民法(債権法)改正法が2020年4月1日に施行されました。
様々な部分で大きな改正が行われましたが、我々の日常生活や一般的なビジネスにおいて重要となる知っておくべきポイントを3点挙げて、分かりやすく解説いたします。
【目次】
①保証人(保証契約)に関する変更
②法定利率の引き下げ
③消滅時効に関する変更
①保証人(保証契約)に関する変更
一定の範囲に属する不特定の債務を保証する契約を「根保証契約」といいます。具体的には、アパートの賃貸借契約の保証人となったり、お金を借りる際(金銭消費貸借契約)の保証人になる場合です。
今回の民法改正では、保証人の保護の観点から、保証人が支払いの責任を負う上限の額(これを「極度額」といいます)を定めなければ、保証契約自体が無効となりました。
※ 保証人制度の変更など、今回の改正が賃貸経営にどのような影響を及ぼすかについては「不動産賃貸借契約に与えるポイント」をご参照ください。
【参照条文】
(個人根保証契約の保証人の責任等)
第465条の2
一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
3 第四百四十六条第二項及び第三項の規定は、個人根保証契約における第一項に規定する極度額の定めについて準用する。
②法定利率の引き下げ
例えば、貸金について、契約の当事者間において利息や遅延損害金に関する合意がない場合、あるいは、交通事故等で損害を与えた相手に賠償金の支払いまでの間に発生する遅延損害金については、法律で適用する利率が決められていました。これを「法定利率」といい、これまではずっと「5%」とされていました。超低金利の時代背景をもとに今回、「3%」に引き下げられました。
また、市中金利の動向に合わせ、この利率を3年ごとに見直し、1%刻みの数値で法定利率が変動する仕組みとしました(法定利率は常に整数になります)。
さらには、商行為によって生じた債務に適用される商事法定利率の「6%」は廃止され、民法の法定利率「3%」に統一されました(商法第514条の削除)。
【参照条文】
(法定利率)
第404条 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。
2 法定利率は、年3パーセントとする。
3 前項の規定にかかわらず、法定利率は、法務省令で定めるところにより、3年を一期とし、一期ごとに、次項の規定により変動するものとする。
4 各期における法定利率は、この項の規定により法定利率に変動があった期のうち直近のもの(以下この項において「直近変動期」という。)における基準割合と当期における基準割合との差に相当する割合(その割合に1パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)を直近変動期における法定利率に加算し、又は減算した割合とする。
5 前項に規定する「基準割合」とは、法務省令で定めるところにより、各期の初日の属する年の6年前の年の1月から前々年の12月までの各月における短期貸付けの平均利率(当該各月において銀行が新たに行った貸付け(貸付期間が一年未満のものに限る。)に係る利率の平均をいう。)の合計を60で除して計算した割合(その割合に0.1パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)として法務大臣が告示するものをいう。
③消滅時効に関する変更
「消滅時効」とは、法律的な権利を持つものが一定期間のうちにその権利を行使しないことによってその権利が消滅する制度をいいます。
今回の改正では、大きく次の2つの消滅時効についての変更が重要だといえます。
(1) 消滅時効期間が、「5年」と「10年」に統一
(2) 生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間を長期化
上記2点について、分かりやすくご説明します。
(1) 消滅時効期間が、「5年」と「10年」に統一
従来の民法では、職業ごとに短期の消滅時効期間が細かく規定されており(例えば医師の診療報酬は3年、弁護士の報酬は2年など)、分かりにくいとされていましたが、今回の改正で、消滅時効期間は原則「5年」に統一されました。
また、「権利を行使することができることを知った時から5年間」という主観的基準を原則としつつ、「権利を行使することができる時から10年間」という客観的基準も設けました。
例えば、売買などの契約では、契約時に自分で権利を行使することができることを知っているので、知っていながら放置してしまった人の保護は短期間で良いでしょうという考えのもと主観的基準である5年が適用されます(原則)。一方で、サラ金に対する過払い金の返還など不当利得の返還請求権や安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権などについては、
自分でこれらの権利行使ができることを気付かないケースも多いことから、客観的基準である10年を適用して法的救済を図るという趣旨です。
なお、改正前民法のときに発生した債権が改正法にまたがる場合の消滅時効期間の考え方ですが、これはシンプルに債権の発生した時点(契約がされたとき)が改正法施行日(2020年4月1日)より前か後かで改正法の適用の可否が決まります。
例えば、2019年中に請負契約を締結していた工事が、2020年4月1日以降に完成し、当該工事に関する債権が発生したような場合には、請負契約自体は改正法施行日前に締結されていたため、改正前の時効期間が適用されることになります。
法務省民事局「民法(債権関係)の改正に関する説明資料」より
【参照条文】
改正民法166条(債権等の消滅時効)
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。
(2) 生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間を長期化
交通事故による死傷や医療過誤による死亡・後遺症など、故意又は過失によって「生命又は身体」に被害を受けた方が持つ損害賠償請求権の時効期間については、「損害及び加害者を知った時から5年間」とし、改正前の民法の「3年間」よりも長期化することで権利救済を図っています。
また、前述の債権の消滅時効期間である「権利を行使することができる時から10年間」(民法166条1項2号)についても、「人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権」の場合には、「権利を行使することができる時から20年」という例外を設けました(民法167条)。
なお、従来の民法第724条における「不法行為の時から20年」については、判例により「除斥期間(中断されることなく、20年という期間の経過で当然に権利が消滅するとされるというもの)」であるとされていましたが、民法改正により、「除斥期間」ではなく「消滅時効期間」であると明記されました。
消滅時効とすることで、「中断」や「停止」(改正法では「更新」や「完成猶予」といいます)といった時効の進行を阻止する法的手段が取れることになるので、被害を受けた方の救済をしやすくなるというメリットが生まれます。
法務省民事局「民法(債権関係)の改正に関する説明資料」より
【参考条文】
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第724条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
二 不法行為の時から20年間行使しないとき。
(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第724条の2 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「3年間」とあるのは、「5年間」とする。
(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効)
第167条
人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一項第二号の規定の適用については、同号中「10年間」とあるのは、「20年間」とする。