自己株式の取得の態様は幾つかありますが、ここでは株主との合意に基づく任意的な取得についてご紹介します。
1.株主全員に譲渡しの機会を与えて取得する方法
(1)株主総会の決議(会社法第156条)
会社が自己株式を取得する場合、予め株主総会(臨時総会でも可)の普通決議が必要です。
≪決議事項≫
・取得する株式の総数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
・株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及びその総額
・株式を取得することができる期間(1年を超えない期間)
(2)執行機関の決定(会社法第157条)
取締役又は取締役会は、株主総会の決議の範囲内で、その取得に関する具体的事項を決定します。
≪決議事項≫
・取得する株式の数
・株式1株を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
・株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の総額
・株式の譲渡しの申込期日
(3)株主に対する通知(会社法第158条)
会社は、取得する株式の種類の株主に対して、上記(2)の決定事項を通知します。
(4)申込み(会社法第159条第1項)
取得価格等の通知を受けた株主は、申込期日までに会社に対し、申し込みにかかる株式数を明示し、株式の譲渡しの申込みをすることができます。
(5)株式取得(会社法第159条第2項)
会社は、申込期日において、申込みがなされた株式の譲受けを承諾したものとみなされます。
2.特定の株主のみに譲渡しの機会を与えて取得する方法
自己株式を特定の株主から合意により有償取得する場合は、他の株主に不利益を与えないために、特定株主以外の株主にも譲渡しの機会を与える必要がありますので、その点において、上記「1.株主全員に譲渡しの機会を与えて取得する方法」と比べ、下記のポイント(違い)があります。
ポイントA:株主総会の決議要件がより厳格に(会社法第160条、第309条第2項第2号)
株主総会の決議は、特別決議によらなければなりません。
つまり、定款に別段の定めがない限り、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上の多数の承認を得なければ、特定の株主から自己株式の取得をすることができません(なお、譲渡す予定の特定株主は、その株主総会において議決権を行使することができませんのでご注意下さい)。
従いまして、例えば、株主総会に議決権の過半数を持った株主(株主A)のみが出席すれば、株主Aが賛成することにより特別決議の可決が可能となります。
しかし、他の株主も出席すれば、株主Aのみでは『出席した株主の議決権の3分の2以上』を満たさず、可決することはできない可能性もございます。
よって、確実に特定の株主からの自己株式の取得の手続を進めるためには、『議決権の3分の2以上』を確保することが重要となります。
『議決権の3分の2以上』を確保できていれば、この方法により実質的に特定の株主のみから株式の買い取りを進めることが可能になりますので、少数株主の整理には非常に有効な手段となり得るでしょう。
ポイントB:株主に対する通知する事項が増える(会社法第160条第3項)
会社は、株主総会に先立ち、取得する株式の種類の株主に対して、自己も売主に加える旨の議案の追加を請求することができる旨を通知しなければなりません。