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高齢者施設での認知機能低下のニュースで大事なこと

2022年6月25日付日本経済新聞朝刊の記事によると、新型コロナウイルス対策の長期化で、高齢者施設に入所する人の認知や身体機能の悪化が鮮明になっている、という。

入所する軽度から重度までの認知症高齢者への影響については、「認知機能の低下」がみられたと答えた施設は8割を超え、前回調査した2年前よりも2割近く増えているそうだ。

その要因として挙げられるのが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う「面会」や「外出」などの行動制限の長期化である。

施設側の行動制限の内容については、「家族・友人との面会制限」「外出制限」「施設へのボランティア訪問の中止」の順で多く、いずれも9割以上の施設がこれらの行動制限を行っている。

今回の第7波の前には、一旦対面での面会制限が解除されたり、面会制限がある中でも、面会時間の拡大や面会頻度が増えたりして、行動制限緩和に向けた動きがみられていただけに、高齢者福祉の観点からもコロナの感染再拡大は非常に残念だ。

 

このような「高齢者の認知機能低下」「認知症発症」という話題となると、新聞・雑誌やホームページ上で、下記のような主旨の文章を頻繁に目にする。

『認知症と診断されると、原則として本人の意思に基づいて不動産を売買したり預貯金を引き出したりできなくなる。たとえ介護が目的でも親に代わって子が財産を処分することはできず、預金は凍結状態となる。』

小生が新聞や雑誌等の取材を受けた際の記事にも、そのような記載がされてしまうこともあるので、なんとも切ない気持ちになるが、前述の記述は、下記のように記載するのが正確な記述だと考える。

単に「認知症」と診断されただけではなく、面前でのコミュニケーションを図ったときに、物事の理解力・判断力が著しく低下していることがうかがえる場合、原則として本人の意思に基づいて不動産を売買したり預貯金を引き出したりできなくなる。たとえ介護が目的でも親に代わって子供が財産を処分することはできず、預金は窓口で自由に払い戻したり送金ができなくなるという意味において事実上凍結状態となる。ただし、年金の入金や公共料金や施設利用料の口座引落はそのまま継続できるので、必ずしも皆が困るとは限らない。』

 

つまり、「認知症」=「預金凍結」であり、「預金凍結」=「本人及びが家族が困る」となり、
「預金凍結解除」=「成年後見制度の利用」という短絡的な議論の方向性を論じる記事や専門職の話は多い。

認知症と診断されても、すぐに落胆し諦める必要は無い(※ 関連記事認知症と診断されても家族信託をあきらめる必要はありません!)ですし、本人の判断能力が著しく低下したからと言ってすぐに困るとも限りません。

 

最も大切なことは、本人の判断能力が著しく低下するとどのようなお困りごとが生じるのかという「リスク」を、本人及び家族全員で共有することです。

そして、まだ間にあう(本人に契約能力が残っている)のであれば、そのリスクを回避するための手段として、家族信託任意後見「生前贈与」サブリース「保険の活用」などの選択肢を検討すべきです(※ 関連記事家族信託など老親の認知症による‶預金凍結”対策のまとめ)。

残念ながらもう間に合わない(既に本人に契約能力がない)となった場合でも、安易に成年後見制度を使うのではなく、本当に成年後見制度を使うべきか、敢えて使わないで本人の生涯を支えきることはできないか等を慎重に検討する必要があるでしょう(※ 関連記事経験と統計データから見る成年後見制度の誤解と現状)。

 

新聞・雑誌等の記事では、紙面の都合上、すべての有効な情報を網羅できていませんし、ネットの情報もかなり事実と異なる歪められた情報が溢れています。
いずれにせよ、これらの検討は、この分野に精通した法律専門職に相談することをお勧めします。

 

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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