大都市圏の「生産緑地」に対する税優遇措置が2022年に期限を迎えることに伴う問題(※)に対応するために、生産緑地法が改正され、従来の税制優遇措置を10年間延長する仕組みとしての「特定生産緑地指定制度」が創設されました。
(※)これをいわゆる「生産緑地の2022年問題」と言い、2022年を機に、日本の大都市圏の農地が戸建てやマンションの住宅用地として大量の供給されることで、不動産の地価が大暴落するとともに賃貸物件の空室率が激増すると言われる社会的リスクのこと。
「生産緑地の2022年問題」については、下記記事をご参照下さい ↓↓↓
「生産緑地の2022年問題」を分かりやすく解説・検証する【2020年版】
この問題について、2021年5月20日(木)の日本経済新聞によりますと、首都圏1都3県で多くの生産緑地を抱える自治体では、2022年に優遇措置の期限が切れる面積の8割近くの所有者が税制優遇措置の延長を申請しているとのことです。
自治体が延長申請を促している背景には、生産緑地が維持されることで、地産地消できる農作物(野菜や花)の安定供給の実現、災害時の一時避難所の確保、生活環境の維持・保全などが見込まれるとして、自治体としても、税制優遇措置の延長申請(生産緑地の維持)を後押ししている背景があるといいます。
生産緑地の指定を受けると、原則として30年の間の“営農義務”が生じる一方、毎年の固定資産税が農地評価として低く抑えられたり、相続税の納付が猶予されるなどのメリットがあります。
首都圏1都3県にある生産緑地は、全国に約1万2千ヘクタールある生産緑地の57%を占めていわれ、税制優遇措置の終了を契機とする「生産緑地の2022年問題」は、不動産業界では大きなビジネスチャンスと捉えられておりました。しかし、優遇措置の10年延長という政策により、不動産市場への影響については抑えられるとの見方が多いようです。
いったん優遇が切れると特定生産緑地の指定は受けられなくなるため、自治体は制度を利用するよう所有者に促しているようです。前述の日経新聞の記事によりますと、横浜市は9~10月の最後の受付期間に向けて未申請者に改めて手続き案内を送るほか、8月に制度の説明会を開くようですし、各自治体は、まだ延長申請を迷っている生産緑地の所有者に個別に相談に乗るところもあるようです。
ただ問題は、延長申請をすれば良いという単純な問題ではありません。農地所有者の高齢化により、延長申請をしても今後10年の営農継続が難しいケースも多いことが予想されます。
このような問題に対し、たとえば、東京都八王子市は「市農地バンク制度」を整備し、生産緑地を貸したい人と規模拡大や新規就農で農地を借りたい人の情報を集約して円滑に貸借できるようにしているようです。また、地域によっては、「市民農園」に対するニーズも引き続き高いという声も聞きますので、今後も、より一層の自治体・国による都市農地・生産緑地の維持・有効活用に対する積極的な支援・税制優遇が必要だと考えます。
それと同時に、農地所有者に対して土地活用の提案やコンサルティングを提供する民間企業や士業は、単にアパートや医療モール、老人ホーム等の建設のご提案だけではなく、長期的な社会的ニーズの変化と地域貢献の観点を充分に踏まえ、都市農地・緑地を活かした新発想の資産活用の提案が求められると考えます。