遺産相続手続・遺産整理・遺言執行

民法改正後の相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)の法的効力

6月 10, 2020

2019年の民法改正で変わった遺言の効力

特定の財産を特定の相続人に確実に承継させたい場合、遺言書の中で、例えば「下記の不動産を長男に相続させる」などと記載することはごく一般的です。

このような“特定の財産を特定の相続人に相続させる旨”の遺言のことを、2019年7月1日に施行された改正民法から「特定財産承継遺言」と呼ぶことになりました(民法第1014条)。

それと同時に、この「特定財産承継遺言」の法的効力について、変更がなされました。

 

 

「特定財産承継遺言」の効力(対抗要件)

2019年7月1日の民法改正以前は、この「相続させる」遺言があった場合、相続発生と同時に財産の所有権がその指定された相続人に当然に移転するとされていました。

その結果として、例えば、不動産の相続登記をしていなくても、当然に自分が遺産を取得した旨を主張することができていました(平成14年6月10日の最高裁判決で、「相続させる」遺言により不動産を取得した者は、登記なくしてその権利を第三者に対抗することができるとされました)。

言い換えますと、相続登記をしていないためにこの遺言の存在を知らずに不動産を取得した人は、この相続人に権利を主張できず、最終的に財産をこの相続人に返さなければならないという事態になっていました。

このように遺言の存在を知らない第三者の権利保護の観点で問題が指摘されていたので、今回の改正において、「特定財産承継遺言」があっても、法定相続分を超える財産については登記・登録等がなければ対抗できないということになりました(民法第899条の2)。

また、この899条の2では、相続させる遺言だけではなく遺産分割協議による遺産の取得の場合も合わせて、登記・登録など(これを“第三者対抗要件”と言います)を備えなければ、法定相続分を超える財産の取得については主張できないとされました。

 

結論として、遺言又は遺産分割により遺産を取得した相続人は、特に不動産を相続した人は、速やかに相続登記をすべきということになります。特に、いつかは取り壊すかもしれない建物と違い、永続する土地については、いつかは相続登記をすることになることを考えますと、遺言や遺産分割協議書、戸籍謄本等の相続関係書類がしっかり揃っているうちに登記手続きをしておくことは、より重要になったと言えます。

 

 【参考条文】

(特定財産に関する遺言の執行)
第1014条 前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
2 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。
3 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
4 前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

(共同相続における権利の承継の対抗要件)
第899条の2 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない
2 前項の権利が債権である場合において、次条及び第900一901条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。

 

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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