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認知症患者の保有資産215兆円の衝撃と「家族信託」

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2018年8月26日(日)付の日本経済新聞朝刊の記事によると、日本全体の高齢化の進行により、認知症患者が保有する金融資産が2030年度には今の1.5倍の215兆円に上るという。

これは、家計金融資産全体の10%を超える割合。

今回は、この問題について考察したい。

 

財産を持つ本人が認知症等になり正常な判断・意思表示が難しくなると、金融資産は金融機関からおろすことができなくなり、生活費・介護費用のためであっても、自由に使えなくなる。
これを俗に「資産凍結」というが、これは単なる家族単位の問題ではない。
215兆円ともなると、日本社会全体の問題として、お金が滞留し経済活動を妨げかねない重要かつひっ迫した問題と言える。

政府発表の高齢社会白書によると、65歳以上の認知症患者数は2015年に推計で約520万人となり、この3年間で約50万人増えた計算となる。
高齢化が進む2030年には最大830万人に増え、総人口の7%を占めると予測されている。
もちろん政府も、高齢者の持つ資産が消費・利用・活用されなくなることはGDPを下げることにつながる、と危機感を強めていることは確かだ。

 

1つの〝善後策“として挙げられるのは、成年後見制度である。
成年後見制度を利用すれば、成年後見人が判断能力の低下した本人に代わって財産を管理・処分できる(預貯金を下せる)。
ただし、現時点において、成年後見制度の利用者は約21万人とのこと。
それは、認知症高齢者の5%にも満たない。

 

普及が進まない原因はいくつか挙げられるが、代表的なものは下記の通り。

① 後見人となった家族・親族に過度の負担がかかる(定期報告義務の負担)
本人の保有財産が一定額を超えると「後見監督人」(主として弁護士・司法書士)が就き、親族後見人は3・4か月に1回の頻度で後見監督人に書面で収支状況等の報告義務を負うことになる。
ただでさえ、会計のプロでない後見人が現金出納帳等の帳簿を付ける苦労を強いられているのに、年に何度も帳簿書類や通帳のコピー等の提出をしなければならない負担は重い。

② 後見監督人や職業後見人に対する報酬が長期的に発生(経済的負担)
上記①で述べた通り、たとえ家族・親族が後見人になれたとしても、後見監督人が就けられれば、毎月1~2万円程度の報酬がずっと発生する可能性がある。
後見監督人ならまだ報酬は低いが、裁判所の裁量で弁護士や司法書士等が職業後見人として就任すれば、月額2~6万円程度の後見人報酬が、ずっと発生する可能性がある。

③ 家族・親族が望む財産の有効活用が難しくなる(財産の管理処分への制約)
本人の金融資産を投下しての賃貸アパートの大規模修繕や建替え、保有不動産の売却・買い替え、借地権の買取など、本人が元気であればやったであろう施策であったも、後見人は自由にできるわけではない。
後見人は、保有資産を増やす義務を負わない一方、資産の減少リスクを最大限に回避する義務を負うので、現状を維持することが原則となる。
現状を維持する以外の後見人の法律行為は制約を受け、後見人の法律行為には、合理的な理由(本人にとってメリットがるかどうか)が求められる。
結果として、家族・親族の皆が望んでいる施策、本人が元気だったら遂行していたであろう計画すら、後見制度の利用後は、その実行が難しくなる。

 

以上のように、収入や資産が少ない家族にとっての負担が大きいばかりでなく、相続税対策をしたいなどと考えている資産を持っている家族にとっても、現状では成年後見制度は利用しずらい制度となっている。
「親族後見人」と「職業後見人」に加え、第三の選択肢として、ボランティア(無報酬)で後見人業務を遂行する「市民後見人」を増やす試みもある。
しかし、市民後見人になるための研修を受ける必要があるだけではなく、家庭裁判所等への定期報告や身上監護に関する諸手続き等、その負担と責任は軽くないことを考えると、どれほど適正なスキルとモラルを持った担い手を確保できるかは大きな課題だ。

子が、老親本人名義の預貯金口座からキャッシュカードでお金をおろして対応している家族も現実にはたくさんいる。
それが月々の本人の生活費や介護費用を賄うためであれば支障はないが、入居一時金が必要となる施設への支払等となるとなかなか対応が難しい。
まして、自宅等の不動産を処分して介護費用を捻出するとなると、前述の成年後見制度でないと対応できない。

冒頭の日本経済新聞の記事には、『認知症になる前に本人と家族で資産活用についてあらかじめ定めを結ぶ家族信託という仕組みはある。だが本人も家族も認知症になることを前提に話し合うことには抵抗があり、利用率は低い。』と書かれている。
家族信託」について触れていることだけでも、この記事のレベルは悪くないと思う。

しかし、さらに期待したのは、マスメディアとして、老親が元気なうちに“家族会議”を招集し、家族が一堂に会した場において老親の老後を支える仕組みや老親の現有資産、年金等の収入と生活費との収支シミュレーションを検証し、その先の資産承継まで一気通貫で設計できる「家族信託」の魅力・有効性をもっと啓発してほしい。
家族会議を招集し、親子が親の認知症リスク・介護負担・長寿リスク・相続対策の要否などについてきちんと向き合えば、無用な遺産争い(“争族”)や子が望まない相続(“負動産”の承継)を回避できる可能性が高まり、国民生活に寄与できることに加え、冒頭の215兆円が凍結されることなく、家族・一族のために資産の有効活用が実行できることは、日本の経済においても望ましい。

215兆円の衝撃は、実は「家族信託」の適正な普及が大きなカギを握っているといっても過言ではない。

 

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