遺産相続手続・遺産整理・遺言執行

相続分の譲渡とその活用事例

6月 30, 2011

遺産相続において、相続人の地位から脱退する方法として、≪相続放棄≫という手段がありますが、相続放棄には、相続があったことを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申立てをしなければならないという時間的制約があります。
そこで、相続放棄に代わり、相続人としての地位を脱退する方法として、≪相続分の譲渡≫という手段があります。
これは、自分の相続分を遺産分割の前に、他の相続人又は第三者に譲渡(売買又は贈与)する方法で、これにより譲渡人は相続人としての地位から外れ、遺産分割協議に加われなくなります。
一方、譲受人は、相続人でない第三者であっても、相続人の地位を得ることになり、遺産分割協議に参加することができます。

 

◆相続分譲渡の利用例

相続・遺産分割の場面で、実は「相続分の譲渡」は非常に有効な手段として活用できます。
相続分の譲渡がどのようなケースに有効かというと、例えば次のようなケースが考えられます。

㋐遺産分割協議において、自分の遺産受取額に争いはない(納得している)が、他の相続人間での合意がなかなかまとまらない状況で、煩わしい協議を避けつつ遺産配当額を早く受け取りたい場合において、他の相続人に対して、自己の相続人としての遺産配当の権利を相当額で売却することで、実質的な遺産配当を早期に実現するケース
㋑疎遠な相続人が多数いる中で、全員に対して遺産分割の協議をしていくことが困難なので、一人ずつ相続分を相当の金額で買い取って、遺産分割協議の対象者を絞っていき、最終的には少ない人数で遺産分割協議をまとめるケース
㋒遺産は全くいらないので、遺産争いに巻き込まれたくないとして他の仲の良い相続人にその地位を無償で譲渡(贈与)するケース

 

◆相続分とは

相続分の譲渡における『相続分』とは、相続人が積極財産と消極財産を含む包括的な遺産全体に対して持っている法定相続分を意味し、個々の遺産の共有持分ではありません。
つまり、≪相続人としての地位≫そのものと言うことができます。
したがって、相続分の譲受人は、相続財産を管理し、遺産分割を請求し、遺産分割に参加する権利を取得することになります。
ここで一点注意しなければならないことがあります。
それは、消極財産、つまり負債の問題です。
相続分の譲渡人は、相続人としての地位を失ったとはいえ、債権者との関係においては、勝手に相続債務を逃れることはできず、譲渡人は、譲受人と連帯して、相続債務を弁済する責任を負うという見解が有力です。
そうしないと、相続人が意図的に無資力の第三者に相続分を譲渡して、債権者を害する手法が許されてしまうことになるからです。
結論として、譲渡人が相続債務を逃れるためには、債権者の同意を得る必要があります。

 

◆相続分譲渡の方法

相続分の譲渡は、必ず遺産分割の前に行なわなければならないという要件がありますが、それ以外に特別な要件や法定の方法・形式があるわけではありません。
しかし、相続人の地位という非常に重要な権利義務の移動ですから、後々のトラブルを防止するために、有償・無償を問わず、「相続分譲渡契約書」又は「相続分譲渡証書」を作成して、両当事者が署名及び実印押印をした上で、印鑑証明書とともに保管することが大切です。
なお、相続財産に不動産が含まれる場合は、所有権移転の登記手続きが必要になりますので、そのための必要書類も譲渡関係書類への調印の際に合わせて準備をしておくとよいでしょう。
また、譲受人が第三者である場合、預貯金の解約払戻しについては、実務上譲渡人の署名及び実印押印も求められる可能性がありますので、予め各金融機関に確認する等の配慮も必要です。
譲渡関係書類への調印が済みましたら「相続分の譲渡通知書」を、他の相続人全員にします。
この通知日が後述します相続分の取戻しの手続きの際に重要な意味を持ってきますので、通知書は、配達証明付き内容証明郵便で行いましょう。

 

◆相続分の取戻し(民法第905条)

相続分が共同相続人以外の第三者に譲渡されると、分割協議にあかの他人が介在することになり、分割協議がうまく進まない可能性があります。そこで民法は、相続分が第三者に譲渡された場合、他の共同相続人はその相続分を取り戻すことができる制度を設けています。
これを「相続分の取戻し」といいます。
前述の趣旨から、譲受人が相続人又は包括受遺者である場合には、この取戻しは認められません。

取戻権は、共同相続人全員で行使する必要はなく単独でも行使できますが、取戻権を行使する者は、譲受人に対し相続分の価額及び譲渡に要した費用を支払う必要があります。
この取戻の価格は、相続分を第三者に譲渡したときの価格ではなく、取戻権行使時の時価になります。
もし、無償で譲渡されていたとしても、取戻時の時価を支払わなければならないことになります。
取戻権の行使は、譲渡されたときから1ヶ月以内に行使することが必要です。
また、譲受人の承諾は必要なく、一方的な意思表示により、譲受人は当然に相続分を喪失することになります(取戻された相続分の帰属先については、学説に対立があるので、ここでは割愛させて頂きます)。

 

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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