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老親の収益物件管理における「サブリース」と「家族信託」のメリット等の比較

5月 9, 2022

高齢の親の健康状態(認知症に限らず、大病や事故等による判断能力低下も含む)に左右されない、老親の財産を管理・処分する仕組みとして、「家族信託」が最良・最有力の手段として注目をされて久しいです。

しかし、老親の財産管理、特に収益不動産を管理していく方策としては、家族信託以外の選択肢も存在します。

そこで今回は、老親が所有する収益不動産を管理する場合に活用し得る「サブリース(一括借上げ)契約」について、ご紹介したいと思います。

【目次】
1.そもそも「サブリース(一括借上げ)契約」ってなに?
2.家族内でサブリースをすることもできる
3.老親の収益不動産を家族内でサブリースするメリット
4.老親の収益不動産を家族内でサブリースする際の注意点・リスク
5.まとめ

 

1.そもそも「サブリース(一括借上げ)契約」ってなに?

「サブリース (sublease)」 とは、もともと「また貸し」・「転貸」の意味ですが、不動産業界においては、収益不動産の転貸を目的とした一括借上げの仕組みのことを指します。

つまり、不動産の所有者(オーナー)から転貸人が土地や賃貸用建物をまとめて借り上げ、それを個々の賃借人(正確には転借人といいますが、本コラムでは敢えて分かりやすく「賃借人」と呼ぶことにします)に対して転貸することで、実質的に不動産オーナーに代わって転貸人が賃貸経営を担う仕組みです。
不動産オーナーは、直接的に賃貸経営に携わらなくても、転貸人が実質的に賃貸経営を担いますので、認知症発症リスクのある高齢の不動産オーナーでも、あるいは賃貸経営に詳しくない方でも、安心して賃貸経営をすることができる仕組みと言えます。
その上、一括借上げにより毎月確実に定額の一括借上げ賃料が入ってきますので(これを「家賃保証」という言い方をしたりします)、空室による家賃収入の減額リスクを回避する効果もあります。

以上のように、「サブリース」は、賃貸経営に関する煩わしい手続きをせずに安定的な賃貸経営ができる方策となり得ますので、高齢の不動産オーナーや“サラリーマン大家さん”が副業として賃貸経営をする場合などに、プロの不動産会社(サブリース業者)に貸す仕組みとしても広く利用されています。

 

2.家族内でサブリースをすることもできる

前述のとおり、「サブリース」というと一般的には、不動産会社(サブリース業者)に貸すことを想定しますが、老親の認知症対策として考える場合は、必ずしも外部の不動産業者に一括賃貸する必要はありません。

つまり、家族が立ち上げた「会社」(以下、「サブリース法人」と呼びます)や老親の子に対して一括賃貸することも問題ありません(転貸人は法人である必要はありません)。

むしろ、サブリース法人や子を転貸人として一括賃貸する方策は大いに活用の余地があります。

そこで、次の第3章では、老親の財産管理における認知症対策という観点に絞って、サブリースのメリットをご説明します。
また、メリットの裏側にあります注意すべき点・リスクなどについては、第4章でご紹介します。

 

3.老親の収益不動産を家族内でサブリースするメリット

①賃貸経営の現状維持がしやすい
個々の賃借人に対する対応(新規や更新の契約手続き、滞納家賃の督促、敷金・保証金の保管、退去に伴う精算・原状回復作業、付帯設備の不具合への対処など)は転貸人が担うので、不動産オーナーたる老親自身が煩わしい賃貸経営の手間を負わなくて済みます。

突き詰めれば、老親が認知症等で判断能力を喪失しても、現状のまま賃貸経営を継続していくという前提条件の下、賃貸経営に支障が出ないように備えることができます。

②家賃収入の凍結リスクを回避
通常の賃貸の場合、老親名義の口座に毎月の賃料が振り込まれますので、それは老親が自分で下ろすことが大前提となります。

サブリースの場合、各賃借人からの毎月の家賃は、転貸人の家賃収納口座に入り、転貸人がその口座から老親に対し一括借上げ賃料を毎月支払うことになります。
そこで、老親への賃料支払いを敢えて現金払いにするなど工夫をすることで、老親の判断能力喪失後でも毎月の賃料収入を上手に使える余地が増えます。

③短期で実行可能
家族信託を実行する場合と比べ、実行するまでの日数が短くて済みます。
家族信託の契約は、原則として公正証書で作成するので、家族会議における信託設計の検討や信託契約書案の読合せ・推敲、公証役場の事前準備など、通常ですと1ヶ月半以上の日数を要することが多いです(緊急性のある場合を除きます)。

一方のサブリースの場合は、一括借上げ契約書は、私文書で調印しますので、契約条件(重要なのは一括借上げ賃料くらいでしょうが)が決まれば、すぐにでも契約締結が可能です。

