中小企業の「事業承継」は、単に経営の担い手たる後継者を定める作業だけの問題ではありません。
「事業承継」の主要な要素としては、 下記の3つが挙げられます。
(1)経営権の承継:経営を担う役員の交代、そのタイミング等
(2)資産の承継:自社株だけではなく、事業用に提供している社長の個人資産たる不動産などをどう引き継ぐか等
(3)知的資産の承継:特許権や著作権、社内で蓄積した技術・ノウハウ、顧客情報など目に見えない資産を後継者にしっかりと引き継ぐこと等
上記のうち、「(2)資産の承継」の中でも、贈与税・相続税の課税対象となる「自社株」という財産の譲渡のタイミングや、それに伴う経営権のスムーズな移譲などの論点があり、会社経営における最重要課題の一つとなっています。
そこで今回は、中小企業の「自社株」の事業承継について、使える代表的な施策について簡潔にご紹介します。
中小企業の「自社株」の事業承継で使える施策
(ア)種類株式
「種類株式」とは、普通株式とは異なる権利内容を持つ株式のことで、2種類以上の株式を発行する場合、それぞれの株式を種類株式と呼びます。普通株式と異なり、議決権を制限した株式にしたり、配当金を優先的にもらえるような株式にしたりして、保有株式の比率だけにとらわれずに、経営権と株式の保有割合(資本)の分離による柔軟な対応が可能になります。
経営に関与させたくない親族(相続人)への対応策として、種類株式の仕組みを効果的に導入することにより、経営の安定化や後継者への円滑な権限移譲が実現しやすくすることができます。
(イ)属人的株式
「属人的株式」は、株式の譲渡制限がある非公開会社において利用できる、特定の人物だけが株主としての権利を持つ仕組みです。したがいまして、第三者に株式が譲渡された(株主が変わった)場合、その特別な権利は効力を失い普通株式に戻るというものです。
株主は、平等に扱うというのが原則ですが、「属人的株式」はその例外的な制度であり、定款に定めめるだけで、登記簿に記載されないという特徴があります。
法律専門職の間でもあまり知られていない仕組みですが、剰余金の配当や残余財産の分配を受ける権利、株主総会における議決権などにおいて特定の株主に特別な権利を付与したいときに活用できる施策です。特に、事業承継において、現経営者や後継者のみに議決権を集中させ、経営を安定化させる施策として有効です。
親族内で経営の継続性を重視する中小企業では、選択肢の一つとして活用を検討する価値があるでしょう。
(ウ)株式信託
「株式信託」は、信託の仕組みを使い、自社株を保有する者(株主)を「受益者」、経営判断を含め株主としての権利行使をする者を「受託者」とすることで、所有(財産の持ち主たる株主)と経営(株主権を行使する者であり、実質的に経営判断を担う者)を分離することができる仕組みです。
この仕組みは、後継者又は腹心の部下などを「受託者」として株式の管理や議決権行使を任せることにより、現経営者の病気・事故・認知症による判断能力の低下が生じても、経営判断に支障が出ないように備えることができるメリットがあります。
また、株価の低いタイミングで自社株を後継者に生前贈与しても、現経営者を信託契約の中で「指図権者」に定めておくことで、経営権を移譲するタイミングまでは経営権は引き続き現経営者が掌握し続けられるというメリットも享受できます。
(エ)事業承継税制
「事業承継税制」とは、贈与・相続等により自社株を取得した場合において、一定の要件を満たすことで、自社株の取得にかかる贈与税や相続税の納税が猶予されたり免除されたりする制度です。
これにより、後継者は株の売却や多額の現金の用意などを課されずに、事業を引き継ぐことが可能となるため、従業員などを後継者に指名したい場合の親族外承継のケースにおいても利用できるというメリットもあります。
ただし、この制度の利用には、その後一定以上の雇用を確保する必要があるなど厳しい要件があるほか、納税免除の決定までの期間が長く、この期間中は定期的に都道府県や税務署への報告を要するなど、かなりの労力もかかります。 また、納税猶予期間中に規定の取り消し事由が発生した場合は、猶予されていた税額に利子を加算して納付することになるなど、注意点も少なくありませんので、この制度の利用には、慎重かつ綿密な検討が必要になります。
以上、今回は、中小企業の「自社株」の事業承継について、使える代表的な施策について簡潔にご紹介しました。
各施策については、いずれも会社法や税法、信託法といった法的専門知識が必要になるため、司法書士・税理士をはじめとした法律専門職に相談しながら、早めに検討を始めることは必須と言えます。
この他にも、事業承継全般について何かお困りの際は、一度当事務所にご相談ください。
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