2020年4月1日施行の改正民法により大きく変わった「時効制度」について、重要な変更点をご説明します。
【目次・重要ポイント】
1.消滅時効の援用権者を明確化(第145条)
2.時効の「更新」「完成猶予」に表現変更(第147条から第152条)
3.時効の更新事由(時効進行がリセットされるケース)
4.時効の完成猶予事由(時効の完成がストップされるケース)
5.仮差押え・仮処分を時効の更新事由から除外(第149条)
6.協議を行う旨の合意による時効の完成猶予(第151条)
7.短期消滅時効の廃止
8.消滅時効期間の改正
9.人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効(第167条)
1.消滅時効の援用権者を明確化(第145条)
消滅時効とは、権利が一定期間行使されない場合、その権利を消滅させる制度です。
時効の「援用」とは、債権者に対して消滅時効の制度を利用する旨を通告することを言います。
法律で定められた時効期間が経過した後、当事者等が消滅時効を援用することにより、確定的に権利が消滅(例えば、債務者から見ると債務が消滅)することになります。
消滅時効を援用することができる者(=時効の援用権者)については、改正前の民法では「当事者」としか記載されておらず、条文上具体的にどのような者が該当するかは明らかではありませんでした。
そこで改正民法では、判例で認められていた「保証人」、「物上保証人」、「第三取得者」等、一定の第三者も援用権者に含まれることが明記されました。
【民法第145条】
時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
2.時効の「更新」「完成猶予」に表現変更(第147条から第152条)
改正前民法での「時効の中断」は、それまでの消滅時効の進行がリセットされ、また最初から時効期間が進み始めることをいい、「時効の停止」は、一定の事情がある場合に時効完成が一定期間猶予される(一定期間内に時効期間が到来しても時効が完成しない)ことをいいます。
しかし、これらの表現は日常的に使っている意味合いとは異なっており、分かりにくいと指摘されていました。
そこで、「時効の中断」は「時効の更新」に、「時効の停止」は「時効の完成猶予」に、それぞれ表現が改められました。
次の章で具体的な時効の更新事由・完成猶予事由についてご説明します。
3.時効の更新事由(時効進行がリセットされるケース)
①裁判上の請求(訴えの提起)等による権利の確定:第147条
②強制執行・競売の手続終了:第148条
③承認:第152条
4.時効の完成猶予事由(時効の完成がストップされるケース)
①裁判上の請求(訴えの提起):第147条
②強制執行・競売:第148条
③仮差押え・仮処分:第149条
④裁判外の請求(催告):第150条
⑤協議を行う旨の合意:第151条
⑥未成年者又は成年被後見人:第158条
⑦夫婦間の権利::第159条
⑧相続財産::第160条
⑨天災:第161条
5.仮差押え・仮処分を時効の更新事由から除外(第149条)
改正前民法第147条では、仮差押え・仮処分は時効の中断事由とされていました。
しかし、これらの手続は債務名義を必要としない、訴えが提起されるまでの間の暫定的な手続です。
そこで、改正民法では、仮差押え・仮処分を時効の完成猶予事由とし、手続終了時から6ヶ月間は時効が完成しないこととされました。
6.協議を行う旨の合意による時効の完成猶予(第151条)
「協議を行う旨の合意が書面でされたとき」というのは、改正民法により新しく規定された時効の完成猶予事由です。
今までは、当事者が債権債務関係について協議をしている間も時効期間は進行していました。そのため、時効完成を阻止しようと思ったら、裁判上の請求等の訴えを提起せざるを得ませんでした。
そこで、当事者が協議を行い書面で合意が得られれば、合意があった時から1年間(協議を行う期間を1年未満と定めたらその期間)は時効が完成しないこととされました。
なお、この協議を行う旨の合意は、再度行うことができます。
ただし、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて5年を超えることができません。
なお、第150条の催告による時効の完成猶予期間中になされた、協議を行う旨の合意については、時効の完成猶予の効力はありません。
7.短期消滅時効の廃止
民法が制定された当初は、旧民法第170条以下に掲げられている診療債権や飲食代金債権等は、短期に支払われるものであり、また領収書が発行されない場合もあったことから、一般の債権よりも短い消滅時効期間が定められていました。
しかし、短期消滅時効の区分はわかりにくく、また、現在では領収書は発行されるのが普通であるため、他の債権と区別することへの合理性がなくなりました。
よって、改正民法では「短期消滅時効」は廃止されました。
8.消滅時効期間の改正(第166条)
消滅時効の期間については、次のように改められ、債権は、下記の①②に該当する場合に消滅します。
①債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき(主観的要件)
②権利を行使することができる時から10年間行使しないとき(客観的要件)
なお、債権又は所有権以外の財産権は、「権利を行使することができる時から20年間行使しないとき」に消滅します。
次に、貸金、つまり金銭消費貸借契約の時効について、民法改正前と改正後では期限が異なりますので、次の通りまとめてしました。
≪民法改正前≫
・借りる相手が金融機関や貸金業者といった営利目的の「事業者」の場合: 5年間
・借りる相手が親族・友人などの個人の場合:10年間
≪民法改正後≫
これまで借りる相手によって異なっていた事項期間が統一され、相手が金融機関や貸金業者といった営利目的の「事業者」の場合でも、親族・友人などの個人の場合でも、上記①②の消滅時効の考え方に基づき5年間又は10年間のいずれか早い時期となりました。
個人が貸主(債権者)の場合、今までは時効の期限は10年間とされてきました。
民法の改正によってもこの期限は変わりません。
しかし、この他に債権者が債務者に返済を求めることができることを知った時から5年間で時効は完成するという規定が新たに設けられたのです。
なお、民法改正によっても、2020年4月1日の「民法改正前」に締結された金銭消費貸借契約の時効は、改正前の民法が適用されますので、特に影響を受けません。
改正民法の規定が適用されるのは、令和2020年4月1日以降に締結した契約からとなります。
9.人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効(第167条)
これも改正民法で新設された時効期間です。
人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権については、その権利の重要性を考慮し、客観的要件の時効期間を「20年」としています。