会社設立・起業支援 ,

合同会社(日本版LLC)

3月 30, 2007

2006年4月施行の新・会社法により全く新しい組織が誕生しました。
その名も『合同会社』。米国で普及しているLLC(リミテッド・ライアビリティ・カンパニー)の日本版であります。
「1円起業」で話題を呼び2003年から認められた『確認会社』に始まり、日本でも欧米に負けないくらい新規創業やベンチャー事業を盛んにさせようとする国を挙げた支援の動きがありましたが、さらにベンチャー事業にとって使いやすい柔軟な会社組織の創設が要請されておりました。
そこで誕生した『合同会社』は、従来の株式・有限会社の有限責任制度をそのままに、合名・合資会社のような自由な組織設計・柔軟な損益分配が可能であるという従来制度の長所をいいとこ取りした特徴を持ちます。
従来の有限会社と同様、決算公告義務がないというメリットもあり、既存の企業間の、あるいは個人間の合弁事業(ジョイント・ベンチャー)などの器としての活用が期待されます。

 

【合同会社の特徴】
合同会社の特徴(メリット)は、下記の点にあるといえます。

1)有限責任制
株式会社・有限会社と同様、出資者は出資額までしか責任を負わない。

2)定款自治の原則
民法の組合の規定を準用し、会社内部の規律や利益配当については会社が自由に設計できる
→株主総会・取締役会などの強制的設置の機関がなく、出資比率に基づかない議決権など柔軟にかつスピードのある意思決定システムを作ることが可能。
→利益配当は、必ずしも出資割合に基づかなくともよく、例えば出資比率は10%でも、収益への貢献が高い出資者には50%の利益配当を出すことも可能。
→原則として社員の全員一致で定款の変更その他の会社のあり方が決定され、社員自らが会社の業務執行にあたる。

3) 株式会社への組織変更が可能
社員全員の一致により株式会社へ組織変更することが可能
→ベンチャービジネスとして合同会社を立ち上げ、その後収益が安定し事業規模の拡大が見込める場合、株式上場などに向け株式会社化することが可能。

4)設立時の定款認証が不要
株式会社を設立する場合、公証役場で定款認証をする必要があるが、合同会社を設立する場合の定款は認証が不要。自分で作成するだけで済ませられるため、設立時の経済的負担・事務的負担が少なくて済む。

5)設立費用が安い
上記4)のとおり、株式会社であれば、公証役場で定款認証をする必要があり、その手数料が約52,000円くらいかかるが、合同会社の場合、この費用がかからない。
また、会社設立登記にかかる登録免許税が金6万であり、株式会社の金15万円に比べて安い。
つまり、会社設立登記にかかる実費分の合計を比較すると、株式会社の場合は約20万円(電子定款でない場合は、定款に貼付する印紙税としてさらに金4万円が必要)なのに対し、合同会社は約6万円(電子定款でない場合は、定款に貼付する印紙税としてさらに金4万円が必要になるのは株式会社と同様)で済む。

6)役員の任期が無い
株式会社の場合、取締役及び監査役には、法定の任期があります。
株式の譲渡制限のある非公開会社であれば、取締役及び監査役の任期をともに最長10年まで伸長できますが、最低でも10年に1回は役員変更の登記手続きが必要になります。
一方、合同会社の場合、有限会社と同様、任期の制限がありませんので、役員の新たな選任や辞任がない限り、役員変更登記の手続きは必要ありません。

7)決算の公告義務が無い
株式会社は、事業年度の終了後に定時株主総会を開催し、そこで承認された決算内容(貸借対照表、損益計算書など)を公告する義務があります。 実際に、決算公告を行っている中小企業はそれほど多くないでしょうが・・・。
一方、合同会社には、決算公告義務がありませんので、その分の手間も費用も発生しません。

 

【合同会社と他の組織との比較】
<各種事業形態の比較表>(PDFファイル)

 

【合同会社の仕組み】
Ⅰ 社員(=合同会社を構成する構成員)
社員1人のみの合同会社の設立及び存続が認められるため、1人社員による機動的な経営も可能となる。
合同会社の社員の氏名又は名称及び出資の価格は、登記事項とはしない。
また、合同会社設立後の社員の入社及び持分の譲渡の承認については、それぞれ原則として社員全員の一致による。
社員の出資は、金銭その他の財産のみに限られ、労務出費や信用出費は認めないとされている。
また、社員の出資については、全額払込主義をとっている。
この点については、合同会社の社員は会社の債務について、株式・有限会社と同様の出資額の範囲内でしか責任を負わないという社員の有限責任制に配慮している。

