インターネット上のホームページやSNS、掲示板等では誤解を招く記事や誤った情報が溢れています。
その中には「相続」・「家族信託」・「成年後見」に関するものも数多く含まれております。
そこで今回は、「相続」・「家族信託」・「成年後見」に関して、誤解を招いたり正確性を欠く情報・記事の代表的なものについてご紹介します。
1.相続に関する誤解・誤解を招く記事・情報
(1)相続が発生したら故人名義の預金を下ろしてはいけない
相続の発生前後において、故人名義の預貯金口座からATMでまとまったお金を下ろす方は少なくありません。
この行為を絶対的に禁止したり警鐘を鳴らす記事や情報があります。
確かにこれらの記事・情報は正論と言えば正論ですが、実務上はこれらを鵜呑みにしてしまうと、かえって面倒なことになるリスクがあります。
つまり、家族・親族関係が良好であり、下記の㋐㋑に該当するケースでは、特段のトラブルを巻き起こす可能性もありませんので、絶対に下ろしてはいけない、ということにはなりません。
㋐下ろした預金は故人のための支払い(葬儀費用や未払いの入院・入所費用の精算)に使う
㋑現金出納帳をつけて正確に使途・残高を管理(領収書も保管)
さらには、家族・親族(相続人)に対して、故人の預貯金を下ろして、債務及び諸費用の支払に充てる旨をあらかじめ報告しておけば、よりベターと言えます。
故人の預貯金を引き出してたとしても、それが故人のために使われた場合や使われずに手許現金として残った場合でも、最終的な遺産配当手続き(遺言に基づく分配又は遺産分割協議に基づく分配)や相続税の申告手続きにおいては、当然に計上されますので、法律上・税務上のトラブルに発展するリスクは少ないというのが実務上の取扱いです。
(2)相続が発生したら預金は凍結する
相続が発生したら、又は市区町村役場に死亡届を提出したら、故人名義の預貯金口座が自動的・強制的に“凍結”され、下ろせなくなると思っている方は案外多いです。
しかし実際は、口座名義人が亡くなっても自動的・強制的に口座が凍結されることは、原則ありません(地方の方ですと、新聞のお悔やみ欄に記載されたことにより、あるいは町内で葬儀を執り行って場面を見かけたことにより、金融機関の担当者が死亡の事実を把握して、取引を停止する可能性はあります)。
金融機関が取引を完全に停止し、預金の引出し、振込み、口座引落、年金・家賃等の入金等の一切ができなくなる事態(これを一般的に“預金凍結”・“口座凍結”と呼びます)のは、金融機関が口座名義人の死亡の事実を把握したときです。
つまり、通常は、家族・親族(遺族・相続人)が金融機関に対して、死亡の事実を届け出たことにより把握することが多いですし、うっかり金融機関に相続手続きの手順の相談をしてしまうことにより凍結してしまうケースもあります。
相続が発生しても、慌てて金融機関に連絡を入れるのではなく、口座から引き落としされているものや入金されているものを確認してから、預貯金口座の相続手続きをすべきタイミングを図るのが得策です。
そうすれば、故人の生前と同様、水道光熱費やマンションの管理費、固定資産税、施設利用料などの口座引落はそのまま継続され、家賃収入や株の配当金などの入金も滞ることなく受領できることから、慌てずに口座変更の手続きができるので安心です。
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2.家族信託に関する誤解・誤解を招く記事・情報
(1)認知症になったら信託契約は締結出来ない
「認知症になったら(認知症と診断されたら)、家族信託の契約はできない」という記事やコメントを見かけることも少なくありません。
これも、正確な情報とは言えません。
正しくは、「判断能力が喪失又は著しく低下したら」と言うべきでしょう。
認知症と診断された方であっても、認知症外来に通っている方であっても、物忘れなどで認知症の疑いが濃い方であっても、買い物をしたり、炊事洗濯をしたり、自立した生活ができている方は多いです。
つまり、本人に物事を理解納得し意思表示する能力がどの程度残っているか(これを「残存能力」と言います)がポイントになるのであって、「認知症」という曖昧な概念の中で、遺言や家族信託、生前贈与など、相続対策・争族対策の実行をすぐに諦めてしまうことの方が、後々の大きなリスクとなり得ることを認識すべきです。
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(2)家族信託には3ヶ月以上の日数がかかる
家族信託の設計・実行には3ヶ月以上の日数がかかるので、中長期的な日数を踏まえて検討しましょう、という情報を耳にすることがあります。
確かに、家族信託の検討・設計・実行の過程においては、何度も“家族会議”を開いていただくことを想定します。
その中で、老親の保有資産や収支状況、老後と資産承継に関する希望・想いを家族に伝え、子世代は、それを踏まえてどのように安心の老後と円満円滑な資産承継を実現するかをこの分野に精通した法律専門職を交えて検討するプロセスは最も重要です。
とは言え、高齢の親世代(特に80代・90代の年齢の方)にとっては、数か月の期間ですら、認知症の進行による判断能力の低下や急病・持病の再発リスクを認識すべきケースがあります。
緊急性が高いケースでは、お打合せスケジュールを短期間に圧縮し、最短で1ヶ月ちょっとで信託契約公正証書を締結するケースもありますし、私文書で信託契約書を締結する場合には、数週間単位で緊急対応するケースもあります。
誤った情報をもとに、「3ヶ月以上もかかるのであれば無理そうだ」と最初からあきらめるのではなく、家族が一致団結して緊急対応する選択肢も持ち合わせていただきたいです。
