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家族信託など老親の認知症による‶預金凍結”対策のまとめ

1月 27, 2022

老親の認知症等により、老親名義の預貯金口座から、生活費・介護費用や入院・入所費用が下ろせなくなる事態、いわゆる“預金凍結”する事態を回避するために、老親が元気なうちに取り得る対策をまとめてみました。
下記の通り大きく分けて、5つの方策があると考えます。

 

 

 ① 家族信託に基づく「信託口口座」又は「信託専用口座」に預金を移動させ、受託者たる子に管理を任せる。

家族信託についての詳細な解説は、ここでは割愛しますので、詳しくは下記記事をご参照ください ↓↓↓
★★家族信託による金銭管理と信託口口座 【預金凍結対策】

 

② 敢えて生前贈与で子の財産にした上で、“凍結”を防ぎつつ、その財産で老親の生活・介護費用を賄ってもらう。

生前贈与については、贈与税の課税の問題が生じるので、受取人一人につき1年間で金110万円まで非課税枠がある「暦年贈与」の制度を使うか、受取人一人につき金2,500万円までは非課税だが、相続発生時に課税対象財産に算入して精算が必要な「相続時精算課税制度」を使うか、という選択肢が考えられます。税負担を抑えつつ、どのように贈与制度を有効活用するかは、専門家に相談をしながら検討すべきです。

 

③ 金融機関ごとの「代理人制度」を利用する。

金融機関(銀行・信用金庫だけではなく証券会社も含む)によっては、口座名義人たる老親が元気なうちに「代理人」を届け出ておくことで、預金者が銀行窓口で預金の払戻しができなくなる事態や証券会社に有価証券類の売買発注ができなくなる事態が生じても、代理人(主として子)が堂々と払戻しを受けたり売買発注をできるような仕組みを設けているところがあります。
ただし、このような制度を設けていない金融機関も多いので、まずは各金融機関が「代理人制度」を設けているかどうかを確認しましょう。
なお、この代理人制度も、届出をすれば老親が元気なうちから代理人も権限を持つことができる「即効型」と、届出をしてもすぐには使えず、将来老親の判断能力が低下したことを証明する診断書を提出することで初めて代理人の権限が与えられる「予約型」に分けられるので、この点も確認しましょう。

 

④  老親のキャッシュカードやインターネット口座を便宜上そのまま利用する。

あまりお勧めできるものではありませんが、老親が持っているキャッシュカードを預かり、教えてもらった暗証番号をもとに子がATMで親の生活・介護費用を下ろすという便宜上の対応をする方策です(親の預金を子が下ろすことに後ろめたさを感じる方も多いですが、親の預金をきちんと親の生活・介護のために使う限りにおいては、法的にも税務的にも特に問題は生じません)。
多くの方がこのやり方で管理を行っていますが、2つの点で注意が必要です。
一つ目は、キャッシュカードに磁気不良が起きてしまうと、カードの再発行手続きは、原則として預金者である老親の本人確認が必要なので、もし老親の判断能力が著しく低下してしまうと、再発行ができず、預金が下ろせなくなる事態が起こりえるということです。
二つ目は、家族内の事前の了解が無いと、後日家族内で使途不明金等の問題・紛争を巻き起こしかねないリスクをはらむということです。
家族会議の中で、誰がキャッシュカードを預かり、どのように対応するか(帳簿作成の要否や領収書の管理方法も含め)をきちんと話し合うことが重要です。
なお、老親名義の預金口座をインターネットバンク化して、ID・パスワードを子世代でシェアすることで、キャッシュカードよりも安定性・永続性のある管理が実現できると言えます。
とはいえ、インターネットバンクの行く末としては、不正アクセスを防止する観点から“ワンタイムパスワード”が主流になっていく可能性があり、そうなると将来的にインターネットバンクと言えども、複数の子が親の預金口座へのアクセス権限を確保できるかは先行き不透明と言えます。
やはり、万全を期すのであれば、上記①の家族信託による管理が最上級に堅実な管理方法と言えるでしょう。

 

⑤ 親の年金受取口座を施設利用料の引落口座に設定する。

2ヶ月に1回受け取る年金を“凍結”することなく有効活用する手段として、最もアナログですがとても効果的な方法です。
老親の年金受取口座を高齢者施設の利用料の引落口座に設定することができれば、任意のタイミングで任意の額を下ろしたり、送金したりすることはできませんが、既に高齢者施設に入所されている方やこれから入所する予定だけれども入所一時金の支払いに支障がない方は、この方策で十分なケースも多いと言えるでしょう。

 

★まとめ★

以上のように、老親が保有する預貯金等の金融資産を“凍結”させずに、今後の10年、15年、20年超…と老親を支える仕組みを作ることを考えたときに、事前に取り得る選択肢はいくつもあります。

なお、選択肢の中に「任意後見」が入っていないことにお気付きになる方もいるかもしれませんので、この点について触れさせて頂きます。
「任意後見」は、、元気なうちに将来の財産管理や介護・医療の手続きなど(これらを「身上保護」と言います)を託したい相手(家族や法律専門職)と間で将来に備えて契約をしておく仕組みです。
その意味では、選択肢の一つ目でご紹介した「家族信託」と似たイメージになります。
しかし、「任意後見」は、家庭裁判所(国)が関与する財産管理等の仕組みですので、老親本人のお金の使い道については1円単位にまでチェックされ、任意後見人には帳簿作成義務や任意後見監督人への収支状況等の報告義務など大きな負担がかかります。

また、任意後見監督人に対する報酬が月額1~2万円、任意後見の利用開始から親本人が亡くなるまで継続的に発生するという経済的負担も生じます。
従いまして、家族・親族の関係性が円満で、財産管理や介護方針について、意見の対立がまったく無いようなケースでは、必ずしも「任意後見」を使うことがベター・ベストな選択肢とはなりませんので、ここでは敢えて選択肢から外しております。

任意後見の使い方を含め、インターネットの情報を鵜呑みにして、親と一部の子だけで対策を検討・実行することは、非常に大きなリスクや憂い、さらには子供同士(兄弟間)の疑心暗鬼や確執を10年超にわたって残すことにもなりかねません。
できれば親子全員が集まる「家族会議」の中で、しかもそこに、この分野に精通した専門家も交えて、家族の全員が理解して納得できるまで、しっかりと検討することをお勧めします。
もちろん、親の保有資産に金融資産だけではなく、自宅や収益物件、別荘などの不動産が含まれる場合は、その財産ごとに別の方策も検討する必要が出てきますので、親の保有資産全体を踏まえ、専門家を交えた検討は、やはり必須と考えて頂きたいです。

 

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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