成年後見(法定後見・任意後見)、高齢者等の財産管理

任意後見契約の注意点

8月 22, 2023

任意後見制度に関係する悪質な犯罪行為にご注意ください

1 任意後見制度を悪用した、財産侵害等の被害が 問題になっています!
・こんな事件が・・・・
おもに一人暮らしの高齢者に巧みに近づき、時に法律等の専門家であることを強調し、また任意後見制度という公的な仕組みを利用することで安心させて、ご本人にとって重大な財産侵害にあたるような契約等を行うというものです。
・身近なところでも・・・・
都内でも、不必要な住宅リフォーム、なんの利益にもならない多額の投資、持ち家や土地の不当に安い価格での売却といった深刻な被害が起きています。

2 任意後見制度とは?
・制度のしくみ
将来、認知症などにより判断能力が低下した場合に備え、あらかじめ「信頼できる人」と任意後見契約を結んでおき、実際に判断能力が低下した際にこの「任意後見人」から財産管理等の必要な支援を受けられるようにするというものです。この契約は公証人により公正証書にされ登記されることが特徴です。
(詳しくお知りになりたい方は、後段の「任意後見制度のしくみ」をご覧ください。)

3 実際に判断能力が低下したときには?
・「任意後見監督人」がチェック
契約をスタートさせるときは、家庭裁判所が、任意後見人の行為を監督するための「任意後見監督人」というチェックする役割を果たす人を選びます。
したがって、任意後見人がこの制度を悪用して、ご本人の判断能力の低下に乗じてご本人に不利益な財産処分などを好き勝手に行うことはできないような仕組みになっています。

4 どこに問題があるのか?
・これまでの事件では・・・・
上記のような事件では、任意後見契約を結んで安心させた上で、実際にはご本人の判断能力が低下しても契約をスタートさせず(スタートさせるためには家庭裁判所に申し出なければなりません)、したがって誰からも監視されることなく、すでに判断能力が不十分となっているご本人を言いくるめて、不適切な契約や財産処分を行って不当な利益を得ていたという点が特徴です。
任意後見制度は、一人暮らしや高齢者だけの世帯が非常な勢いで増加する中、将来の不安を少しでも軽減するために積極的に活用していくべき大切な制度といえます。しかし、残念ながらこうしたいわば制度を隠れ蓑にした犯罪行為があることも事実です。

5 では、どうしたらいいのか?
・まずは相談を!
都民の皆さんは、任意後見制度を利用するからといって安易に信用するのではなく、本当に信頼できる人かどうかをしっかりと見きわめることが大切です。
そのためには、まずひとりで判断することは絶対に避け、契約を結ぶ前に身近な人や公的な機関等に相談することをお勧めします。
(予備知識として確認しておいた方がよいことをまとめましたので、後段の「相談する前の予備知識」をご覧ください。)
(また、すでに契約を結んでしまっている方でも、契約を解除することもできます。詳しくは後段の「すでに契約を結んでしまっている場合」をご覧ください。)
とりわけ、任意後見を法律や社会福祉の専門家に依頼することをお考えであれば、専門機関に相談すれば信頼できる人を紹介してもらうこともできます。