Ⅱ 合同会社の業務の執行
合同会社の社員は、原則として、業務を執行する権限を有するが、定款の定め、又は社員全員の同意により、社員の一部を業務執行社員として定めることもできる。
法人が業務執行社員になることもできるが、その場合は、自然人を「職務執行者」として選任する必要がある。
職務執行者については、次に掲げる措置を講ずる。
1. 職務執行者を選任したときは、その氏名等を社員に通知しなければならない
2. 職務執行者の氏名及び住所を登記事項とする
3. 職務執行者については、業務執行社員と同一の取扱い(競業避止義務、利益相反取引の承認等)をする
業務執行社員は、合同会社に対して民法の委任の規定に基づく善管注意義務及び忠実義務を負う。
この点は、株式会社の取締役と同様である。
ただし、業務執行社員が合同会社に対して負う責任の減免については、特別の規定を設けない。
合同会社の業務執行社員の合同会社に対する責任を追及する訴えについては、合同会社の業務執行社員以外の者であっても提起できる。
その場合の訴えについては、株式会社の代表訴訟の提起手続等と同様の措置が講じられる。
一方、合同会社の業務執行社員の第三者に対する責任については、株式会社の取締役の第三者に対する責任の規定と同様の規定が設けられる。

Ⅲ 定款の変更
合同会社の成立後の定款の変更は、原則として社員全員の一致によるものとする。
会社の内部関係については組合的規律が適用されるため、会社の基本原則を定めた定款の変更には、社員全員の一致が必要とされる。

Ⅳ 社員の退社
合同会社の社員は、やむをえない事由があるときは、定款の定めにかかわらず、退社できる。
合同会社の社員が退社するときは、その持分の払戻しを受けることができる。
持分の払戻しに際して払い戻す金銭等の額が剰余金の額を超える場合には、業務執行社員の決定(業務執行社員が複数いる場合には、その過半数の同意)をもって、債権者保護手続(帳簿上の純資産額を超えて払い戻す場合には、清算手続に準じた手続※)を経て、払戻しを行わなければならない。
上の手続に違反して払戻しをしたときは、すべての業務執行社員は、その払い戻した額につき弁済責任(過失責任)を負う。
※「清算手続に準じた手続」とは、知れたる債権者への個別催告を要し、債権者を害するおそれがないことを抗弁として弁済等を拒むことができない手続きをいうとされている。

Ⅴ 合同会社の計算
合同会社の社員は、株式・有限会社と同様に有限責任であるから、貸借対照表、損益計算書、社員持分変動計算書を作成しなければならず、債権者はその閲覧又は謄写の請求をすることができる。
剰余金の分配に関しても、株式会社と同様の財源規制が課せられる。
違法な剰余金の分配が行われた場合の分配した社員(その分配に賛成した社員を含む)の責任(商法第266条1項1号)及び分配を受けた社員の責任(商法第266条ノ2・第290条2項)、その責任の減免についても株式会社と同様とする。

 

【合同会社の活用例】
事例1 :研究資金や研究設備として大手企業が資本金の大半を出資し(90%出資)、研究者は、金銭的な出資は少ないが(10%出資)、技術・ノウハウを提供することによってベンチャー企業を立ち上げる。利益が上がったときには、出資比率に基づかずに研究者の功績を評価して大手企業と研究者が50%ずつの利益配当を受けることが可能。
事例2:複数の商店街が、大型ショッピングモールに対抗すべく商店街の活性化・IT化に向け、商店街の共通のカード決済システム・携帯電話決済システムの導入を計画。各商店街が出資して株式会社を立ち上げたとすると、商店街の規模の大小で議決権に差ができ、大きな商店街が主導する形になってしまうが、LLCであれば、出資比率にかかわらず、議決権を平等にして議論が進められる。また、LLP(有限責任事業組合)と異なり、LLCは利益の内部留保が可能なので、多額の導入資金をプールし、来るべき一斉導入へ向けて準備を進めることが可能。

 

【合同会社の普及の可能性】
合同会社が今後普及するかどうかの最大の問題点は、米国のLLCと異なり、「パススルー税制(構成員課税)」が認められず、税法上法人課税(発生した利益に法人税が課せられる)となること。
パススルー税制とは、会社の利益には税金がかからず、その利益配分を受けた出資者に直接税金がかかる仕組みのことであり、これが認められ税制メリットを生かせるLLP(有限責任事業組合)の方が利用されるのではないかとも言われている。
財務省としては、脱法行為・租税回避行為に合同会社が悪用されることを懸念して「法人格である以上法人課税」という大原則を譲らなかったとみられる。
しかし、LLPは毎事業年度ごとに損益が各構成員に配分され課税されてしまうので、長期的な視野に立ったプロジェクトなどには、利益の内部留保ができる合同会社の方が使い勝手がいい場合もある。
また、確実に黒字が見込める安定収益型ビジネスであれば、損益通算できるLLPである必要はないし、将来的に株式会社への組織変更、株式公開(IPO)へ発展させることができるというメリットがある。
つまり、LLCは、LLPと同様、使い方・アイデア次第で、従来の株式会社にはない有効活用ができるといえる。
合同会社が普及するかどうかは、今後、合同会社を利用した様々な事業モデルが考案されるかどうか、そして社会的認知がどれだけ進むか、にかかっているだろう。

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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