2/14付日本経済新聞朝刊によると、小泉龍司法務大臣は、認知症などの人に代わって財産管理を担う成年後見制度の見直しを法務大臣の諮問機関である法制審議会に諮問すると表明した。
現行の成年後見制度は、一度利用を開始すると、本人の判断能力が回復するか、本人が亡くなるまで利用をやめられないのが原則。その現行制度を改め、期間限定で利用できる仕組みなどを検討するという。
今後、法制審議会での議論を経て、2026年度までに民法などの関連法改正を目指す。
成年後見制度は、判断能力が不十分な人に代わって後見人が預貯金・不動産の管理や各種契約を代理する制度。詐欺や悪徳商法から財産を守ることも想定し、本人が交わした契約を後見人が取り消すことも可能となる。
後見人は、本人の子や兄弟、孫、甥姪などの親族が就任するケース(これを「親族後見人」という。)もあり、担い手がいるのであれば、それが無難と言える。
しかし実際は、後見人になったあとの負担も多いことから親族が後見人になりたがらないケース、そもそも後見人をお願いできる頼れる親族がいないケース、親族間で争いがあり親族の後見人が選任されないケースなどの様々な事情で、司法書士や弁護士、社会福祉士といった第三者が後見人に就くケースも増えている(これを「第三者後見人」や「専門職後見人」という。)。
家庭裁判所で選任された後見人は、横領など明らかな不正が発覚しない限り、家庭裁判所から解任されることはまずない。つまり、対応が遅い、連絡が取りにくい、言動が横柄など、専門職後見人に対して、本人や家族が不満を抱いても、交代させることはまずできない。つまり、法定後見の場合、信頼できる後見人候補者を見付けてから後見人選任の申立てをすることが重要で、候補者を立てずに家庭裁判所に専門職後見人の選任を委ねると、後見人の当たりハズレがあり得る制度という側面を持つ。
専門職後見人が選任されると、本人の資産規模や1年間の後見事務の分量などに応じで、年間20数万~60数万円前後の報酬を本人の資産から支払わなければならず、亡くなるまで長期的に利用せざるを得ないケースでは負担が重すぎるとの指摘がある。
今回の見直しについては、終身ではなく利用期間を限定した使い方を認めたり、後見人が代理する行為の範囲を限定することも検討課題にあがっている。
現行制度では、後見人は本人の立場を包括的に代理する立場として、本人の全財産についての管理処分権限が与えられるし、法律行為の代理もほぼ制限がない。一方で、職業後見人の業務姿勢に関しては、本人の財産の減少を極度に抑えようとして、本人が希望する家族との旅行代や趣味に関する支出に難色を示されるケースもあると聞く。
本人の意思・希望を必要以上に制限することがないよう、改正により、支援を必要とする権限範囲を限定的に定めることも検討される。例えば、平常時には後見人を就けず、日常的な行為はできる限り本人の自己決定に任せる。ただし、不動産の売却等の重要な財産処分の際には司法書士などの法律専門職、介護施設へ入居する際は社会福祉士、といった場面場面に応じて後見人が就任してサポートするという形態も想定し得る。
また、状況によって後見人を交代できる案も検討される。例えば、遺産分割協議に参加して複雑な相続手続きを済むまでは司法書士が後見人になり、相続手続きがすべて終われば、速やかに親族後見人に交代する。
こうすることで、長期にわたり後見人報酬が発生して本人の資産が減少することを回避することもできる。
厚生労働省によると、成年後見制度の利用者数は2022年末時点で約25万人。認知症患者が2025年には推計で700万人以上になるの言われている中で、利用があまり広がっていない。
認知症患者など判断能力が低下した方すべてが後見制度を利用すべきという話ではないが、後見制度を利用すべき方が、その利用を躊躇せざるを得ない制度であってはならない。
単なる利用率の向上という統計データの通知目標ではなく、使うべき方がスムーズに安心して利用できる成年後見制度に向けた検討を望むところである。