マンション管理に関する諸問題

マンション管理組合の法人化のメリット・デメリット

5月 3, 2012

マンション管理組合法人化のメリット

マンション管理組合の法人化によるメリットは、主に下記のものが挙げられます。

(1)法律関係の明確化(不動産等の登記名義人になれる)

法人化していない管理組合が既に不動産(駐車場や管理員室等)を所有する場合や新たに敷地や空室等の不動産を取得する場合、理事長個人名義(理論上は区分所有者全員の名義でも可能)で登記簿に記載しなければなりません。
そして、理事長が交代する度に「委任の終了」を原因として、所有権移転登記をしなければならず、定期的に手間と登記費用が発生してしまいます(だからといって、もし登記簿の所有者名義をずっと旧理事長のままにしておくと、将来、現任理事長に名義を変更する手続きが困難になる等のリスクがありますのでお勧めできません)。
また、理事長の急死により相続が発生した場合も、新理事長への登記手続きに困難を伴うケースもあります。
一方、銀行口座は、「○○マンション管理組合 理事長 ××」というような口座名にならざるを得ず、その理事長の個人印を届出印としているのが一般的です。
このような実務上の取り扱いについて、法人化することにより、管理組合が権利義務の主体として明記できるようになりますので、管理関係がシンプルかつ明確になります。
例えば、不動産については、所有者として登記簿に法人名義で登記することが可能になりますので、理事長の交代による不動産登記の手間も発生せず、権利関係も明確になります。
また、不動産以外にも銀行口座や自動車、電話加入権なども管理組合名義で保有できますので、管理組合の財産と、理事長個人の財産との区別が明確になります。

(2)組織運営の安定化と役員・住民の意識向上

法人化により組織としての永続性・安定性を確保できるのに加え、これを機に区分所有者(組合員)の所属意識が向上したり役員としての自覚・責任感が増すことで、組合活動の活性化に繋げられる可能性があります。

(3)訴訟等の法的手段の簡易迅速性

管理費滞納、規約違反の差止、立退交渉等、管理組合と住民側とのトラブル・衝突は、常に起こりえます。
法人化することで、調停や訴訟等の法的措置の実行がよりスムーズにできるようになります。また、訴訟継続中に理事長が交代することにより、訴訟手続きが煩雑になったり訴訟中断の事態を避けることができます。

(4)理事長の負担軽減

前記(3)の法的措置もそうですが、理事長が権利義務の主体となって行わなければならないことは非常に多いです。
法人化により、理事長個人が矢面に立たたずに済むことで、理事長個人の精神的負担を軽減することができます。

(5)取引の安全と円滑化

法人化により、管理組合組織としての存在とその代表者名が法人の登記簿により明確にされますので、管理会社や工事業者をはじめとする第三者は、安心して管理組合と取引することができますし、信用力もつくことで取引の円滑化が図れます。

(6)資金調達が容易になる

新たに不動産を購入したり、大規模修繕工事等で金融機関から借入をする場合は、法人格を備えていた方が、信用力が増しますので、融資を受けやすく資金調達が比較的容易になります。
法人でない場合には、理事長のほか理事全員の連帯保証が求められるなど、手続きが複雑になります。
実際、資金借り入れを機会に法人化した管理組合は多くあるようです。

マンション管理組合法人化のデメリット

(1)法人登記事務の手間と経費の増加

管理組合法人となることによって、法人の登記事項に変更が生じる(主に理事長が変更する)度ごとに登記手続きをしなければなりませんので、登記事務の手間と経費が増えることになります。
なお、理事長に変更が無くても(再任しても)、任期満了により改めて役員の変更登記手続きは必要になりますので、これを専門家である司法書士に依頼する場合、2・3年ごとに数万円の出費を想定する必要があるでしょう。

法人化に伴う法人税課税について

管理組合の法人化に伴い、「必ず法人税が課税される」というのは誤解です!

結論から言うと、管理組合法人と法人格を有しない管理組合に関する税務(法人税、消費税、法人住民税)の取扱いは、原則としてほとんど違いはなく、法人化することが税務的にデメリットに繋がるとは限りません

管理組合法人は、区分所有法第47条13項において、法人税法別表二の公益法人とみなされていますので、法人税法上の収益事業(管理費・修繕積立金の徴収や区分所有者に対する駐車場使用料(※1)は収益に該当しません)を行っていなければ、法人税は課税されません。

※1 マンションの敷地内に区分所有者用の駐車場を設けて使用料を収受している場合は、区分所有者の所有する敷地内での自己の使用であるため、法人税法上の収益事業(駐車場業)には該当しません。ただし区分所有者以外の第三者に有料で貸付けている場合は、駐車場業に該当しますので法人税が課税されます。
なお、「法人住民税の均等割」(※2)については、別途減免申請という手続をとらなければ、原則どおり課税されてしまう可能性がありますのでご注意ください(都道府県や市町村の条例により均等割の減免措置が異なる可能性がありますので、所轄の都道府県・市町村に問合せが必要です)。
なお、駐車場を区分所有者以外の第三者に貸して収益を上げている場合は、収益事業として法人税の課税対象となりますが、この課税の取扱いは、法人格を有していなくても同様に課税されますので、法人化のデメリットではありません。

※2 法人住民税には利益に応じて課される「所得割」と事務所等を有していることに対して課される「均等割」とがありますが、前述のとおり、法人税法上の収益事業を行っていなければ、所得割は課税されません。

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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