「家族信託」の活用が叫ばれ始めてから7~8年が経ち、コロナ禍を挟んで、家族信託の活用事例が急増していることを実感しています。
それに伴い、ここ数年、家族信託を取り扱う法律専門職・民間企業が急増しております。
そんな中、一般のお客様よりも家族信託を取り扱う法律専門職・民間企業の方々に誤解の多い(一般の方々はこのような論点をご存じない方が多いので)、「信託法第91条の受益者連続型信託における“30年ルール”の誤解」について、簡潔にご紹介したいと思います。
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【信託法】
第91条(受益者の死亡により他の者が新たに受益権を取得する旨の定めのある信託の特例)
受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定め(受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定めを含む。)のある信託は、当該信託がされた時から30年を経過した時以後に現に存する受益者が当該定めにより受益権を取得した場合であって当該受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでの間、その効力を有する。
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≪ “30年ルール”の誤解 その1 ≫
『信託契約締結日から「30年」経過したら、自動的に契約が終了する。』
これは、初歩的な誤解です。
上記の信託法第91条を一度しっかりと読めば、誤解であることに気付くはずです。
信託法第91条の適用を受ける受益者連続型信託は、信託契約の効力発生日から30年を経過した後は、受益者の交代は一回きりというのが“30年ルール”です。
つまり、信託契約書の中で「父郎⇒母子(妻)⇒子太郎(長男)⇒子二郎(二男)⇒孫太郎(長男の子)」と受益者連続の指定をしていた場合、父郎が委託者兼当初受益者として契約スタートしてから、30年以内に「父郎」と「母子」が亡くなっていて、30年経過した時点では「子太郎」が受益者となっていたとしましょう。
この場合、30年経過後に「子太郎」が死亡しても信託契約は終了せず、さらに「子二郎」が受益者になります。そして、「子二郎」が死亡した時点で、 “30年ルール”が適用され、信託契約が終了します。ただ、信託終了時における残余財産の帰属権利者を「孫太郎」に指定できますので、これにより当初の予定通り、「父郎⇒母子⇒子太郎⇒子二郎⇒孫太郎」という資産承継の流れが実現できることになります。
つまり、受益者連続型信託は「30年」程度しか信託契約は存続できないと思われがちですが、実は、3代にわたり80~100年と続くこともあり得る長期的な財産管理・資産承継の仕組みであると言えます。
≪ “30年ルール”の誤解 その2 ≫
『30年経過後に新たに受益者になった者が複数いた場合、死亡した受益者の分から信託終了する』
これは、ちょっと高度な議論になるかもしれません。
信託法第91条には、「当該信託がされた時から30年を経過した時以後に現に存する受益者が当該定めにより受益権を取得した場合であって当該受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでの間、その効力を有する。」とあります。
30年経過後に受益権を取得した者(受益者)が複数の場合、この受益者全員を指して「当該受益者が死亡するまで」と読むのが自然です。
つまり、30年経過後に新たに受益者になった者が複数いた場合、当該受益者が全員が死亡しない限り信託契約は終了しないと言えます。
≪ “30年ルール”の誤解 その3 ≫
『永久に存続する信託契約はできない』
信託法第91条を知っている人ほど、この誤解を抱きがちです。
しかし、信託法第91条をもう少しじっくり読んでみましょう。
信託法第91条のタイトルは「受益者の死亡により他の者が新たに受益権を取得する旨の定めのある信託の特例」となっています。
つまり、受益者の死亡により他の者が新たに受益権を取得する旨の定めを置かなければ、信託法91条という特例の適用を受けないことが可能と言えます。
ここでの詳細な解説は割愛いたしますが、信託契約書の条項を工夫することで、理論上は半永久的に存続する信託を設計することが可能となります。
「家族信託」は、医療に例えると、扱える医師が限られる最先端医療のようなものです。
「家族信託」を上手に使うことができれば、安心できる老後の財産管理と円満円滑な資産承継の場面などで、とても画期的かつ最良の仕組みを構築することができます。
その一方で、検討の進め方を間違えたり、拙い設計をしたり、悪用することを企んで「家族信託」を実行すれば、とんでもない悲劇、例えばリカバリーのきかない相続争いに発展したり、一部の人間が委託者の想いを踏みにじって財産を牛耳じることもできてしまう、非常に恐ろしい仕組みであるとも言えます。
家族信託の検討に際しては、家族信託に精通した信頼できる法律専門職に、必ず一度はご相談されることをお勧めします。場合によっては、セカンドオピニオンを求め、複数の法律専門職から話を聞いてみることも良策でしょう。
以上、今回は、「信託法第91条の受益者連続型信託における“30年ルール”の誤解」について、簡潔にご紹介しました。
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