認知症や大病、障害により判断能力が低下している人の権利・財産を守る国の制度として「成年後見制度」があります。
家庭裁判所により選任された後見人は、本人に代わって、各種の契約を代理したり、財産を管理したり、入院・入所契約をしたりすることになります。
しかし、“セーフティネット”(本人を守る社会的な仕組み)である成年後見制度にも限界があり、利用したい方が誰でもスムーズに利用を開始できるとは限りません。
そこで今回は、成年後見制度の限界についてご説明します。
成年後見制度の限界 その1:診断書が取得できないと後見手続きが進められない
成年後見制度には、法定後見と任意後見の2つの仕組みがありますが、どちらも家庭裁判所の審判手続きを経ないことには利用することができません。
そして、この審判を得るための申立て手続きの前提として、本人の判断能力が不十分であることの医師の診断書が必要になります。
したがいまして、「医師への受診歴・通院歴がない方」や「本人が医師への受診を拒絶している方」は、医師の診断書を取得することが難しいので、成年後見制度を利用することのハードルが相当高いことになります。
例えば、鬱や引きこもり、軽度の統合失調症の方に多いは、このようなケースに該当する方が多い印象を受けます。
成年後見制度の限界 その2:保佐・補助の場合は本人の拒絶があると手続きが頓挫する
成年後見制度のうち、法定後見においては、医師の診断書に基づく本人の能力の程度により「後見」「保佐」「補助」の3類型が用意されています。
「後見」類型に該当する方は、本人の判断能力が欠けているのが通常の方になりますので、家庭裁判所の手続において、本人の意思を確認するプロセスは省略されます。
その一方で、「保佐」「補助」の類型に該当する方は、本人の判断能力がまだ残っている状態の方になりますので、残存能力の尊重の観点から、本人の意思を確認するプロセスが必要となります。
具体的には、「保佐」「補助」の申立てがなされた場合、家庭裁判所の調査官が本人と面談をして、「成年後見制度を利用することについて納得しているか」「保佐人又は補助人を誰にするか」「保佐人又は補助人にどんな権限を与えるか」等について、同意を得る必要があります。
そこで、本人が「自分の能力は正常だから成年後見制度は利用する必要はない」という拒絶の意思表示があると、「保佐」「補助」の申立ての手続は、ストップしてしまいます。
認知症が進行過程にある方や精神的な病の方には、このような拒絶をされる方が少なくありませんので、手続きが頓挫して家族や周囲が困る事態も生じています。
成年後見制度の限界 その3:親族の反発があると希望する後見人に就任してもらえない
成年後見制度のうち、法定後見においては、申立ての際に「後見人候補者」を立てることができます。
ただし、家庭裁判所はその「後見人候補者」を後見人に選任すべきかどうかを検討し、その結果、誰を後見人にするかの最終権限は家庭裁判所にありますので、必ずしも本人や家族が望む後見人が選ばれるとは限りません。
家庭裁判所が誰を後見人に選任すべきかを検討する際には、後見申立て時に推定相続人となる親族から提出される「親族の意見書」を参考にします。
「親族の意見書」には、本人に「後見」「保佐」「補助」を開始することや成年後見人・保佐人・補助人の候補者として挙がっている者が就任することについて、親族として賛成かどうかの意見を求めるものです(「親族の意見書」が提出されていない推定相続人に対しては、家庭裁判所から「意見照会書」として賛否についての照会を行うこともあります。)。
そして、家庭裁判所は、後見人候補者と直接面談を行うほか、申立ての事情や後見人候補者の情報、「親族の意見書」又は「意見照会書」などの情報を元に、誰が適任なのかを判断することになります。
「親族の意見書」又は「意見照会書」の中で、推定相続人のうち一人でも後見人候補者について反対を表明する者がいた場合、本人を取り巻く親族関係は紛争性アリと判断され、後見人には、客観的な第三者となる司法書士・弁護士等が選任されることになります。
なお、このように本人が望む後見人に就任してもらえないリスクを回避する手段として、「任意後見契約」があります。
これは、本人が元気なうちに、自分が将来判断能力が低下したら財産管理や身上監護をお願いしたい相手(親族・法律専門職などで、これを「任意後見受任者」といいます。)とあらかじめ任意後見契約を交わしておく仕組みです。
任意後見の場合、「任意後見受任者」が後見人に就任できますので、前述の自分が望む後見人が選任されないリスクを大幅に抑えることができますが、最終的には裁判所の判断になりますので、絶対確実に就任できるとは限らない点にはご注意ください。
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