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(3)金融機関で“信託口口座”を作成して金銭管理をしなければならない
家族信託を実行することにより委託者兼受益者となる老親等の金銭を管理するケースは多いです。
この場合、財産管理を担う受託者は金融機関において“信託口口座”(例えば「山田父郎 受託者 山田小太郎 信託口」というような受託者が印鑑を届け出る口座でありながら委託者の名前や信託という文字が口座名に入っている口座)で管理しなければならない、という情報を目にします。
しかし、地域によっては、この“信託口口座”の作成に対応できる金融機関が一つもないところもあり(メガバンクは原則対応できません)、信託口口座でなければならないという理想論だけでは実務は対応できません。
大切なことは、受託者となる方の固有財産たる金銭と委託者兼受益者から預かった信託財産たる金銭をしっかりと分けて管理する(これを「分別管理」と言います)ことです。
したがいまして、分別管理が徹底されているのであれば、受託者の個人口座(これを「信託専用口座」と呼びます)で管理することも可能であり、“信託口口座”の作成に対応できる金融機関がないエリアであっても家族信託をすることを諦める必要はありません。
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(4)家族信託には必ず「信託監督人」として専門職を置かなければならない
家族信託を実行する際には、その設計において、受託者による財産管理をチェックする機能として
家族・親族以外の第三者(法律専門職たる司法書士・弁護士等)を「信託監督人」として置かなければならないという話を聞きます。
確かに、受託者による財産管理をチェックする機能を設けるべきというのは正論ではあります。
ただ、すべてのケースにおいて、一律に「信託監督人」を置いて第三者に対して定期的な報酬の支払が発生する設計を強制するのは、ちょっと行き過ぎのような気がします。
法律専門職に対して毎月の報酬が発生する設計を強いることは、受益者のためというよりも、専門職のためのビジネスモデル(収益を上げるための仕組み)とも受け取れかねません。
信託監督人を置くべきかどうか、置く場合には誰を信託監督人に据えるかは、信託財産や財産管理方針、家族の関係性などによりケース・バイ・ケースで判断すべきと言えます。
3.成年後見に関する誤解・誤解を招く記事・情報
(1)法定後見の場合、後見人には家族は選ばれにくく、専門職が選任されやすい
既に判断能力が低下している方に対して、家庭裁判所に法定後見人の選任申立てをする場合、「後見人候補者となる子や孫、甥姪がいても後見人には家族は選ばれず、法律専門職(司法書士・弁護士など)が選任されることが多い。よって、任意後見契約を交わしておいた方が良い。」という論調の記事を比較的多く見かけます。
これも正確な記事ではないと言えます。
確かに統計データ上は、子や孫、甥姪が後見人に選任されるケース(いわゆる“親族後見人”)よりも、第三者である法律専門職が選任されるケース(いわゆる“専門職後見人”)が増えています。
ただ、これは、そもそも親族後見人となり得る候補者がいないケースや候補者が70代以上の高齢であるケース、推定相続人間で紛争性があり専門職後見人を就けざるを得ないケース等が多いという実態があると言えます。
ただし、円満な家族・親族関係であること、そして後見人候補者が高齢ではなく、資質面も経済面も問題ないケース等では、親族後見人が選任されています。
つまり、これから判断能力の低下に備えた準備をする段階においては、「法定後見」では専門職後見人が選任されてしまうという理由だけで「任意後見」を選択するのではなく、本人の生活状況や将来的な生活環境への希望、家族構成及びその関係性、保有財産状況などに応じて、「任意後見」か、それとも「法定後見」で充分か、あるいはそもそも「家族信託」にすべきかについてしっかりと検討して、最適な選択肢を見極める必要があります。
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(2)判断能力を喪失した人がいたら後見人を就けなければならない
判断能力が著しく低下・喪失した方は、自分で財産管理や法律行為(各種契約ごと)などが有効にできない可能性が高くなります。
それを理由に、判断能力が低下した場合は、速やかに後見制度を利用すべしという記事や情報を見かけることがあります。
しかし、判断能力が低下・喪失しているケースであっても、事前に対策を講じている場合や本人を支える家族がいる場合、既に入院・入所している場合は、必ずしも後見人を就けなくても、自宅や入院・入所先の日常生活に困ることはないケースも多いです。
例えば、本人が元気なうちに家族信託を実行したり、預貯金については金融機関で「代理人」を設定しておくような対策を講じておけば、後見人を就けることをしなくても、本人の生活・医療・介護・納税等で支障が出ることを防げるでしょう。また、支える家族がいれば、家族の立場で入院・入所手続きはできますので、後見人を就ける必要はありませんし、既に入所している方であれば、施設利用料は口座引落になるので、本人の判断能力が低下しても預金の出入れができずに困ることもあまりないと思われます。
判断能力が低下している方は、皆等しく成年後見制度を利用すべきであるというのは、非現実的な建前であり、成年後見制度を利用すべきかどうか、また、利用するにしてもいつから利用を開始すべきかについては、本人及び家族の希望及び本人の福祉的見地から、その必要性に応じて判断すべきであると考えます。