「家族信託」をご検討中の方から、これから先どのように手続きを進めていけばよいのか、家族信託を実行するまでの手続きの流れや所要日数について、よくご質問をいただきます。
そこで本稿では、高齢の両親の財産管理について、家族信託を実行(信託契約を締結)するまでの手続きの流れ・所要日数などをご説明します。
【家族信託の手続きの流れ】
①親の保有資産・収支状況を家族内で情報共有する
まずは、現状把握が将来への備えの第一歩です。
親世代は、とかく自分の保有資産を子に対し隠しがちですが、将来的に自分の財産の管理やそれを使って老後を支えてもらうことを踏まえますと、現在の自分の保有資産状況をあらかじめ子にオープンにすることは必要なプロセスだと考えます。
このプロセスは、家族全員が集う“家族会議”において行うことが理想であり、前提であるとも言えます。
もちろん、オープンにした結果、その財産を当てにしたり、私利私欲に走って生前から貰おうとする子がいたりするとすれば、その子に対しては、自分の老後や財産管理は託さないという結論を出せるかもしれないという意味では、子の誠実さを測る1つのきっかけとして捉えていただいても良いでしょう。
また、現在の収支状況及び将来的な収支予測についても、家族内で情報共有することが重要です。
保有資産と収支状況を把握することで、高齢の親を支える子側に漠然とした不安を与えることはなくなりますし、反対に親を支える覚悟をもたせることにも繋がると考えます。
②親の老後生活や資産承継に関する希望や想い、支える家族側の希望を家族内で話し合う
次に、親世代がこの先、どこでどのような生活をしたいか、保有資産をどのように管理・運用・処分・承継したいかなどの希望・想いを“家族会議”において家族全員にしっかりと伝えること、そして親を支える子側の各々の希望も親・兄弟に対して伝えることが大切です。
親側は、自分の自宅やアパートを孫の代まで引き継いでいってほしいと思っていても、承継者となる子側が、実家に戻って暮らすことは想定し得ないので両親を看取ったら売却したいと考えているケース、親を見ていてアパート経営は大変そうだから自分はアパート経営をやりたくないと思っているケースはあります。
遺す側とそれを受け継ぐ側の想い・希望を擦り合わせてこそ、活きた資産の承継になると言えるでしょう。
③家族の希望や想いを実現するための施策を検討する(このまま何もしないで希望や想いが実現できるか検証する)
上記①により、現有資産と将来的な収支を把握することで、将来的に年金収入だけで(あるいは年金・賃料・株式配当金などの収入を含め)ある程度賄えるので、預金額を大きく減らさずに済みそうか、それとも毎月の収支が赤字になるので、預金を徐々に取り崩していかざるを得ないか、という予測を立てることができます。
また、このまま何の備えをしないで、上記②の希望や想いが実現できるのかということも確認できます。
この検証過程により、何の策も講じないことによるリスクが見えてきますので、将来において起こり得るお困りごとを未然に防ぐ手立て(施策)を検討することになります。
この検証は、家族信託・遺言・生前贈与・任意後見・法定後見・生命保険などの施策(選択肢)に精通した専門職にアドバイスを受けながら、“家族会議”において家族みんなで行う作業です。
④家族信託の設計を検討する
上記③で取り得る施策を検討した結果、「家族信託」が有効な手段だという結論になれば、家族信託に精通した法律専門職主導のもと、家族信託の設計と信託契約書の文案作成作業に入ります。
この工程もできる限り“家族会議”の中で、設計の検討と信託契約書素案の読合せ作業を重ねておくことになります。
この作業のための“家族会議”は、家族がみな理解・納得するまで何度でも行うことが理想です。
⑤信託契約公正証書を作成する
家族の理解・納得が得られ、信託契約書案が固まりましたら、公証役場に文案と資料を提示して、信託契約公正証書の作成の準備を進めてもらうことになります。
同時進行で、“信託口口座”を作成したい金融機関に対して、法律専門職の申込みにより信託契約書のリーガルチェック(法的整合性の有無の審査)を受けることになります。
金融機関のリーガルチェックを通過するタイミングを見計らって、公証役場に日時の予約をします。
予約当日は、契約当事者となる委託者及び受託者が公証人の面前で契約書に調印をすることになります。
⑥受託者による分別管理を開始する
信託契約公正証書が作成できましたら、各信託財産につき受託者への引渡しを行うことになります。
信託財産たる不動産については、登記簿上に管理を担う「受託者」の住所氏名を記載する信託登記をする必要があります。
信託財産たる金銭や有価証券については、既にリーガルチェックを受けている金融機関(銀行・証券会社等)で受託者が“信託口口座”を作成し、その口座に委託者たる親が送金・移管をすることで受託者の管理下に移すことになります。
【家族信託の実行までの所要日数】
一般的には、3ヶ月前後を一つの目安として考えていただいております。
とは言え、老親の体調悪化・認知症進行のリスクを踏まえ、緊急性があるかどうか、家族会議のスケジュール調整に難航するかどうかで大きく変わってきます。
緊急性があれば、最短で上記①~⑤の工程について最短で1ヶ月強で実行することも可能です。
その一方で、70歳代から80歳前後で緊急性が無い場合、保有資産が多い場合、家族関係が複雑な場合などは、何度も何度も家族会議を重ねて半年・1年以上かけてじっくりと実行まで漕ぎつける方もいます。
【まとめ・結論】
大事なことは、何度でも家族会議を開いで、家族内で情報を共有した上で、オープンな意見を出し合い、家族の全員が安心・納得できる結論を出すことだと考えます。
そうすれば、結果として、何の施策も実行しない(安心の老後と円満円滑な資産承継に向けて、特段新たな仕組みは作らない)という結論が出たとしても、その家族にとって、リスクやお困りごとが生じるリスクは少ないということになるでしょう。
もちろん、家族関係が一部破綻して、紛争性のある家族も少なくありませんので、その場合は、親世代と一部の子で、将来の紛争の火種をどう最小化するかに注力することもあります。
以上、本稿では家族信託の実行までの手続きの流れと一般的な所要日数につきご説明しました。
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