任意後見制度のしくみ
1 任意後見契約とは、本人の判断能力が十分なうちに、任意後見人になることを引き受けた人(任意後見受任者)と任意代理の委任契約を結び、将来、判断能力が不十分な状況になったときに備えるものです。
この中には、今回問題となった事件のように、任意後見契約を結ぶとともに、判断能力が低下する前の金銭管理等について、「任意代理契約」を締結する場合もあります。
時間的な流れとしては、
(1)任意後見契約締結
(2)判断能力の低下
(3)任意後見契約発効(任意後見監督人選任)
という順になります。
このうち、(1)と(2)の間に「任意代理契約」を締結する場合がありますが、ここで財産侵害等の被害が多く発生しています。
(注)
すでに判断能力が不十分な方については、任意後見制度ではなく、法定後見制度を利用することになります。
法定後見制度については、家庭裁判所のほか、区市町村や区市町村社会福祉協議会、弁護士会・司法書士会・社会福祉士会などの専門機関にお問い合わせください。
(ただし、専門機関の場合、相談は有料の場合がありますので、事前にご確認ください。)
2 任意後見契約全般に関する注意点は以下のとおりです。
(1)契約は公正証書で作られていますか?
任意後見契約は、公正証書で作らなければなりません。(任意後見契約に関する法律第3条)
任意後見受任者と本人同士で契約するだけでは、任意後見契約としての効力は発生しませんので、注意してください。
(2)契約の効力が生じる時期を正しく理解していますか?
任意後見契約の効力が生じるのは、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときからです。
本人の判断能力が低下した場合には、家庭裁判所に任意後見監督人の選任の申立てをすることになりますが、申立てができるのは、任意後見受任者、配偶者、四親等内の親族になります。なお、判断能力があれば、本人も申立てをすることができます。
つまり、任意後見契約を公正証書で作成した段階で、すぐにその効力が生じるわけではありませんので、注意してください。
(3)任意後見受任者のことをよく理解していますか?
親族でなくても、友人、専門家といった個人や法人なども任意後見受任者になることができます。
(任意後見受任者が個人の場合のチェックポイント)
*金銭的にルーズな人ではないか。
*契約の内容を丁寧に説明してくれているか。
*専門家の場合、万が一の事故に備えて、損害賠償保険に加入しているか。
*専門家の場合、専門職団体に所属し、所定の研修等を修了しているか。
(任意後見受任者が法人の場合のチェックポイント)
*直接の担当者はどのような資格を持っているか。
*法人は担当者にどのような研修をしているか。(研修修了証などの証明があるか。)
*担当者の活動を法人に報告するといった監督のしくみが、契約の内容に盛り込まれているか。
*法人が、これまでにすでに発効している任意後見契約を複数件受任しているか。(登記した契約が何件あるかではなく、発効した契約が複数件あるか。)
(4)契約の内容を確認していますか?
契約の内容は自由に決めることができますが、契約の中に本人が必要としていること以上のことが盛り込まれていないか、確認する必要があります。
契約の内容については、通常「代理権目録」という書類にチェックしていくことになります。以下の例のように、本来必要としていないことまでチェックしていることがないか、確認してみてください。
なお、契約の内容には、介護労働のような事実行為は含まれません。
(例)
・入院の手続きや入院費の支払いだけを必要としているのに、預貯金の管理まで契約に含まれているようなことはないか。
・預貯金の管理だけを必要としているのに、不動産の管理まで契約に含まれているようなことはないか。
(5)任意後見人には取消権が認められていないことを知っていますか?
本人の自己決定権を尊重するという観点から、任意後見人には、同意権・取消権がありません。したがって、本人が不利益な契約をしてしまったときでも、それを任意後見人が取消すことができません。
つまり、任意後見制度は、将来、判断能力が低下したときに、不利益な契約をすることのないように備えるためのものではありませんので、注意してください。
(6)任意後見人に支払う報酬の額は適切か。前払いしていませんか?
一般的には、任意後見人を専門家等の第三者に依頼した場合には、報酬を支払うのが通常ですが、親族の方が任意後見人になる場合には、無報酬のことが多いようです。
報酬額は自由に定めることができますが、おおむね月額数万円のことが多いようです。報酬は本人の財産から支払うことになりますので、報酬額が極端に高額ではないか、確認してみてください。
また、任意後見人への報酬の支払いは、任意後見監督人が選任された後に必要になります。契約を締結した時点で前払いをする必要はありません。
(7)任意後見監督人にも報酬を支払う必要があることを知っていますか?。
任意後見監督人が選任された後は、任意後見人だけでなく、任意後見監督人にも報酬の支払いが必要になります。任意後見監督人の報酬額は、家庭裁判所が決定します。
また、この報酬も、本人の財産から支払うことになります。
任意後見監督人に支払う報酬額まで考慮した上で、任意後見人への報酬額を決めているか、確認してみてください。
相談する前の予備知識
任意後見契約にあわせて「任意代理契約」という、別の契約を結ぶ場合の注意点
(1)「任意代理契約」の内容は適切ですか?
任意後見契約については、任意後見監督人が監督の役目を担いますが、「任意代理契約」では、この監督の役割を果たす人がいません。
「任意代理契約」の内容は当事者間で自由に決めることができますので、ご本人が必要としていること以上のことが契約の中に盛り込まれていないか、契約の内容を十分に確認する必要があります。
(2)ご本人の判断能力が低下したときに、適切に任意後見契約に移行することが期待できますか?
ご本人の判断能力が低下した場合に、任意後見監督人の選任の申立てができるのは、任意後見受任者(任意後見人になることを引き受けた人)、配偶者、四親等内の親族になります。(判断能力があれば、ご本人も申立てをすることができます。)したがって、もしご本人や親族に、この任意後見監督人の選任の申立てが期待できない場合、任意後見受任者が申立てを行うしかないことになります。
しかし、このとき、任意後見受任者が意図的に任意後見契約に移行せずに、不適切な金銭管理を行い続ける事例などがいくつか見られます。
(3)以上のことを踏まえ、任意後見契約に伴って「任意代理契約」を結ぶ際は、次のことを考えてみてはどうでしょうか?
*日常生活に必要な程度の金銭管理など、契約の内容を限定する方向で、弁護士会、司法書士会、社会福祉士会といった専門機関に相談する。
*特に財産の処分などの重要な項目については、契約の内容に盛り込まずに、その都度、個別に専門機関に相談して決めることとする。
すでに契約を結んでしまっている場合
1 任意後見契約を解除しようと思っても、一度契約したものは解除できないとお考えではないでしょうか。
任意後見契約は、いつでも解除することができます。
なお、任意後見監督人が選任される以前であれば公証人の認証のある書面でする必要があり、任意後見監督人が選任された後は家庭裁判所の許可が必要になります。
2 ただし、任意後見契約に伴う「任意代理契約」の解約については、契約の内容を確認してみる必要があり、解約できる場合もできない場合も考えられます。
契約書の内容については、個別に専門機関に相談してみてください。

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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