来の信託登記をしたいタイミングで、委託者の判断能力が著しく低下してしまうと、信託登記手続きを担う司法書士によって実施される、委託者に対する本人確認手続きに支障が出ることが考えられます。
つまり、委託者が司法書士に信託登記をする意味を理解・納得し、登記手続きを委任する意思を明確に表明できないと、信託登記手続き自体ができなくなるリスクが有ります。
前述した“保険”としての機能を持たせるための家族信託が、信託登記が実行できないという段階で機能しなくなることは、避けなくてはならないと言えるでしょう。
以上、今回は、家族信託の信託財産に不動産が含まれる場合、“信託登記”を登記留保して、登記手続きを先延ばしにすべきではないということについて、簡潔にご説明しました。
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