今回は、『図解 いちばん親切な家族信託の本』をお読みになった方々から頻繁にご質問いただく内容を2回に分けてご紹介しておりますが、今回はその2回目です。
次の4つのよくある質問(④~⑦)を是非ご覧下さいませ。
④受託者以外の兄弟の同意・承諾は必須なの?
家族会議が必須ではないのと同様、受託者以外の兄弟姉妹の同意・承諾がないと家族信託が実行できない訳ではありません。
理論上、管理を任せる立場の老親(=委託者)と実際に財産管理を担う子(=受託者)の2者間で信託契約書は締結できます。
とはいえ、長期にわたる老親の財産管理とその先の資産承継に関する重大な仕組み作りになりますので、将来におけるお困りごとやトラブルを避けるために、できる限り受託者以外の兄弟にもご理解・ご納得をいただけるように家族信託の検討段階からお話し合い加わっていただくことが理想です。
設計によっては、他の兄弟も「第二受託者」「第三受託者」といった予備的受託者や「信託監督人」や「受益者代理人」というの立場を担うケースも多いです。
⑤チェック機能(信託監督人)は置くべき?
受託者の財産管理業務は、信託財産の実質的オーナーたる受益者(老親)自身がチェックや指導をすることになりますが、加齢に伴い、十分にチェックや指導ができなくなるリスクがあります。
そこで、受益者の判断能力が低下し、受託者による財産管理状況を自分でチェックできなくなる事態に備え、家族信託の仕組みの中でチェック機能を設けることもできます。
具体的には、「信託監督人」や「受益者代理人」という立場の役職を置くことで、受託者の財産管理業務をチェックしたり指導することが可能となります。ただし、必ずしも「信託監督人」や「受益者代理人」を置かなければならない訳ではないので、チェック機能の設置の要否や設置する場合の担い手などについて、専門家を交えて十分な検討が必要です。
たとえば、外部の法律専門職(司法書士や税理士など)にこの立場を担ってもらうとなると毎月の報酬がかかってしまいます。
家族信託の実行後も、定期的な家族会議の開催し、受託者が管理する信託用口座の通帳などを開示して適切に金銭管理が行われていることを家族みんなでチェックするなど、家族信託の仕組みではなく、敢えて家族会議の運用の中で対応することもできるでしょう。
⑥どんな財産を信託財産に入れるべき?
どんな財産を信託財産として管理するかは、最初に下記の観点から考えるとシンプルになるといえるでしょう。
つまり、「親が存命中に動かす(不動産でいうと賃貸、売却、解体、買換え、建設、建替えなどの処分行為をする)可能性のある財産が有るかどうか」という観点です。
具体的には、近い将来において古アパートを解体や建替えしたい、老親が施設に入所することになれば空き家となった実家を売却して入所一時金や毎月の施設利用料などに充てたいというような事態を想定すべきかどうかです。
それは、積極的に処分等したい場合だけではなく、処分等をせざるを得ない場合も含めて、動かす可能性のある財産があれば、それを信託財産として受託者が預かっておくことが良策となります。
そうすることで、処分したいタイミングでスムーズに処分できることになります。
いわば、将来における財産の管理処分の選択肢を確保するために”保険“をかけておくというイメージです。
⑦「現預金」の管理だけでも家族信託は必要?
老親の財産が「現預金」だけというケースも少なくありません。
この場合、体調不良・判断能力低下に左右されない長期にわたる老親の金銭管理について、どんな対策を講じれば、本人及び家族が安心して暮らせるかを考えることが大切です。
最も堅実な金銭管理の方策が「家族信託」や「成年後見」ということになりますが、次の4つの方策も、認知症による“預金凍結対策”になり得ることは知っておくことは大切です。
まず、親のキャッシュカードを預かり、教えてもらった暗証番号でお金の出し入れすることで代用できるケースもあるでしょう。誤解も多いので敢えて触れますと、親の生活・介護のために使う資金を親の承諾のもとで子がATMで下ろすことは何ら違法ではありません。ただし、キャッシュカードに磁気不良が生じた場合、カードの再発行は預金名義人本人が手続きをする必要がありますので、万全の備えにはなり得ないということは理解すべきです。
また、金融機関によっては「代理人制度」がありますので、あらかじめ代理人の届出をしておくことで、預金名義人たる老親以外の家族が代理人カードを使って堂々と預金の出し入れを担うこともできます。ただし、金融機関側が預金名義人本人の判断能力が低下したことを把握すれば、代理人としての権限も無くなるケースもありますので、金融機関ごとに異なる「代理人制度」をしっかりと把握した上で利用することも重要です。
老親名義の口座にインターネットバンキングを導入して、ID・パスワードを家族で情報共有して、家族がいつでも老親のためにネットバンクで振込送金や残高照会をできるようにしておくのも良策となり得ます。ただし、金融機関によっては「ワンタイムパスワード」の仕組みを導入しているところもありますので、一度IDとパスワードを共有すれば、スムーズな預金の出し入れが継続的にできるとは限りません。どの金融機関でインターネットバンキングを導入するかも見極める必要があります。
また別の視点から考えると、敢えて「生前贈与」で子世代に財産を渡しておくことで、“資産凍結リスク”を回避する方策も考えられます。もし老親の医療・介護費用などの支払が必要となれば、子が贈与を受けた財産から立替払いします。ただし、贈与税の課税対象になりますので、贈与する金額・タイミング・回数や「相続時精算課税制度」の利用などをしっかり検討し、家族が理解・納得できる贈与をする必要があります。
これら代表的な4つの代替手段の存在やそのリスク・限界も踏まえた上で、憂いの無い堅実かつ軽負担な財産管理として、「家族信託」の仕組みで金銭管理を行うことについて、しっかりと検討するのが良いでしょう。
最上位クラスの万全の財産管理を目指して「家族信託」を実行するのか、家族の総意で敢えて「家族信託」以外の手段で老親の生涯を支えきるのか、家族信託の専門家を交えた検討をおススメします。
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