ただし、新規でサブリース法人を立ち上げる場合は、会社設立からサブリース法人との一括借上げ契約の締結まで、最短でも2~3週間程度を見込む必要があります。

④実行コストが安い
家族信託を実行する場合と比べ、実行するまでのコストを減らせます。
家族信託の場合は、公正証書化の手続き費用(公証役場の手数料)に加え、契約後速やかに信託登記をする必要がありますので、登記費用(登録免許税や司法書士の登記手続き報酬)がかかります。

一方のサブリースの場合は、公証役場の手数料も信託登記の費用も発生しませんので、その分コストは安く済みます。

ただし、サブリース法人を新規で立ち上げる場合は、会社設立費用として15~30万円程度を見込む必要があります。

 

4.老親の収益不動産を家族内でサブリースする際の注意点・リスク

①転貸人が賃貸物件に対してできることは限られる
転貸人ができる工事は、賃貸の対象となる各戸の原状回復・内装リフォーム程度に過ぎません。
収益物件たる建物全体の大規模修繕・改修・建替えなどをすることができるのは不動産オーナーたる老親だけで、転貸人がこれらの行為をする主体となれません。
また、それに伴う工事代金も老親が支払うものなので、老親名義の預金が動かせなくなると、実質的に工事資金が用意できなくなります。

つまり、老親の判断能力が著しく低下した後においては、大規模修繕・改修・建替えに加え、解体や建替え、不動産の売却という選択肢が無くなることを認識しておく必要があります。

一方の家族信託では、賃貸経営はもちろん、信託財産となる賃貸建物に関するあらゆる工事(解体や建替えも含め)や売却等の契約手続きが老親に代わってすることができます。
不測の事態における対応(台風・突風・ゲリラ豪雨・地震などによる建物への損害を修復する工事など)を含め、将来における選択肢を万全に確保するという点において、家族信託の方が安心できることは間違いありません。

②転貸人が管理できるのは収益物件とその家賃だけ
サブリースの仕組みは、収益不動産の家賃管理という観点では、家族信託の代替手段となり得ます。
しかし、サブリースでは、転貸人が老親の将来の生活・介護資金や大規模修繕・改修資金を預かることの法的根拠にはなりません。

つまり、老親の「自宅」や「金融資産」の管理については、サブリースの対象外となります。
これから先の老親が所有する自宅、現預金、有価証券などの管理・処分や遊休不動産の有効活用などを考える場合は、家族信託が最有力の選択肢になります。

③転貸人にも不動産所得の申告の手間が発生
転貸人となるサブリース法人や子には、各賃借人からの賃料収入が生じることになりますので、不動産所得にかかる確定申告が必要となります。
一般的には、各賃借人からの毎月の賃料収入を100としたときに、一括借上げ賃料は80~90くらいに設定することが多いです。

つまり、毎月10~20程度の差益が転貸人の不動産所得になります(このサブリースの仕組みを老親の所得を減らしてサブリース法人や子に所得を回す老親の所得税策として利用することも多いので、サブリースのメリットと言うこともできます)。

一方の家族信託の場合、管理を担う受託者が報酬をもらわないようにすれば、管理を担う側の確定申告の手間が生じることはありません。

④各賃借人との契約し直しの必要性
各賃借人との賃貸借契約の貸主が老親からサブリース法人や子に代わりますので、家賃の振込先の変更の依頼も含め、改めて各賃借人と賃貸借契約を交わしなおす必要があります。

一方の家族信託の場合、受託者は既存の賃貸借契約に基づく権利義務を当然に引き継ぎますので、改めて賃貸借契約を交わしなおさなくても問題はありません(家賃の振込先変更通知を出す必要はあります。)。

⑤空室リスクの回避効果はない
外部の不動産業会社(サブリース業者)に一括賃貸する場合と違い、空室リスク(空室分の賃料収入の減少リスク)を回避する仕組みにはなりません。

⑥遺言代用機能はない
家族信託の場合は、信託財産については信託契約書の中で承継先を指定できるというメリットがあります。

一方のサブリースの場合は、遺言の機能はありませんので、円満円滑な資産承継を実現するためには、別途遺言書の作成をしておく必要があるかもしれません。

 

5.まとめ

サブリース法人や子に一括賃貸する「サブリース」という仕組みは、老親が保有する収益物件について、認知症対策を含め賃貸経営を安定的に継続する場面において有効な方策になり得ます。

その一方で、老親の存命中における将来の建替え・売却、台風・ゲリラ豪雨・地震など不測の事態による建物全体の補修・改修工事などについては、「サブリース」という仕組みでの対応に限界があります

サブリースの仕組みの限界とリスクについて、法律の専門家を交えてきちんと検証をし、また家族会議の中でしっかりと取り得る選択肢(家族信託、サブリース、生前贈与、親子間売買、法人化、任意後見、遺言など)を検討することがとても重要となります。

 

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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